e-MEXICO

ホーム > ラテンアメリカ > チリの銅:略奪の歴史

チリの銅:略奪の歴史

マルガリータ・ラバルカ・ゴダルド
Rebelion 2016/11/02 (Punto Final No863)

 大統領選挙や議員選挙が近づくと、政治家たちは、政策や公約を口にするようになる。しかし、チリにとって非常に重要であるにもかかわらず、政治家たちがほぼ絶対に触れない問題がある。それは、銅についてだ。銅機密法がチリ銅公社に課す役割などについては、さかんに議論されてきた。しかし、以前は行われていたような銅産業全体についての分析は、現在はほとんど行われていない。しかし、銅は、チリにとって最も重要な富であり、その生産量は、世界全体の銅産出量の36%を占めている。

 銅産業の問題点を真剣に取り上げる候補者を、私は見たことがない。もちろん、この分野の専門家は研究を行っているが、一般市民はほとんど何も知らずにいる。それは、莫大な金と、複雑で重大な問題がからむ事柄であるため、国民には隠されているからだ。チリの銅産業を握るのは、外国の巨大鉱山開発会社だ。政治家が銅を話題にしないのは、国民には言えないような、何かがあるからに違いない。

 チリで産出される銅は、二つのカテゴリーに分類される。一つは、チリ銅公社が採掘する分で、採掘量は全体の約30%にあたる。これは、国家すなわち国民のものだ。もう一つは、多国籍企業が採掘する分だ。チリの最良の鉱脈を与えられた多国籍企業の採掘量は、全体の70%にのぼる。

 かつて、スペイン人は、富を求めてアメリカ大陸にやってきた。植民地における鉱山開発は、金、銀、銅の三つの金属に絞られた。20世紀になると、電力線や電信線、電子回路の製造に用いられる銅の需要が急増し、多くの野望をかき立てた。

銅の国有化

 第二次世界大戦によって、軍需産業におけるチリの重要性が増した。チリの指導者たちは、銅の重要性に気づいた。しかし、銅の価格は、多国籍企業と米国の間で結ばれた協定で、1リブラ24.5USセントに固定されていた。この価格は、市場の価格より大幅に低く、チリ国民の意見を反映していなかった。

 カルロス・イバニェス政権は、鉱業への課税と監督についての新しい法律を公布した。その後、エドゥアルド・フレイ・モンタルバ政権は、外国企業との話し合いを進め、「銅のチリ化」と名付けられた、銅の国有化のプロセスを開始した。そしてついに、サルバドール・アジェンデ大統領が、銅を国有化した。議会における満場一致の可決を経てのことだった。可決に至った要因は、国民に銅の重要性を理解してもらうために、人から人へと辛抱強く、その重要性を伝えたことだ。そのため、右派も、国有化に賛成せざるを得なかった。

 1971年7月11日、アジェンデ大統領は、チリの全国民に、「チリは過去を断ち切った。だから今日は、チリにとって、尊厳の日だ。チリは、未来を信じて立ち上り、完全な政治的独立のための第一歩となる経済的独立への道を、決然と歩きはじめた」と語りかけた。人民連合政府のこの決定は非常に重要であったため、ピノチェト独裁政権もこの決定をほごにしなかった。1980年憲法第19条24項6号には、「国家はすべての鉱山を完全かつ独占的、譲渡不能で時効の制限を受けない形で所有する」という一文が、現在も残っている。しかし、同条同項7号には、「鉱業権の認可については別に法律を定める」と規定されている。

 憲法第19条24項7号は、アンドレス・ベジョやハンス・ケルゼンなどのすべての法律家が主張する、法の整合性についての一般的な原則に矛盾している。整合性の原則とは、法は一貫性があり、論理的かつ体系的でなければならないということだ。そこで、憲法第19条24項を見ると、6号と7号の間に一貫性を欠いていることは明らかであり、7号が違憲であることを憲法裁判所に申請するための根拠として十分だ。

 第19条24項7号は、1982年1月7日に公布された鉱業権に関する憲法基本法第18097号(以下、鉱業権法)によって補完されている。では、この鉱業権法を作成したのは誰か? それは、チリ人なら誰でも知っている“愛国者”ホセ・ピニェラとエルナン・ブチだ。

