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メキシコの地ビール

メキシコの地ビールは、20世紀の終わりに、中央部で生産・消費されるようになりました。今日では、地ビールの魅力は、メキシコ全体に伝わっています。メキシコの地ビールの歴史と秘密をお伝えします!

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写真:メキシコの地ビールの生産者たちは、外国で好まれる後味を、メキシコの人々の味覚に合うように改良しました。(Vivian Bibliowicz)

カルロス・ラモン・モラレス
MexicoDesconocido

 小規模のビール醸造業者たちは、メキシコの地ビールのパイオニアは、伝説の"コサコ"を作ったグスタボ・ゴンサーレスさんだと、口をそろえて言います。ゴンサーレスさんは、1995年、米国人のビール職人に触発されて、ビール造りをはじめました。2000年には、自身のブランドも作りました。「コサコは、大麦麦芽を使った、クリームのように滑らかで、とても純粋なビールです。瓶詰めにはしたくありません。なぜなら、コサコは樽で生まれたビールだし、瓶詰めにすれば、樽のビールとは違いが出てしまうと思うからです」

 コサコには、黒、赤、白の3種類があります。黒は、「暗色のビールは高品質」という一般の認識を裏切らないものになっています。赤は、ローストした麦芽とフルーティーな風味の遊び心あふれる味わいです。白は、他の色のビールでは出せない味わいを持っています。「飲み始めは、はちみつのような風味で、後味には、ほのかにホップの苦みがあります。泡は濃厚で、他の色のビールにはない味わいを持っています。水っぽいラガーとは、まったく異なるものです」

 地ビールの持つ神秘的な魅力を大切にしているゴンサーレスさんは、コサコの販売が小規模な市場に特化されていることに誇りを感じています。「コサコは、酔っ払うために飲む18歳かそこらの若者も、テクノ・ミュージックも、存在しないところで販売される方がいいのです。コサコが1杯60ペソ(500円前後)だったら、飲む人は、酔っ払うためではなく、堪能するために飲むでしょう」

フレーバー・ビール

 メキシコ州トラルネパントラには、二つの地ビール、"カラベラ"と"ジャック"の醸造所があります。それぞれの作り手が、それぞれの道を歩んで作ってきた地ビールは、二つとも、試してみる価値があります。

 ビョルン・ジルベル・ニールセンさんは、デンマークの自家製ビールのコンクールで優勝した後、2008年にカラベラを作りました。カラベラの地ビールの特徴は、通常のビールに、一味違う風味が加えられていることです。「"メキシカン・インペリアル・スタウト"は、チョコレートやコーヒーを感じさせる黒ビールですが、モリータ、アンチョ、グアヒージョ、チポトレなどのトウガラシが入っています。モーレ(*1)と組み合わせるために作りました。」 また、"ジューレ"も、絶対にはずせないビールです。ジューレはベルギー風のビールで、アンズ、テホコテの果実、サトウキビなど、ポンチェ(*2)の材料を加えて作ります。「ジューレを作っているときは、町中にクリスマスの香りが漂っています。」 "ラ・サンクトゥム"は、コショウ、アニス、ナツメグを加えた白ビールです。

 カラベラが目指しているのは、メキシコ国内での自給です。通常、大麦麦芽は、米国、英国、ドイツ、ベルギーから輸入しますが、カラベラでは、メキシコ産のものを使用しています。また、カラベラのビール製造に参加できるエヒード(*3)と協力して、太陽光発電や風力発電を用いて製造することも目指しています。10年後の目標は、年間生産量100万リットルです。

 "ジャック"は、ホセ・モラレスさんと妻のクラウディア・リベラさんの「独立して商売を始めたい」という願いから生まれました。ある暑い日、モラレスさん夫婦はビールを買い、ビール造りはどれくらい難しいだろうかと話し合いました。二人は自家醸造ビールの存在を知り、その当時、メキシコでただ一人、自家醸造の設備を持っていたエクトル・マルドナードさんから、1台目の自家醸造キットを購入しました。「最初は大失敗でした。すべて腐ってしまったのです。発酵をコントロールしなければならないのですが、これが問題で、うまくコントロールできないと、酢になってしまいます」と、モラレスさんは話してくれました。マルドナードさんが1種類のビールに絞るようにアドバイスしてくれるまでの間、自家製ビール造りという冒険的な試みは、残念な結果に終わっていました。そんなモラレスさんを励まし、ほかでもない、ビールの本場アイルランドに送り込んだのは、妻のクラウディアさんでした。

 モラレスさんは、アイルランドで一軒のパブを見つけました。そのパブのビール職人は、仕事を手伝ってくれれば、ビール造りを教えてあげると約束してくれました。モラレスさんは床やトイレを掃除し、テーブルを拭き、酔っ払いをあしらい、ついに8日後、醸造所に入って、後にメキシコに持ち帰ったレシピを教えてもらうことができました。「そのビールはインペリアル・スタウトで、アイルランドでは、ロシアの皇帝に送るために作っていました。メキシコの消費者はこれほど濃く苦いビールになれていないため、このビールを少し薄めることにしました。そこで、私たちは、再び大掛かりな設備投資をしたのです」

