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食の砂漠:トマトより銃を買う方が簡単な地域

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エステル・ビバス
Publico.es 2015/01/07

 スーパーマーケットと言えば、私たちは普通、様々な商品で常にいっぱいの陳列棚や、あふれんばかりの食料品を思い浮かべる。しかし、スーパーマーケットは、意外にも、飢餓と食料不足を生み出す原因となることがある。その適例は、米国のいわゆる「食の砂漠」といわれる地域だ。都市にも地方にも存在する食の砂漠地域では、マクドナルドとケンタッキーフライドチキンとバーガーキング以外に、食料品を買う場所がない。しかし、そのことが、スーパーマーケットと、どう関係しているのだろうか?

 1940-50年代の米国では、上流・中流階級の人々が郊外の新興住宅地へ転居し、それに伴い、多数の大型商業施設が建設された。そのため、多くのスーパーマーケットは、彼らと共に"転居"してしまい、元の地域は、事実上、食料品が買えない地域になってしまった。「新興住宅地なら、はるかに多くの利益が上がるというのに、食料品に少ししか金を使わず、わずかな利益しかもたらさないような、最も貧しい人々が住む地域に、一体何のためにとどまるのか?」とばかりに、ウォルマートやクローガー、セーフウェイなどの大型スーパーマーケットが、迷うことなく移転した。

 米国では、2300万人以上の人々が、食の砂漠(米国農務省の定義によると、生鮮食品を買える最も近い店まで1.6キロメートル以上離れた地域)に住んでいると見られている。最もひどい地域は、インディアナポリスとオクラホマシティだ。それ以外の都市でも、例えば、デトロイトでは住民の半数にあたる55万人、シカゴでは住民の21%にあたる60万人、ニューヨークでは300万人が、この問題を抱えている。それらの住民が食料品を購入できる最も近い店は、ファースト・フード・チェーンか、タバコや酒と共にポテトチップやキャンディー、炭酸飲料を売っている店だ。これは、米国の食料事情が抱える大きな問題だ。

 多くの住民が、ずっと以前に移転してしまった大型スーパーマーケットに戻ってきてほしいと思っている。しかし、大型スーパーマーケットは、問題を解決するどころか、問題を引き起こすものだ。スーパーマーケットは、昔も今も変わることなく都市に"侵入"し、たちどころに価格を下げる。これは、大型スーパーマーケット・チェーンだからできることだ。なぜなら、ある店舗で値下げしても、別の店舗で値上げすれば、結局は相殺されるからだ。しかし、小規模な商店にとって、この値下げは致命的だった。長年営んできた食料品店や商店が閉店し、大型スーパーマーケットだけが生き残った。しかし、その大型スーパーマーケットも、利益が出なくなると店舗を取り壊し、移転してしまった。今では、米国の多くの貧しい地域では、スーパーマーケットも食料品店も生鮮食品もない。

食のアパルトヘイト

 それらの地域は、大型スーパーマーケットに買い物に行くことができない貧困者や高齢者が住む地域だ。行けない理由は、単に車を持っていないから。また、有色人種が住む地域でもある。このことから、社会的・人種的な要因によって何を食べるかが左右される「食のアパルトヘイト」または「食の人種差別」を主張する専門家もいる。その一例が、カリフォルニア州オークランドだ。オークランドを、貧困層や有色人種が住む低地と、富裕層が住む高台とに分けると、低地では、スーパーマーケットの数が住民9万3000人にひとつであるのに対し、高台では、1万3000人にひとつであることがわかる。ちなみに、酒店は、逆に低地に多い。金と皮膚の色が、食料を入手できるかどうかを決定している。カリフォルニア出身の食料問題専門家のブラーム・アハマディ氏が言ったように、「今日、有色人種が住む都市部の多くの地域では、生のトマトを買うより、銃を買う方が簡単」なのだ。

 食料があるかないかだけでなく、その質も問題だ。そのため、食の砂漠問題は、そこに住む人々の健康の問題でもある。米国農務省によると、生鮮食品の入手が困難な場合、肥満や糖尿病、心臓病になる確率が高くなる。低所得の有色人種が居住するサウス・ロサンゼルスでは、住民1300万人が、食料入手が難しい状態にある。コミュニティ・ヘルス・カウンシルというNPOが、この地域について行った調査によると、肥満の人の割合は、富裕なウエスト・ロサンゼルスと比べて3.5倍、糖尿病と診断された成人の割合は2.5倍に達している。貧しければ貧しいほど、入手できる食料の質も量も低下し、健康の質も量も低下するということだ。

