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CEPAL2016年メキシコ経済速報

国連ラテンアメリカ・カリブ海経済委員会(CEPAL)

 国連ラテンアメリカ・カリブ海経済委員会(CEPAL)は、2016年のメキシコの経済成長率を、2015年に記録された数値、2.5%を下回る2%と推計する。減速の直接的な要因は、米国の製造業部門(メキシコの輸出に密接に結びついている)の不振や、不安定な国際的経済・金融情勢、貿易収入(主に石油部門)と公共投資の減少などである。これらの要因によって、2016年下半期の国内の消費が縮小した。2016年の年間インフレ率は、メキシコ中央銀行が設定したインフレ目標の範囲内(2-4%)の3.3%前後、全国的失業率は、4%(前年の平均は4.4%)と予測する。財政赤字は、GDP比で前年の3.5%を下回る3%前後、国際経常収支の赤字は、GDPの3%前後(前年は2.9%)になるとみなされる。

 2016年のメキシコの財政政策は、拡大的ではあったが、前年ほどではなかった。2016年1-9月の財政赤字は、前年同期と比較して、実質44.2%減少し、GDPの1.3%となった。2016年1-9月の公的部門の歳入は、非石油部門の収入の好調(15.1%増)に推進されて、前年同期と比較して12.3%増加した。傑出していることは、2013年の財政改革や管理の強化により、税収が11.2%増加したことと、メキシコ中銀の剰余金(GDPの1.3%に相当する)を含む税外収入が増加(12.6%)したことである。これらの成果により、政府の石油収入の実質30.4%の減少を補うものとなった。

 2016年1-9月の公的部門の純支出額は、前年同期と比較して、実質4.6%増加した。この数値には、メキシコ石油公社(PEMEX)への1,607億3,100万ペソ(88億7,200万ドル)の政府支援金と、予算歳入安定化基金(FEIP)への700億ペソ(37億3,300万ドル)の充当金が含まれている。PEMEXへの支援金の大部分は、未払い金の支払いに充てられる。この二つの項目は、非経常的経費である。歳出で目立つ点は、年金・退職金の支払い増加(6.8%)によって計画的支出額が3.2%増加したことと、予算削減のために財政投資が12.7%減少(1995年以降最大の減少)したことである。

グラフ:メキシコ GDP、インフレ、失業率推移 2014-2016年

左軸:四半期ごとのGDP推移、右軸:12カ月のインフレ及び都市失業率
青色:GDP、赤色:インフレ率、黄色:失業率
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出所:公的数値にもとづきCEPAL作成。 T1-T4は、それぞれ第1-第4四半期を意味する。

 2016年9月時点の公共部門の純債務は、GDPの47.6%であった。大蔵・公共融資省(SHCP)は、2016年末の公共部門の歴史的な債務残高(最も広い範囲の国の債務を算出したもの)の予測を、GDPの50.5%に修正した。これは、ドルが上昇したこと(この影響はGDPの0.9%に相当する)や、国家公務員社会保険庁(ISSSTE)、PEMEX、メキシコ電力公社(CFE)の年金制度改革(この影響はGDPの1.8%に相当する)が、大きく影響したためである。この債務残高のGDP比は、現政権が発足した2012年末より、13%増加している。債務残高は著しい増加傾向にあるが、メキシコ政府は、これを債務残高のピークとみており、2017年以降減少しはじめると予測している。

 2016年2月17日並びに6月24日、大蔵・公共融資省は、2016年の予算の歳出を削減することを発表した。2月17日は、財政収支を改善するために、GDPの0.7%に相当する歳出を削減、6月24日は、イギリスのEU離脱(ブレグジット)についての国民投票の結果から生じた金融不安に対応するために、GDPの0.2%に相当する歳出を削減した。2016年10月、上院は、2017年の歳入法案を可決した。この法案では、GDPの1.2%に相当する経費節減と歳出削減により、プライマリー・バランスは、GDPの約0.4%の黒字に達すると見積っている。

メキシコ 主要経済指標 2014-2016年

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出所:公的数値にもとづきCEPAL作成

 2016年4月、国会は、財政収支を持続可能なものにするため、連邦・基礎行政区財政規律法を可決した。

 通貨問題に関しては、メキシコ中銀政府委員会は、2016年2月16日、6月30日、9月29日、11月17日の金融政策決定会合で、銀行間利子率を目標設定日にそれぞれ50ベーシスポイント(0.5%)引き上げ、4回の引き上げにより5.25%になるように決定した。引き上げの理由は、原油の国際価格の下落、ブレグジット、米国の選挙結果、予想されるインフレを経済活動に固定して抑制する必要性からくる国際金融市場の不安定性であった。2016年末に、金利が再び引き上げられる可能性もある。今後、通貨政策は、緩やかに引き締めの方向へ向かう可能性も否定されない。

 2016年9月の商業銀行による民間部門に付与された現行融資の実質成長率は、前年同月より11.2%増加した。融資の主要な部門である住宅、消費、企業の増加率が、前年同月の増加率をわずかに下回ったものの、それぞれ実質7.3%、9.5%、13.9%増加したことが大きかった。融資が増加した要因は、主に、金融改革などによって融資が促進されたことと、実質可処分所得が高かったこと(低インフレ率と、海外からの多額の送金による)であった。クレジットカードや担保付融資の金利は、2016年8月末時点で、平均貸出金利で26.4%(実質23.2%で、前年より3%上昇)であった。一方、諸銀行の期間付き預金のコストとして定められている預金金利は、名目で3.6%(実質0.9%で、前年より0.5%上昇)であった。

