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組織犯罪VS汚職政府

ホルヘ・アルベルト・カストロ・ハウレギ
Rebelion 2012/05/11

 メキシコの麻薬問題の本質は、麻薬密売そのものではない。問題の本質は、多国籍企業のような麻薬組織が、消費者のニーズに支えられ、長い年月をかけて徐々に形成されていった複雑な社会的状況にある。

 そのため、最近では、組織犯罪は恐喝、誘拐、武器・麻薬の密売、人身売買、強盗、殺人、資金洗浄、密輸、武器の不法所持など、22のカテゴリーに分類されるようになった。

 メキシコの犯罪組織は、世界52カ国に拠点を持っている。最重要顧客は、世界最多の薬物消費者を抱える米国だ。

 歴史をふり返ると、犯罪組織の勢力が拡大したのは、歴代政権が統治しなかったからではなく、犯罪組織と取引しながら統治してきたからだ。70年間与党の座にあった制度的革命党(PRI)の歴代政権は、麻薬密売を抑制するどころか、長い年月をかけて犯罪組織を養い育ててしまった。しかし、そのような汚職はあっても、PRI歴代政府は、常に犯罪組織より優位に立ってきた。

 しかし、最近は、政府の分裂を利用して、犯罪組織が政治をコントロールするようになった。犯罪組織から選挙資金の提供を受けている政治家もいる。また、一般の人々も、犯罪組織の違法行為に容易に関係する。人々は、雇用不足と貧困ゆえに、犯罪組織の「ちょっとした仕事」に手を染めてしまうのだ。犯罪組織の仕事は、単なる麻薬の運搬・販売から殺人まであり、そこから足を洗うことは、難しいというより、ほとんど不可能だ。

 犯罪ウイルスは、政府の奥深くに潜伏している。政府が法で国を治めるのではなく、犯罪ウイルスが政府を支配しているのだ。そのため、市民社会は犯罪行為にさらされている。

 また、犯罪組織の資産や資金洗浄企業には、多くの政治的利害が絡んでいるため、摘発することができない。

 強力な犯罪組織を潰すか、せめて対等に戦えるようになるための唯一の方法は、組織の支柱であり弱点でもある「資金」を断つため、専門の機関を設けて戦うことだ。というのは、犯罪組織の目的は、取引に都合のよい土地を支配して力と欲望を満たすことであり、従って、結局は、資金を得ることが最も重要だからだ。

 メキシコは分裂している。ロス・セタスに協力する警察官もいれば、ゴルフォ・カルテルのために働く警察官もいる。多数の警察官が、どこかの麻薬組織と協力関係にある。従って、軍や警察が犯罪組織と「厳格に」戦うというカルデロン政権の作戦は、体中の免疫システムがウイルスに感染してしまった後で、アスピリンを飲んで、ウイルスを根こそぎにしようとするようなものだ。

 犯罪組織のボスやメンバーの逮捕は絶えず報道されているが、公式の数字によると、逮捕者の99%は、判決を受けずに終わる。つまり、刑が科されず、無処罰のままということだ。これが、カルデロン政権が繰り返し言及する「法治国家」や「民主国家」の姿だろうか。これでは、むしろ抑圧国家だし、軍や警察を増強することで自らを痛めつけ、社会を欺いている。抑圧は暴力を生む。司法が犯罪者を処罰しないなら、暴力はさらに悪化する。つまり、軍人と警察官が増えれば、汚職と流血事件も増えるという、簡単な比例の法則が成り立っている。しかし、これでは悪循環だ。なぜなら、たとえ警察官や軍人を増やしても、麻薬密売がもうかる商売であるうちは、当然、なくなりはしないからだ。

 では、解決策はあるのか? どうすれば、この紛糾した事態に終わりを告げることができるのか? 複雑な状況には、全面的な解決策をとることが必要だ。

 まず考慮しなければならないことは、この複雑な問題が、政治から文化まで、様々な側面を包含しているということだ。従って、政府は、公安省、社会福祉労働省、保健省、教育省、文化省、経済省などの各省庁と協力するべきであり、各機関は連携して計画を立て、市民を危険から守ることが必要だ。つまり、これは麻薬戦争ではなく、社会福祉の問題なのだ。

 また、もっと広い意味で、国家を回復する必要もある。都市の信用回復と、政治家と各機関の関係の透明化は、基本的かつ最も重要な課題だ。

 政府は、社会福祉関係のすべての機関を見直し、機能させなければならない。また、政府自体が汚染されているのなら、まずは「わが家」の掃除をするべきだ。それによって、市民は政府を再び信頼できるようになる。また、政策の決定は、政党ごとのイデオロギーは脇において、すべての政党がまとまって行わなければならない。

 おそらく、メキシコ全体としては、まだ破綻するところまでは来ていない。しかし、麻薬組織の細胞はメキシコ全土に散在していて、その勢力は地域によって異なるため、いくつかの州は、おそらく破綻している。

 組織犯罪対策で最初に考慮されるべきは国民であり、国民のための対応がとられるべきだ。例えば、ある種の薬物について、一定の範囲内で合法化することを考えるのであれば、国民がそれに備えることができるように、雇用創出、文化水準の向上、医療制度の改善、教育の強化などの公共政策を、前もって行うことが必要だ。麻薬密売の収益を減らすために薬物を合法化すればよいというような、単純な問題ではない。この深刻な現状における最もまともな解決策は、社会について考えることだ。従って、議会においても、公共政策が最重要問題となる。

 メキシコの犯罪組織は、ピラミッド形のシステムではなく、頭が何本にも分かれた蛇のような構造をしている。つまり、自治権を持つ多数の細胞があり、それぞれが、限定された地域で活動している。そのため、ボスを殺害することは、有効な戦略ではない。これについては、プロセソ誌のジャーナリスト、フリオ・シェレールが、シナロア・カルテルの幹部サンバーダ通称エル・マジョとのインタビューで、すでに発表している。

 メキシコの国民の連帯は、徐々にむしばまれていて、数字の上では、あのパブロ・エスコバルのコロンビアよりも、ひどい状況になっている。従って、次期政権の最重要課題は、非常に深刻なこの問題をどうすべきか、正しく判断することだ。

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