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食糧主権はどこに?

シルビア・リベイロ
ALAI, America Latina en Movimiento 2012/08/26

 食品産業の構造は、地球の気候変動の主要な原因となっている。この構造は、自身の尾を噛む蛇のように連鎖しているため、米国の厳しい干ばつが原因の農作物被害によって、揺さぶられる。いくつかの地域では、収穫はあるが、食用にはできない。というのは、降水量の不足のために、植物が化学肥料をため込み、食用とするには有害になってしまうからだ。こういったすべてのことは、同じひとつの産業構造に関連している。つまり、農薬と化学肥料を使用し、生物多様性を無視した、単一作物の栽培、輸送手段・エネルギー・石油の多用(従って、大量の温室効果ガスを発生させる)、そして、多国籍企業の支配である。

 トウモロコシの場合、不足はより深刻だ。なぜなら、米国で生産されるトウモロコシの40%が、エタノール生産に割り当てられるからだ。つまり、人間の代わりに、自動車を養っているのだ。

 米国は、トウモロコシ、大豆、小麦の、世界でも主要な輸出国のひとつである。また、世界の穀物流通量の80%は、多国籍企業4社が握っており、その4社は、生活必需品を、より大きな利益を上げるために管理している。そのため、米国における生産の低下は、世界の市場に連鎖反応を引き起こし、食料品の価格は高騰している。穀物以外でも、鶏肉、豚肉、牛肉の価格が高騰しているが、これは、世界の穀物生産の40%以上が、動物を畜舎に閉じ込めて飼育する畜産業において、飼料として使用されるためである。これは、農業関連産業(アグリビジネス)のもうひとつのばかばかしい側面である。というのは、穀物は人間の食用にし、肉の消費を少なくするか、様々な種類の飼料を併用して、小規模の畜産を行うことの方が、はるかに効果的だと思われるからだ。その上、畜舎でつなぎ飼いにする大規模畜産業は、豚や鳥のインフルエンザのような伝染病の原因となり、伝染病の発生時には、商品不足と価格高騰を引き起こす。最近ではメキシコにおいて、鳥インフルエンザの発生によって、卵の価格が高騰している例がある。

 食品価格の高騰で最も苦しむのは、最も貧しい人々、特に、都市の貧困層だ。彼らは収入の60%を食品購入に使っている。

 それとは対照的に、多国籍企業20社(種子のモンサントから、食品加工のカーギル、ADM、ネスレ、その他の企業を通り、スーパーマーケットのウォールマートまで)は、アグリビジネスの構造を支配している。彼らは、種子や種親、農薬、穀物の購入・流通・保管(バイオ燃料用でもある)、食肉加工業、食料や飲料、そしてスーパーマーケットまでも、支配している。食糧危機の責任は彼らにあるが、彼らの財産はしっかりと守られていて、損失は、小規模生産者や消費者、公共支出に押し付けられる。彼らにとって、異常気象と生産物不足は、損失ではなく、収入の増加を意味する。それは、種子や農薬、肥料がもう一度売れること、穀物を保管する企業が穀物を買占め、それをもっと高い価格で売る投機をしていること、スーパーマーケットの商品の値段が、流通の始まりである生産者価格よりも、はるかに高価格となっていること、などを意味しているからだ。

 メキシコにおけるトウモロコシの事例が、それをよく示している。メキシコ北部の農民たちは、販売用のトウモロコシを200万トン持っているにもかかわらず、最近、米国産トウモロコシ(遺伝子組み換え)が150万トン輸入された。一方では、エルサルバドルに15万トン、ベネズエラにも一定量が輸出される予定である。以前にも、50万トンのトウモロコシを南アフリカから輸入したことがあった。これは、気候や環境のためにも、また、不必要な輸送や国内生産者に対する過酷さという面でも、馬鹿げたことである。この点について質問されたブルーノ・フェラーリ経済大臣(以前モンサント社の役員であった)は、民間企業の決定であると主張して、かかわらない態度を取った。

 メキシコ農村研究所(CECCAM)のアナ・デ・イータ氏が説明するように、この背景には、北米自由貿易協定(TLCAN)の調印に先立って、国内農業生産を自由化するための諸政策が実施されたということがある。そういった状況の中で、トウモロコシの国内取引の均衡を図っていた、準国営のメキシコ主要食糧流通公社(CONASUPO)が解体され、国内市場を多国籍企業数社に渡してしまったのだ。それらの企業は、カーギル、ADM、コーン・プロダクツ・インターナショナルや、大規模な養豚、養鶏、トルティージャ製造業などの企業で、生産物をより安く売る生産者から買ったり、その他の理由、例えば、米国内で生産契約を結んでいる生産者たちから買うなど、自社にとって都合の良い買い方をする。

 こういった種類の企業(と、フェラーリのような現政権内の元企業役員たち)は、国内のトウモロコシ生産量が十分ではないため、輸入しなければならない、と主張している。しかし、メキシコはここ数年、年間約2200万トンのトウモロコシを生産しており、食用として消費されるのは、約1100万トンである。食用以外のトウモロコシのうち400万トンは、様々な産業で使用され、それでもまだ700万トンが残る。しかしアグリビジネス企業は、毎年800万-900万トンを追加で輸入している。なぜなら、1600万トンのトウモロコシを、養鶏や養豚など、大規模畜産業において使用するからだ。これらの畜産関連企業も、やはり巨大企業である。

 もし畜産業がもっと分散されていて、様々な種類の飼料を併用するなら、伝染病も発生せず、遺伝子組み換えのトウモロコシもなく、農村にはるかに多くの雇用を創出しつつ、十分な生産物を手に入れられるだろう。メキシコはトウモロコシの輸入を必要としていない。これは単に、政府から承認され、助成金を受け取っている、多国籍企業間のビジネスである。

 もし政府の政策で管理された国産の種子を使用し、小規模経営の農畜産業の様々な生産物を保護する公共政策が取られたら、リスク(気候変動のリスクさえも)が分散され、メキシコ国民も手の届く価格で、はるかに品質の良い十分な量の食品を手にすることができるだろう。

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