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独立記念日の料理「チレス・エン・ノガーダ」

9月16日は、メキシコの独立記念日です。独立記念日には、大きな緑色のトウガラシ、チレ・ポブラーノを使ったチレス・エン・ノガーダを食べます。

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 トウガラシは、トウモロコシやフリホールと共に、昔から、メキシコ人にとって基本的な食材であり、重要な調味料でもありました。メキシコに渡ったスペイン人宣教師、ベルナルディーノ・デ・サアグンの「ヌエバ・エスパーニャ諸事物概史」には、トウガラシを使った料理 ―黄トウガラシ風味の鶏肉のエンパナーダ(揚げパン)、鶏の赤トウガラシ煮込み、黄トウガラシの豆シチュー、青トウガラシ・ソースで煮込んだカエル料理、黄トウガラシとはちみつの風味のアトーレ(トウモロコシの温かい飲み物)など― についての記述があります。これらの料理は、主に富裕層が食べていました。

 トウガラシには、実に100種類以上の品種があり、それぞれ大きさ、形、色、味、辛さが異なります。そのひとつが、特別な日の豪華なメニューに使われる大きな緑色のトウガラシ、チレ・ポブラーノです。

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メキシコ料理とスペイン料理の融合

 スペイン人が旧大陸からメキシコにやってくると、新旧両大陸の食材や調理法が混ざり合い、現在のメキシコ料理ができあがりました。もちろん、トウガラシもスペインの食材と組み合わされ、チレ・ポブラーノにクリームとチーズをからめたラハス、麺を炒めてパシージャというトウガラシで味つけしたフィデオ・セコ、ベラクルス風ウアチナンゴ(鯛に似た魚)などが生まれました。特にウアチナンゴは、メキシコ原産なのにグエロ(「金髪の」の意味)という名前のトウガラシと、とてもスペイン的なオリーブやケイパーが、うまく融合した一皿になりました。メキシコ原産の大きな緑色のトウガラシ、チレ・ポブラーノを使ったチレス・レジェーノスも、そのようにして生まれた料理のひとつです。チレス・レジェーノスは、チレ・ポブラーノの中にチーズやピカディージョ(アーモンド、松の実、レーズン、砂糖漬けのフルーツを入れたひき肉料理)などを詰め、衣をつけて揚げた後、トマトとタマネギのスープをたっぷりかけた料理で、両大陸の食材が絶妙に融合した傑作です。

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 チレス・レジェーノスは、カフェや食堂の人気メニューとなり、家庭でも気軽に作られるようになりました。また、メキシコの風俗を描く文学作品や新聞記事にも、たびたび登場するようになりました。チレス・レジェーノスが、メキシコの食生活の中で、どれほど重要であるかを示す出来事が、19世紀半ばに起こりました。当時、メキシコ市では、恐ろしい伝染病のコレラが大発生したため、フルーツやその他の食材の販売が禁止されることになり、メキシコ市のマルティネス市長が、「チレス・レジェーノスを食べないように」という公示を発表したのです。それほど、チレス・レジェーノスは、市民の食生活になくてはならない料理になっていました。

メキシコ国旗色のごちそう「チレス・エン・ノガーダ」

 これまでチレス・レジェーノスについてお話してきましたが、ここでとうとう、メキシコ料理の最高傑作、チレス・エン・ノガーダについて、お話ししたいと思います。時は1821年、メキシコの独立戦争が終結したころにさかのぼります。

 メキシコの独立を定めたコルドバ条約に署名したアグスティン・デ・イトゥルビデは、三つの保証軍の先頭に立って、首都に向かいました。イトゥルビデの胸は、これから実現する様々な計画でいっぱいでした。計画実現にあたっては、王冠を身につけて、メキシコの皇帝になるつもりでした。ちょうどプエブラを通過していた8月28日(くしくもその日は、聖アグスティンの日でした)、プエブラの名士たちは、イトゥルビデに敬意を表して、盛大な祝宴を催すことにしました。その祝宴で出されるすべての料理には、生まれたばかりの独立国メキシコの国旗の3色が使われるという、特別な趣向の祝宴でした。

 祝宴に並んだごちそうが何だったか、何皿あったのかについて、はっきりとしたデータは残っていませんが、とにかく、ノパル(ウチワサボテン)のサラダがあったことは、間違いないでしょう。ノパルの緑、トマトの輪切りの赤、みじん切りのタマネギの白が、国旗の3色を表現していたはずです。

 それに、セビッチェも出されたはずです。さいの目に切った魚とトマトとオリーブで、国旗の色になります。それから、グリーンピースと赤パプリカを入れてふっくらと炊き上げた白いご飯のピラフ。もちろん、スイカもあったはずです。切るだけで、断面に国旗の色が表れるのですから。他にも、いろいろな料理が並んでいたと思います。

 ところで、一説によると、イトゥルビデは、敵に毒を盛られることを恐れていたため、ずらりと並んだおいしそうな食べ物を見ても、表情も変えず、ストイックに何も食べずにいたということです。しかし、それも、チレス・エン・ノガーダが出てくるまでのことでした。未来の皇帝も、チレス・エン・ノガーダの誘惑には勝てず、このおいしい一皿を堪能したと言われています。

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 つやつやとしたチレ・ポブラーノに、クルミなどをぜいたくに使ったノガーダ・ソースをたっぷりとかけ、宝石のようなザクロの実をちりばめ、パセリを飾ります。

 プエブラでは、8月28日の聖アグスティンの日を、聖アグスティン教会で盛大に祝います。通りには、食べ物の屋台がずらりと並びます。もちろん、一番多いのは、チレス・エン・ノガーダの屋台です。チレス・エン・ノガーダというすばらしい料理を生み出したプエブラでは、やはり、どこよりもおいしいチレス・エン・ノガーダを食べることができます。

(メヒコデスコノシード)

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