 しかし、ピノチェトの独裁政権は、鉱業権法を実行に移すことはしなかった。ピノチェト政権の軍人たちが、この法律に確信を持てずにいたことと、銅を支配下に置く方が得策だという戦略の、二つの理由からだった。

銅の非国営化

 では、現在、主要な鉱山が外国資本に握られているのはなぜか? それは、政党連合コンセルタシオンからの初の大統領パトリシオ・エイルウィンが、鉱業権法を実行に移したからだ。そのため、鉱山開発への民間企業の参入が急速に進み、今日のような状況に至った。1991年から1995年のわずかな期間に、エスコンディーダ、エル・アブラ、サルディーバル、セロ・コロラード、ケブラーダ・ブランカ、マントス・ブランコス、カンデラリア、コジャウアシ、ペランブレス、ロス・アンデス、サンタ・ロサ、アンダコジョなどの重要な鉱山が採掘された(注1)。

 多国籍企業によって採掘されたこれらの鉱山は、チリに利益をもたらしただろうか? 何の利益ももたらさなかった。大金を稼ぐためにチリの利益を犠牲にし、違法な取引や法律違反を量産しただけだった。

 ここで少し、銅の生産工程について確認しておく。鉱山では、銅鉱床から鉱石を採掘した後、銅精鉱(鉱石を粉砕して水を加え、不純物を取り除いたもの)が作られる。この銅精鉱には、銅の他に、金、銀、モリブデンなどの金属が含まれており、銅よりも高価である場合がある。生産された銅精鉱は、精錬されて銅地金になり、鋳造してインゴットやカソードになる。銅精鉱は、銅地金の投入財となるものであり、銅精鉱を生産するために必要とされる労働力は少なく、付加価値も低い(注2)。

 次に、多国籍企業がなした“偉業”の一部を挙げる。

1. ほぼ銅精鉱のみを生産している。これは、チリにとって望ましくないことだ。

2. 極めて少額の税金しか払っていない。チリ銅公社は、1971年から1999年までの間に、採掘した鉱石1トンあたり925ドルの税金を国に納めた。一方、民間鉱山開発会社は、同じ期間に、1トンあたりわずか65ドルの税金しか納めなかった。なぜこのようなことが起こるのか? 答えは簡単だ。民間企業は、毎年、赤字の報告をしているからだ。そして、チリ国税局を含め、誰もその赤字報告に不審を抱かなかった。もし誰かが、アントファガスタにレストランをオープンして、毎年赤字になっていたら、閉店するか、倒産するのが普通だ。しかし、鉱山開発会社は違う。鉱山開発会社は、破格の安値で銅精鉱を子会社に売る。子会社は銅精鉱を精錬し、驚くほどの高値で売るが、やはり税金は払わない。なぜなら、子会社はタックス・ヘイブン国にあるからだ。例えば、ディスプターダ・デ・ラス・コンデス社は、25年間赤字を報告し続けたが、まったく問題視されず、税金も1ペソも払わなかった。

 鉱業特別税、いわゆる鉱業ロイヤルティについては、まず5%にあがり、その後、地震復興のために8%まで増税された。しかし、他国におけるロイヤルティが売り上げに対して課税されるのに対し、チリでは営業利益に対して課税される。そのため、税額が低くなる。

 国連の調査によると、アフリカのいくつかの国とチリでは、銅の輸出時に、売上高の虚偽の申告が行われている(注3)。チリでは、アンダーバリューによる脱税額は、1990年から2014年の期間で、160億ドルに達した。なぜこのようなことが起こるのか? それは、チリ政府が鉱物輸出を監督せず、盗まれるにまかせ、チリの国民が収奪されることを許しているからだ。なぜそれを許すかは、占い師でなくとも、想像に難くない。

途方もない利益

 多国籍鉱山開発企業は、1990年に銅の採掘が非国営化された後、一体どれほどの利益をあげたのだろうか? 2000億ドル以上である! エスコンディーダ鉱山だけでも、毎年70億ドルの利益をあげている(注4)。金額があまりにも大きすぎて、一般市民には想像もつかない。しかし、2000億ドルという金額は、4000万人を、働かずに養っていける金額だ(注5)。こうしてみると、チリの銅がチリ人のものであったなら、私たちは金持ちで、チリは裕福な国で、無料の教育や年金、医療などすべての問題が、完全に解決できることがわかる。だからこそ、小さな問題で心配するのをやめて、この大きな問題について考えなければならない。

