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女性たちが安全な街をつくる

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写真:第9回世界都市フォーラムに参加した活動家や都市の市長たち。2030年までに、すべての年代の女性にとって都市が安全な場所となるよう、掲示板に署名した。 (Manipadma Jena / IPS)

 新聞記者のシバ・クリアンさんは、インド南部の都市チェンナイで電車を降りた。駅の外は、大勢の人がひしめき合っていた。クリアンさんはタクシーを呼んだが1時間待たされ、その間、そばにいた男性数人のグループからの不愉快なコメントや笑い声に悩まされた。そして、ある行動をとることに決めた。

 翌日、クリアンさんは、その駅に再び降り立ち、位置情報機能が付いたスマートフォン・アプリ「セーフティピン」を開き、「安全ではない場所」をクリックした。こうすることで、セーフティピンを利用する女性がこの近辺を通るときに、アラートが届くようになる。

 セーフティピンの作成者の一人であるカルパーナ・ビスワナさんは、マレーシアのクアラルンプールで2月7日から13日まで行われた第9回世界都市フォーラムで、IPSの取材に答えた。「安全は、社会問題のひとつです。安全な都市とは、警備員や監視カメラがある都市のことではなく、女性をはじめ、人々が恐怖を感じることなく、公共のスペースを利用できる都市のことです。都市が安全であれば、女性は社会的・経済的な活動をもっと安心して行うことができるため、女性が力を持つことにつながります」

 第9回世界都市フォーラムは、「2030年の都市はすべての人のための都市:ニュー・アーバン・アジェンダの実行」をテーマとして、国連ハビタットが開催し、165カ国から2万2000人が参加した。

 2030年の都市についてのクアラルンプール宣言は、世界中のどの都市も誰も取り残されることがないよう、監視していくことを定めている。国際社会は、このクアラルンプール宣言が各地で実行されるように、協力していかなければならない。

 2016年にエクアドルのキトで開催された第3回国連人間居住会議(ハビタット3)では、持続可能な開発目標の5番(ジェンダー間の不平等の排除)と11番(安全で持続可能で回復力のある、受容的な都市づくり)を受けて、「ニュー・アーバン・アジェンダ」が採択された。今回の世界都市フォーラムは、このニュー・アーバン・アジェンダの採択後、初めてのフォーラムとなった。

 都市は今後、主にアジア、アフリカ、ラテンアメリカ・カリブ海で拡大し、2030年には、世界の人口の6割が、都市部に居住するようになると予想されている。

 しかし、有史以来初めて、地球上の人口の半分以上が都市に住むようになった現在、都市は人口、環境、経済、社会、空間などのかつてないほどの問題に直面している。多くの国の女性にとって、街を安全に移動することは、とても困難なことだ。そのため、女性たちは、その能力を十分に発展・活用することができない。

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写真:世界都市フォーラムに参加したマレーシア人女性。後ろの写真は、2020年に次回のフォーラムが開催されるアブダビ。女性のための安全対策の成果が検証される。 (Manipadma Jena / IPS)

公共スペースの治安の悪さが、女性の経済力向上の妨げになっている

 NGOのプラン・インターナショナルが Because I am a Girl キャンペーンのために行った調査では、世界5都市の1000人のティーンエイジャーが、性犯罪をおそれて通れない道があると回答した。ニューデリーの少女の中で、公共交通機関の利用時に常に安全だと感じると回答したのは、わずか3.3%だった。一方、ウガンダのカンパラの少女の45%が、セクハラを受けたことがあると答えた。リマでは、公共のスペースで常に安全だと感じる少女は、2.2%だった。

 前出のセーフティピンは、無料のアプリで、すでに20カ国の8万5000人がダウンロードしている。利用者の大部分は、インドの大きな都市やマニラ、ナイロビ、ジャカルタ、ボゴタに住む人々だ。使い方は簡単だ。冒頭でクリアンさんが行ったように、暗くなったときにどの程度安全だと感じられるかについて、9個の判定条件を評価する。

