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グローバル・クーデターTPP なぜひた隠しにするのか?

アンドリュー・ガビン・マーシャル *
Rebelion 2012/11/28 (Truth-out 英語版も参照)

 環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)は、歴史上、「最も機密性が高く」、「最も透明性の低い」貿易交渉である。

 この協定によって被害を受けることになる人々や社会にとって、幸いなことには、様々な公的な調査機関や、協定に反対する運動を行う非政府系メディアが存在しており、その上、TPP草案の数章のリークを、色々公表している。大手企業に支配された主流のニュース・メディアによって覆い隠されてきたこれらのリークによって、私たちは、TPPが現実に持っていることを、一層はっきりと理解することができるようになった。

 例えば、公的な利害関係を持つグループの中には、TPPによって、何百万人もの人々が職を失う可能性があることを、警告するものもある。議会がロン・カーク米国通商代表に送った手紙に指摘されているように、TPPは、「様々な分野において、将来の議会と関係がある政策を作り出す」ものであり、そこに含まれるものは、「労働、特許と著作権、土地の使用、食料、農業と農産物標準化、自然資源、環境、専門職の免許、国家所有の企業、各国政府の調達政策に関係することであり、また、金融の規制、医療制度、エネルギー、電気通信サービスや、その他のサービス部門についてである」

 言い換えれば、TPPは、「貿易」の問題にとどまるものではない。

 多くの人々から、「拡大NAFTA」とか、「巨大企業によるクーデター」だとか、あだ名を付けられているTPPは、全26章のうち、たった2章だけが、本当に貿易に関係する章である。それ以外の大部分の章では、TPPは巨大企業に、新しい権利と広範な特権の数々を与えている。それは特に、知的財産権(著作権や特許権に関する法律)や、各国政府が設ける規制を制限することに関係した権利である。

 漏えいした文書は、オバマ政権が、「多国籍企業に対して、新しい過激な政策決定権を与えようとしている」ことを明らかにした。というのは、オバマとカークが、ある種の政策の、強大な擁護者として現れたからである。その政策というのは、「環境活動家、金融改革の反対者、労働組合によって、ずっと以前から拒絶されてきたもので、その理由は、そうした政策が、各国の国内法による極めて重要な保護を損なうものだからだ」

 言い換えると、現行の環境、金融、労働に関する諸規制は、すでに効果も効力もなく、オバマ政権と、オバマ政権に指令を出しているTPP賛成の巨大企業600社にとっては、受け入れがたいものになっている。

 合意の草案は、米国で活動する外国の巨大企業が、環境の保護や金融、労働者の権利に関する米国の国内法に、もはや縛られないということ、そして、「国際裁判所」に提訴することができるようになるということを規定している。その「国際裁判所」は、巨大企業の新しい「権利」の侵害を理由に、米国の法律を無効にし、米国に制裁を科す特権を持つことになる。

 各国の法律に影響を与える「国際裁判所」は、「裁判官」の役割を果たす巨大企業の法律家たちで構成されるであろうし、そうすることで、提訴された事案が、「公正でバランスのとれた」裁判を受けることを保証している。しかしそれは、他の何よりもまず、巨大企業の権利にとって、「公正でバランス」がとれている、ということである。

 「市民貿易キャンペーン」という公的な利害の関係者の連合が、TPPの「投資」に関する章の草案を公表した。そこでは、「国際裁判所」についての情報が明らかにされている。それによると、「潜在的な利益」に対して障壁を設けている政府を、巨大企業が直接提訴することを、「国際裁判所」が認める可能性がある。

 「市民貿易キャンペーン」のアーサー・スタモーリス執行理事の説明では、草案は、「国内企業や米国市民が持つ権利よりも、はるかに多くの特権を、巨大多国籍企業に与えるための提案を、明白に含んでいる。環境に関する規制、消費者の安全、その他の公的な利害に、これほど広範に影響する提案は、綿密な調査と公の議論に値するものだ。非公開で作成されるべきものではない」

 公的な利害のための市民団体「パブリック・シチズン」の一部門である「グローバル・トレード・ウォッチ」は、草案の投資に関するリークを分析した。それによると、「巨大企業のための国際裁判所」は、巨大企業が国内の法律や規制を無効にすることや、巨額の賠償金請求のために国際裁判所に提訴することを認める可能性がある。そして、国際裁判所は、TPPの要求に従って、政府の国庫金を外国人投資家に支払うことを、金額の上限なしに命じる権限を与えられている。