 2016年11月30日、メキシコペソは、2015年末と比較して、対米ドルで名目18.9%(実質15.5%)の下落を記録した。主な要因は、米国で行われた選挙、原油の国際価格の下落、国際金融の不確実性、軟弱な世界経済であった。2016年2月、メキシコ中銀の為替委員会は、公共支出削減と目標として設定された通貨政策金利の引き上げに加えて、従来のドル売却制度を中止して直接市場に介入することを決定した。2016年11月25日、メキシコ中銀は、メキシコの外貨準備高が、2015年末より1.5%低い、1,740億7,800万ドルであることを発表した。また、IMFからの700億ドルの予防的クレジットラインも、引き続き有効とされている。

 2016年1-9月の総輸出額は、非石油部門の輸出が2.1%、石油部門の輸出が28.1%減少したことから、前年同期より3.8%減少した。非石油部門の輸出のうち、米国向け輸出(輸出合計の81.1%)は3.3%減少し(米国の産業活動の不振の結果)、米国以外への輸出は5.7%減少した。2016年1-9月の総輸入額は、非石油部門の輸入(-2.1%)と石油部門輸入(-12.8%)の大幅な減少のために、3.1%減少した。消費財、中間財、資本財の輸入は、前年同期よりそれぞれ8.1%、2%、4.3%減少した。2016年1-9月の貿易収支は、累計で124億2,500万ドルの赤字で、前年同期より15.6%増加した。2016年の交易条件は、約8%低下する見込みである。2015年末は、13.5%の低下であった。

 2016年1-9月の外国からの家族送金額は、200億4,600万ドルに達し、前年同期より7.7%増加した。この送金によって、2016年第3四半期末の国際収支の経常収支赤字は、GDPの2.2%に相当する230億8,600万ドルとなった。一方、2016年1-9月の金融勘定の資金調達は、211億9,500万ドルとなり、前年同期より11.7%減少した。その要因は、外国直接投資の資本流入が前年同期より23%減少し、197億7,300万ドルとなったことと、4年連続して資本の流出が見られたことであった。2016年1-9月における外国直接投資以外の投資資産の引き揚げは、前年同期より45%増加し、231億9,300万ドルであった。

 2016年12月5日、メキシコ湾深海石油探査・開発の一般競争入札(第一ラウンド第四期))が行われた。入札は、大きな成功を収めた。というのは、国家炭化水素委員会(CNH)が入札を行った10鉱区のうち、8鉱区が落札されたからである。これによって、35年から50年にわたって、約410億ドルの投資と、現在の原油生産日量の40%にあたる約90万バレルの増産を、見込める可能性がある。

 メキシコ地理統計局(INEGI)のデータによると、2016年第1-第3四半期の経済成長率は、平均2%(季節調整値)であった。産業大分類別の成長率は、第一次産業が平均2.4%、第三次産業が3.1%であったのに対し、第二次産業の成長はゼロにとどまった。2016年1-9月の総固定資本形成は、平均でわずか0.2%しか増加せず、国内消費は、主に消費と公共投資の伸びが低かったことから、減少の兆しが見えた。

 2016年1-10月の全般的なインフレ率は、諸エネルギー製品の値上げや公共財・公共サービス料金の値上がりのために、3.1%となった。コアインフレ率は3.1%であった。生産者物価指数(サービス部門含む、石油部門を除く)は、前年同月は4.9%であったが、6.3%となった。このことは、消費者物価の上昇に圧力をかけるものであった。依然として消費者物価への為替レートの限界的な影響が見られるが、それは、主に、在庫の存在と、供給者と生産者により価格の上昇が吸収されたことによって説明される。

 2016年第3四半期末の9月までの平均失業率は、経済活動人口の4%となり、2008年以降最も低い水準であった。また、不完全雇用の割合は、就業者の7.8%となり、前年同期の8.3%を下回った。インフォーマル労働は、堅実な正規雇用プログラムの実施によって0.5%減少し、平均57.3%となった。2016年の最低賃金は、名目で4.2%増加し、2016年1月1日以降、日給73ペソとなった。労使協約賃金は、緩慢なインフレにより、年間平均で実質1.2%増加する見込みである。

 CEPALは、2017年のメキシコの経済成長率を1.9%前後と予測する。理由は、米国の経済政策の展開とそのメキシコ経済への影響が不確実であること、また石油による公的収入の減少の結果、投資や公的経費が減少することである。米国との貿易関係の極度の悪影響を受けること、また国外の金利の著しい上昇をうけて国際金融情勢が変化することから、メキシコ経済の成長が低下するリスクがある。2017年のインフレ率は4%前後、失業率は2016年と同様の水準となる見通しである。公的部門の財政赤字はGDPの2.5%前後に減少、国際収支の経常赤字は2017年末にはGDPの3%近くの水準に上昇すると予想される。

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