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権力の終末

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写真:ゴルディージョがオリエンテ刑務所の裁判官の前に出頭 (Xinhua)

ホセ・ヒル・オルモス
Proceso 2013/02/27

 オリエンテ刑務所第六法廷の接見場所の格子の向こうで、エルバ・エステル・ゴルディージョは沈黙を守った。法廷職員が被告人の権利を読み上げる間、ゴルディージョは神経質に、頭を左右に振り続けていた。結局、ゴルディージョは何も供述しなかった。その沈黙は、格子越しのいかなる反論よりも雄弁に物語っていた。カルロス・サリーナス政権が彼女を出世させたように、今、エンリケ・ペニャ・ニエト政権が、彼女の権力と帝国を取り上げることを。そして彼女自身、それを自覚していることを。それは、彼女が教育界を基盤として作り上げた帝国だった。

 教育労働組合のトップに立って24年間、エルバ・エステル・ゴルディージョは、新米から大物まで、多くの政治家や作家、新聞記者のキャリアを後押ししてきた。彼らはゴルディージョの夕食会に出席し、実入りの良い仕事や贈り物を求めて手を伸ばし、ゴルディージョは、彼女のプロジェクトを称賛するコメントや記事と引き替えに、気前よくそれを与えていた。

 しかしまた、ゴルディージョは高い地位に上りつめ、メキシコの歴代大統領を支えた人物でもあった。ゴルディージョを教育労働組合のトップに据えたカルロス・サリーナス・デ・ゴルタリにとって、ゴルディージョは政治的に有益な人物だった。それは、1994年、サパティスタ民族解放軍(EZLN)の蜂起による危機と、金融危機が起こった当時の、制度的革命党(PRI)の団結を維持するためだった。また、エルネスト・セディージョ政権時代には、分権化に基づく教育改革のまとめ役として役に立った。一方、国民行動党(PAN)のビセンテ・フォックス時代には、教育政策のみならず、各州における数々の選挙や下院議会における主導権にも一役買った。

 フェリーペ・カルデロン前大統領は、ゴルディージョの支援で最も利益を得た人物であり、ゴルディージョはその恩を高く売りつけた。論議を呼んだ大統領選挙において、選挙裁判所の見解が発表される前にカルデロンの勝利を叫んだのは、ゴルディージョだった。カルデロンの勝利を合法と認めたこの行為の返礼として、ゴルディージョは公務員社会保障庁(ISSSTE)、宝くじ公社(LOTENAL)、公共教育省(SEP)初等教育局、公安委員会事務局を手中に収めた。

 PRIによって作られ、PANによって出世街道を登りつめたゴルディージョは、時の政権のために働き、また、利用もした。

 実際、エルバ・エステル・ゴルディージョは、メキシコの政治システムとは切り離せない汚職装置の中で、重要な役割を果たしてきた張本人たちの一人であり、また、その汚職装置のキーパーソンとして、何代かの大統領の当選を後押ししてきた。しかしそれも、2011年11月、PRIのエンリケ・ペニャ・ニエトと新同盟党(PANAL)の創設者ゴルディージョが、同盟を解消するまでのことだった。ペニャ・ニエトの側近ルイス・ビデガライが、大統領選でのPANALの集票力がわずかであることを主張し、交渉が決裂したためだ。

 皮肉なことに、PRIの政権奪回は、ゴルディージョの時代の終わりを意味することになった。ゴルディージョはこの24年間で初めて、汚職と裏切りの政治体制の中で無益な人間になった。しかし実は、その政治システムこそが、ゴルディージョをあのような人物に仕立て上げたのだった。

 ゴルディージョは2000年以降、PRIを裏切ってきた。PRIのフランシスコ・ラバスティーダを後押しすべきところを、PANのビセンテ・フォックスを秘密裏に後援した。2005年には自身の政党を設立してPANのフェリーペ・カルデロンを後押しし、PRIから除籍された。

 ゴルディージョは政府のいくつかのポストについて、ペニャ・ニエトのPRIと交渉しようとしたが、PRIはそれを受け入れず、選挙市場におけるゴルディージョの力不足を思い知らせた。また、政治的にも、労働組合幹部としても、もはやゴルディージョは必要とされていなかった。

 権力の座から転落し、無用な人間となり、永遠に続くと思っていた権力を奪われたエルバ・エステル・ゴルディージョは、数年前、当紙のインタビューの中で、自分の墓に刻んでほしい言葉について語った。

 「思い切って挑戦した一教師が、ここに眠る。完璧な人間ではない。人生の場で、政治の世界で、失敗もしてきた。ただ、一つだけ言えることは、より良くなろうと常に努力してきたということだ」

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