 NAFTAの下でさえ、NAFTA加盟国政府から巨大企業へ、投資の「権利への障壁」に対する賠償として、3億5000万ドル以上が支払われた。その「障壁」には、有毒廃棄物の廃棄場や樹木伐採の規制、様々な有毒化学製品の禁止などが含まれていた。

 それというのも、ここではっきりさせようと思うが、巨大企業にとっては、健康や安全、環境に関するそのような規制や懸念は、単に投資と利益に対する「障壁」としてしか、受け取られないからだ。従って、彼らの「政府」は、巨大企業に代わって、外国の政府を提訴することになる。提訴は、そのような規制が、得るはずであった利益を失わせたという前提に基づいており、それ故、巨大企業に対して補償しなければならなくなるというのだ。

 TPPでは、巨大企業は、直接、当該国の政府を提訴することができる。TPPの参加国のうち、オーストラリア以外のすべての国々は、この国際裁判所の法制に同意することを承諾した。この裁判所は、選挙で選ばれたものではなく、反民主主義的で、巨大企業によって人員を送り込まれた、いかがわしい裁判所であるが、少なくとも10カ国とその国民に対しては、法的権限を有しているのである。

 その上、TPP参加各国は、巨大企業が果たすべき、健康、労働、環境の基準に関する一連の義務を、まだ受け入れていない。従って、巨大企業が、略奪し、搾取するために、より多くの権利と特権を取得する余地が残されている。巨大企業の権利が拡大される一方で、人権と民主主義の権利は剥奪されるのである。

 TPPが大きな影響を及ぼす最も重要な分野のひとつは、知的財産権、すなわち著作権と特許権に関連することである。巨大企業は、知的財産権一般というよりも、自らの知的財産権の拡大を強く擁護してきた。

 巨大製薬企業は、これらの権利の強い支持者であり、おそらくは、TPPの知的財産権に関する規定によって、大いに利益を得るものたちのなかに入るだろう。製薬産業は、1995年の世界貿易機構の協定に、厳しい特許の規定を盛り込ませることに成功した。しかし、結局は、それらの規定が十分に厳格なものではない、と考えるに至った。

 米国の経済学者ディーン・ベイカーは、「ガーディアン」紙で、次のように説明している。特許の最も厳しい規定は、「しばしば14年もの間、政府によって保証された独占権」を確立していることである。その独占権は、「別の企業が医薬品の安全性と効能を証明した調査結果に基づいて、競争相手のジェネリック薬品企業が市場に参入することを禁止するのである」。ベイカーは、そのような法律は、実際には「自由貿易に相反するもの」であると指摘した。というのは、「市場における政府の介入が増すことを意味している」からであり、また、「競争を制限し、消費者価格をより高い方へ導く」ものだからだ。

 必然的にこのことは、次のことを意味する。貧しい国々では、より多くの人々が、命を救う医薬品を、低価格で入手することが必要であるが、そうした国々において、巨大多国籍企業の特許により保護され成功した医薬品のジェネリック薬品を、製薬会社や政府が、より低価格で製造、販売することが、できなくなるであろう。このような協定は、巨大企業に、価格を支配する独占権を渡してしまうことになり、巨大企業が適切だと考える価格を設定することを可能にし、そうすることによって、医薬品は信じられないほど高くなり、しばしば、それを最も必要とする人々の手に届かないものとなってしまうであろう。

 米国のヘンリー・ワクスマン下院議員が的確に指摘したように、「世界の多くの地域において、ジェネリック薬品へのアクセスは、生か死かの違いを意味している」

 TPPは、そのような巨大企業の特許権を、歴史上の他のどのような協定よりも、拡大することが予想される。ベトナムやマレーシアなどの国々においては、ジェネリック薬品メーカーは、影響を受けることになるだろう。また、世界のほとんどの地域にジェネリック薬品を低価格で供給している米国、カナダ、オーストラリアの大手ジェネリック薬品メーカーの売り上げにも、影響を及ぼすだろう。

 米国政府が、巨大製薬企業と、医薬品の価格を交渉する権利を放棄した(そのため、米国において医薬品は法外な価格となった)一方で、ニュージーランドや、小規模ではあるがカナダのような国々が、消費者のために低価格を維持する目的で、医薬品の価格を交渉している。TPPは、政府が医薬品の価格が高いことを問題にしたり、より低価格の代替品を選んだりすることを決定した場合、それを、巨大企業が提訴できるように、巨大企業に新たな特権を与えるものである。これらの変化について、「国境なき医師団の必須医薬品キャンペーン」の米国における責任者は、「この点に関しては、ブッシュはオバマより、ましだった」と述べている。