食の砂漠とオアシス

 「食の砂漠」というコンセプトは、すべての人から受け入れられているわけではない。多くの専門家が、砂漠は自然現象だが、食料の欠乏は天災や事故ではなく、貧困地域から新鮮で健康に良い食料を排除する特定の政策の結果だと指摘し、食の砂漠という表現に異論を唱えている。また、食の砂漠と表現することで、その原因である社会的格差から注意をそらすことになり、現在、多くの食の砂漠地域で起こりつつある代替的な地域型の活動が、広まりにくくなるとも主張している。

 「砂漠」という比喩を用いることに異論はあるにしても、実際、食の砂漠には、砂漠のオアシスにあたる活動が広まりつつある。食料の入手が困難であるため、住民たちが共同で、地域経済を活性化し、都市部に菜園や農産物直売所を作り、消費者グループや消費者組合を組織する活動を開始したのだ。例えば、オークランドのピープルズ・グロッサリーは、生鮮食品を入手できない地域を対象に、様々な代替案を積極的に展開した。中でも「移動式スーパーマーケット」は成功し、他の都市でも真似られるようになった。

 現在、最も貧しい地域で食料品を入手できるようにするために、「スーパーマーケットが戻ってくる」ことを呼びかける人や、戻ってこようとしているスーパーマーケット・チェーンがある。その一方で、同じことの繰り返しになるのではないかと心配する人もいる。オークランドでは、大型スーパーマーケットができた後、小さな食料品店など150店舗が閉店を余儀なくされた。その後、大型スーパーマーケットは移転し、現在は、その代替の役目を果たすような活動が進められている。そこへ大型スーパーマーケットが戻ってきたら、この地産地消の新たな試みが再び潰されてしまうのではないかと心配する声がある。これは重大な問題だ。

 食の砂漠に対応する活動の中に、ある意外な人物が推進しているものがある。その人物とは、連続テレビドラマ「トレメ」で愛すべきトロンボーン奏者アントワン・バティストを演じ、「ザ・ワイヤー」では殺人課のはみだし刑事マクノルティの相棒役バンク・モーランドを演じた、俳優のウェンデル・ピアースだ。彼が、出身地ルイジアナ州ニューオーリンズにいくつも存在する食の砂漠地域にスーパーマーケットを開店する活動の推進者になるとは、だれが想像しただろう? 彼の活動の目的は、新しく作られたスターリング・ファームズ・フレッシュ・フード・チェーンを通して、野菜や果物を中心とした、質がよく新鮮で、健康に良い食品を、食の砂漠地域の住民に提供することだ。

ヨーロッパにおける食の砂漠

 ヨーロッパにも、食の砂漠は存在している。イギリスのハーパーアダムス大学が行った非常に詳細な調査では、イギリスの多くの地域が、ここ数年で食の砂漠となり、その結果、住民の食習慣と健康に悪影響が生じていることが浮き彫りになった。全国規模で行われたこの調査によると、2001年から2007年の間に、小規模な食料品店の29%が閉店し、多くの地域で、近隣に生鮮食品を扱う店がない状態になっている。特に、高齢者や自家用車を持たない人、低所得者など、行動半径の狭い人々にとって、大きな問題だ。この調査で指摘されているように、2060年には65歳以上74歳以下の人口が700万人、85歳以上人口が約300万人に達する見込みであるイギリスでは、この問題は、一層深刻化するだろう。

 一方、スペインの大型スーパーマーケット事情は、イギリスとは異なり、都市中心部に店舗が集中しているという特徴を持っている。従って、スペインでも食の砂漠問題が発生するかどうかは、まだ見極める必要がある。しかし、現在までに行われたいくつかの調査は、地方を主としたいくつかの地域が、食の砂漠となる可能性があることを指摘している。というのは、「住民一人あたりの食料品店の数を表す指数を見ると、食料品店が少ない、またはまったくない地域があることがわかる」からだ。また、経済危機のために貧困に陥り、住宅ローンや光熱費、食費の支払いが困難になる人も、今後確実に増加するだろう。これらの調査結果から、食の砂漠に関する調査・研究は非常に難しく、そのデータも複雑であることがわかる。

 以上のような状況を考えると、食の砂漠は、紛れもなく、スーパーマーケットやアグリビジネスなどの大企業の利益を食料より優先させた結果、生じたものだと言える。食料に関して経済面だけを重視すると、購買力がある消費者だけが食料を入手できる事態に陥る。スーパーマーケットは、この「金がない人は食べられない」という考え方を、先頭を切って実践している。

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