 判定条件は、(1)照明が明るいか、(2)逃げ場のある場所か、(3)人や物がはっきり見える場所か、(4)人通りがあるか、(5)警察官や警備員がいるか、(6)歩道があるか、(7)公共交通機関があるか、(8)女性がいるか、(9)その場所にいて安全だと感じられるかの9個となっている。最も重要な条件は9番目だ。

 このアプリは、利用者から寄せられたデータをもとに、最も安全なルートを含む複数のルートを表示し、ルートを選ぶと、グーグル・マップが開くようになっている。

 セーフティピンのスタッフのビスワナさんは、GPSトラッキングのオプションを常時オンにし、夫のスマートフォンから位置情報を追跡できるようにしている。ニューデリーの空港から遅い時間にタクシーに乗るときに、リアルタイムでタクシーを追跡することができるからだ。

 多くの女性は、自立して親元から離れると、安全面の心配をするようになる。セーフティピンのユーザーも、大部分は25~40歳の女性だ。「おもしろいことに、もっと若い18~20歳の女性たちは、親元に住んでいる間は、自分の安全についてそれほど心配しません。彼女たちの心配をしてセーフティピンをダウンロードするのは、もっぱら親たちです」と、ビスワナさんは述べた。

 また、セーフティピンには、都市の夜間の写真を車からリアルタイムで撮影するセーフティピン・ナイトというアプリもある。この夜間の写真とユーザーから寄せられた情報、グーグルのビッグデータを組み合わせると、科学的な根拠のある専門的なデータとなり、政府の治安対策に活用することができる。実際、ニューデリーでは、セーフティピンによって7800カ所が照明不足と判定され、政府が街灯を設置した。ボゴタでは、セーフティピンとボゴタ政府が協力して、230kmの自転車専用道路を作った。自転車専用道路には、女性の安全を考慮して街灯が設けられ、自転車置き場には、監視カメラが設置された。

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写真:観光に訪れたティーンエイジャーが、安全に歩くことができるマレーシアのジョージタウン。ユネスコの世界遺産に登録され、観光客が増加したため、女性の安全を守る対策が取られている。 (Manipadma Jena / IPS)

ティーンエイジャーたちがつくる安全な街

 プラン・インターナショナルのデータによると、「発展途上国では、毎月500万人が、都市へと移住している。2030年には、都市に住むティーンエイジャーは、15億人に達する。しかし、そのことが都市の治安政策で考慮されることは、ほとんどない」

 そこで、プラン・インターナショナルでは、治安を改善して受容的な都市をつくるために、ティーンエイジャーたちが、ハイテク機器を用いて活動に参加している。ハノイで参加したティーンエイジャーは、3人に1人が、エマージェンシー・サービス(特に警察)を利用することができなかった経験があった。

 クアラルンプールの都市フォーラムに参加したランさんとリンさん(共に仮名)は、夜間に街を歩く実験をした。目的は、危険な場所を把握することと、女性が公共の場で安全に過ごす権利についての自覚を促すことだ。

 また2人は、公共交通機関の運転手や車掌約8000人にパンフレットを配り、女性の安全を守るのは彼らの責任でもあるというメッセージを伝えた。クアラルンプールの政府も、2人の少女が行った活動に関心を示し、バスの中にカメラを設置することや、混雑緩和のための対策をとることが決められた。

 ニューヨークに本部がある交通開発政策研究所の詳細なパンフレットによると、一般的に、公共交通機関を考えるに際し、ジェンダーの視点が欠けていることが多い。なぜなら、公共交通機関の利用時に、女性にとって、より多くの困難があることが、理解されていないからだ。「都市の交通機関が、女性にとって安全・快適・便利で利用しやすいものとならなければ、持続可能な都市の発展は不可能だろう」

マニパドマ・ジェナ (英西翻訳:ベロニカ・フィルメ)
IPS 2018/02/22

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