 現在、銅の市場価格は下落している。しかし、それが何だろう? とにもかくにも、多国籍企業は大金を稼いでいる。価格の変動というものも、一時的なものだ。中国経済の動きに左右されるのだから、中国経済が再び活発になれば、事態は改善するだろう。

 鉱業権法は、鉱山の採掘権を認めているだけではない。国が鉱山を収用する場合には、鉱山開発会社が莫大な補償を受ける権利も認めている。単に現存する利益について補償をするだけでなく、鉱山開発が終了するまでに鉱山から得たであろうすべての鉱物の価値についても、補償しなければならない。鉱業権法第10条に、そのように規定されているのだ。つまり、鉱山開発会社が鉱山を掘り尽くすはずの未来の時点まで含めた補償をしなければならず、これが、鉱山の収容の弊害になっている。鉱山を採掘する権利だけでなく、将来掘り出せたかもしれない地中のすべての鉱物の所有権までも、認めてしまったのだ。チリの国と国民のものが、多国籍企業にただ同然で持っていかれたということだ。

 しかし、この認可を無効にすることは難しくない。なぜなら、この不条理な採掘権は、憲法第19条24項6号や、その他多くの国際法に違反しているからだ。例えば、経済的・社会的及び文化的権利に関する国際規約第1条2項には、「すべての人民は(…)自己のためにその天然の富及び資源を自由に処分することができる」とある。

 多国籍企業にチリの銅を渡してもいいかと、質問されたチリ人がいるだろうか? 私には、誰も聞かなかった。それとも、当時の大統領だったパトリシオ・エイルウィンは、チリの地下資源の所有者だったとでもいうのだろうか?

可能な対策

 ここで、多国籍企業に対して、どのように対応すればよいか、考えてみよう。

1. 多国籍企業に対し、適切に課税する。オーストラリアや米国では、はるかに高い税率が適用されている。

2. 延滞分の税金を徴収する。チリ国税庁は、多国籍企業が延滞している税金を調査し、延滞利息を徴収するべきだ。また、国税庁の元長官たちや関連のある役人たちの、管理責任と刑事責任を追及するべきだ。

3. 銅の精錬をチリの国内で行うことを、多国籍企業に要求する。

4. 国外に持ち出した鉱物に含まれていた、銅以外の金属分についての支払いを要求する。

5. 現在チリ銅公社が支払っている軍事費を、多国籍企業が支払うことを要求する。

6. 鉱山の収用は、鉱業権法が足かせとなるため、困難である。従って、憲法議会は新しい憲法を作成し、鉱業権法を廃止しなければならない。しかし、別の、より良い解決策もある。それは、採掘権の認可を取り消すことだ。この方法は、鉱業権法を作成したピニェラやブチでも、想像がつかなかっただろう。チリの鉱山はチリ人のものなのだから、チリ人なら誰でも、認可の取り消しを要求することができる。裁判所が与えたすべての認可書類の中に、認可取り消し要求の根拠となる何かしらの間違いがあるはずだ。

7. チリの国民が銅の重要性をしっかりと認識したら、鉱山を再び国有化することができる。国有化するだけの十分な理由もある。外国の鉱山開発会社に、これほどの権利や便宜を与える国など、どこにもない。銅の最大の輸入国は中国だ。私たちは中国に、もっと質の良い銅を、より安く売ることができる。

 紙面の関係で、ここではチリ銅公社については述べないが、フリアン・アルカヤガ氏の記事を読むことをおすすめする(注6)。しかし、ひとつ言っておきたいことがある。チリ銅公社の民営化を望む人たちがいるが、そうはならないだろう。なぜなら、チリの国民が認識を深めれば、民営化を阻止するからだ。


注釈

(1) Roberto Farias “El cobre chileno. Los nuevos caminos dde la usurpacion” (Santiago,12/2002)
(2) 同上
(3) Naciones Unidas UNCTAD, NY 2016 “Trade Misinvoicing in Primary Commodities in Developing Ccountries; The cases of Chile, Cote d’Ivoire, Nigeria, South Africa and Zambia”
(4) Gustavo Ruz Zanartu, informacion en youtu.be/1jKkn34IarM
(5) 同上
(6) Julian Alcayaga “Codelco, no hay un puto peso”, informacion en radio.uchile 2016/08/29

↑ PAGE TOP

inserted by FC2 system