 しかし、TPPの脅威は、これらの側面だけにとどまらない。インターネットの自由も、その重要な標的である。

 インターネットにおける自由を強く擁護している「カナダ市民会議」と「オープンメディア」は、TPPが、「インターネットの一般的な使用の一部を違法とするだろう」と指摘している。違法化される行為の中には、音楽のダウンロードや、様々なメディアの仕事を組み合わせることが含まれる。TPPは、「プライバシーが保護されていない個人データを集め、提供することを、インターネット・プロバイダーに義務づける。また、巨大メディア企業に、より大きな権限を与え、電子メールで罰金を科したり、オンライン・コンテンツを(ウェブ全体でさえ)削除したり、インターネット・アクセスを切断することさえ、可能とするだろう」と、オープンメディアは警告している。

 TPPの知的財産権に関する章も、インターネットの使用を規制するために制定しなければならない新しい法律を、各国政府に押し付けている。オープンメディアもまた、警告していることは、知的財産権についてリークされた文書によると、「一般的で普通のネット使用住民に、多額の罰金が科されるかもしれない」ということである。さらに、「リンクをクリックしたことで、罰金が科されるかもしれないし、その人がネットから排除されたり、ウェブ・ページが閉鎖されるかもしれない」と警告した。

 オープンメディア創立者のスティーブ・アンダーソンは、TPPは、「イノベーションや表現の自由を制限する」と指摘した。TPPの下では、商業著作権の侵害と、非商業著作権の侵害について、区別は存在しない。従って、個人利用の目的で音楽をダウンロードする利用者たちが、営利目的で海賊版の音楽を売る人たちと、同じ処罰に直面する可能性がある。

 ソーシャル・ネットワークのサイトの中に書き込まれたり、共有されたりした情報によって、インターネット利用者が罰金を科されたり、そのコンピューターが没収されたり、インターネット・アクセスを切断されたり、さらには懲役を宣告されることになるかもしれない。TPPは、著作権侵害に対して「スリー・ストライク」制度を課すものである。それによると、違反三回で、家族すべてのインターネット・アクセスが切断されることになる。

 それなら、なぜそれほど、ひた隠しにするのか? 巨大企業と政治の政策決定者たちは、世論を間近から検討している。彼らは、大部分の人々が考えたり思ったりすることに基づいて、民衆を操る方法を知っている。「自由貿易」協定のこととなると、世論によって、協定の交渉者たちは、非公開で前代未聞の秘密に追い込まれざるを得なくなっている。まさに国民が、そのような協定に、圧倒的に反対しているからである。

 2011年に行われた世論調査が明示していることは、米国民が、この数年間だけで、NAFTA形式の貿易協定に対して、「広範な反対」から「圧倒的な反対」へと、変わったことである。

 2010年9月の、NBC・ニュースとウォール・ストリート・ジャーナル共同の重要な世論調査では、「貿易と、業務の外部委託(アウトソーシング)の影響は、階層、職業、政治的意見が異なるアメリカ国民が、意見の一致をみる、数少ないテーマのひとつである」ことが、明らかになった。それによると、86%の人々が、米国企業側の仕事を、貧しい国々にアウトソーシングすることが、「自分たちの経済困難の主要な原因のひとつ」であると述べている。また、69%の人々が、「米国とその他の国々との間の自由貿易協定が、米国における雇用を犠牲にしている」と考えている。2010年には、わずか17%の米国民が、「自由貿易協定」は米国にとって利益になると考えている。これは、比較すると、2007年には28%であったのである。

 世論は強力に、そして日増しに、「自由貿易協定」に反対していることから、人々にTPPのような協定を知らせないようにして、人々が単純に、積極的に反対するに留めるために、秘密にしておくことが必要になるのである。そしてこれは、米国のカーク通商代表が説明したように、すべての秘密の、非常に「実際的な」理由である。

* アンドリュー・ガビン・マーシャルは、カナダのモントリオールを拠点とするフリーの研究家、ライター。社会、政治、経済、歴史などのテーマについて執筆。People’s Book Projectマネージャー。

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