 ジャックには、ポーターとスタウトの2種類があります。まもなく、マンゴーの果肉を発酵させたヴァイツェンも発売する予定です。「4種類のジャックを作るつもりです。以前のような失敗はしたくありません」と、モラレスさんは語りました。モラレスさんは、自分は味覚よりも嗅覚のビール職人だと打ち明けました。「クラウディアが試飲するのです。彼女が味をチェックし、私はいつも香りをチェックしています」

企業が造る地ビール

 地ビールの醸造は、個人のプロジェクトによるものだけとは限りません。企業の経営者たちも、グループを作って、独自の地ビールを造る醸造所を併設したレストラン・バーをオープンしています。1997年に誕生したビア・ファクトリーは、すでに多くの店舗を展開していて、そのすべてに、ビール醸造所が併設されています。店舗は、首都圏のサンタフェ、クイクイルコ、ムンドEなどの商業施設にありますが、プエブラ州やハリスコ州にも進出し始めています。ビア・ファクトリーのビールは、"メディテラネア"(ライト・エール)、"コロネル"(ピルスナー)、"サンタフェ"(ヴィエナ)、"コヨーテ"(ペール・エール)、"ルナ・ジェナ"(アイルランド・スタウト)の5種類ですが、それ以外に、フレーバー・ビールもあります。

 ビア・ファクトリーの品質管理責任者ラファエル・ガリンドさんは、「ビア・ファクトリーでは、午前7時から午後3時までの間にビールを造ります。レストランは正午に開店しますが、その時間に来られたお客様には、ご希望であれば、ビール造りの見学をご案内しています」と話してくれました。ガリンドさんによると、ビア・ファクトリーのビールは地ビールなので、ドイツで1516年に制定されたビール純粋令にのっとって醸造されています。「ビール純粋令では、地ビールの製造に使用できる材料は、大麦麦芽、水、ホップ、ビール酵母の四つだけと定められています。ビア・ファクトリーでは、大量生産はせず、少量ずつを無添加で製造しています。」 レストラン・バーに足を運ばなくてもビア・ファクトリーの地ビールを飲むことができるように、まもなく、瓶詰めでも販売される予定になっています。

 地ビール"テンプス"を製造するプリムス社は、同業者組合のような企業形態をとっています。プリムスのモットーは、"自由なビールのために"。プリムスのアイデンティティーを鮮やかに表現したこのモットーの下に、国内の小規模な醸造所が集まりました。プリムス代表のロドルフォ・アンドリューさんは、それらの醸造所を率いるために、まずは独自のビール・ブランドを作り出さなければなりませんでした。このブランドを出発点とし、地ビールの醸造や専門のレストラン・バーの開店など、プリムスの企業プロジェクトが展開されていきました。「2004年10月、ビール造りを開始し、2006年、いとこと共にプリムスを立ち上げました。1年後、"テンプス・アルト"が市場に出ました。2008年10月、アルコール度が高くコクのあるインペリアル・アルトビール"テンプス・ドブレ・マルタ"を発売しました」

 地ビール専門のレストラン・バー"エル・デポシト"や"ラ・グラシエラ"のオーナーたちや、プリムスを立ち上げた人たちは、彼らの地ビールを、ワインのような質の高い飲み物として提案しています。そのため、レストランのメニューにワイン・リストがあるように、ビールを種類ごとに載せたビール・リストもあった方がいいと考えています。

 地ビールを飲むことができるのは、メキシコ市だけではありません。メキシコ市以外でも人気が出てきている地ビール・ブランドがあり、グアダラハラ、バハ・カリフォルニア、モンテレイには、大型の店舗もあります。いずれの場所でも、地ビールの味、のどごし、刺激、香りは、心地よくハーモニーを奏で、五感に働きかけてきます。この体験は、メキシコの人々の味覚をとりこにし、地ビールの存在感がますます強くなってきています。

地ビールを飲める場所

エル・デポシト (バル)
メキシコ市コンデサ地区バハ・カリフォルニア375番地

ラ・ベルガ (地ビール販売)
メキシコ市ローマ・ノルテ地区オリサバ通りとケレタロ通りの交差点

ラ・グラシエラ (地ビール醸造所/バル)
メキシコ市ローマ地区オリサバ163番地

バル・ササ (ピザと地ビール)
メキシコ市コンデサ地区パチューカ1番地

ビア・ファクトリー (地ビール醸造所/レストラン・バー)
メキシコ市内の店舗:プラサ・クイクイルコ店、セントロ・コメルシアル・サンタフェ店、インスルヘンテス通りノルテ1812番地
メキシコ州内の店舗:セントロ・コメルシアル・ムンドE店、パベジョン・ラス・トーレス・メガ・サテリテ店
プエブラ州内の店舗:セントロ・コメルシアル・アンヘロポリス店

*1 トウガラシ、フルーツ、チョコレートなどを煮込んだ濃厚なソース。鶏肉などにかけて食べる。
*2 メキシコで、クリスマスや死者の日に飲むフルーツ・ポンチ。ホットで飲む。
*3 エヒードは、共同体全体で農地を保有・利用するシステムで、農村における最小単位の地域社会としても機能する。

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