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ラテンアメリカの過去の清算

中南米・カリブ海地域で過去数十年の 間に起こった、数十件に及ぶ人権侵害の事例は、いまだ法の裁きを受けていない。何千人もの被害者たちは、正義を望んでいる。

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写真:ジャンクロード・デュヴァリエ、2011年ハイチにて。(AP)

マイエ・プリメラ
El Pais Internacional 2013/05/12

 ひとつのフィナーレは、いくつもの未完の物語を含んでいるものだ。5月10日(金)、グアテマラの裁判所は、ホセ・エフライン・リオス・モント元将軍に対し、懲役80年の判決を下した。罪状は、1982年3月から1983年8月までの、実質的に政権を握っていた期間に、大量虐殺と人権侵害の罪を犯したことである(訳注)。

 リオス・モントは、このような種類の犯罪で有罪判決を受けた、中米諸国最初の元国家元首である。しかし、刑罰を受ける可能性があるのは、リオス・モントだけではない。同様に、中南米・カリブ海地域では、過去数十年の間に起こった、何十件もの人権侵害の事例が、いまだ法の裁きを受けておらず、何千人もの被害者たちは、裁判の実施を望んでいる。現在、中南米・カリブ海地域は、これまでで最も民主主義的な情勢にある。しかし、この地域の国々が、過去の人権侵害に決まりを付けるために行っている努力は、まだ不十分である。

 暗い流血の逸話のリストは長い。例えば、エルサルバドルでは、1980年から1992年の武力扮装の期間に、農民の大量虐殺(その中には、中南米・カリブ海地域で報道された最も大規模な虐殺であったエル・モソテの大虐殺も含まれる)が起こった。ハイチでは、1957年から1986年の間に、デュバリエ一族の命令により、拷問、殺人、投獄が多数発生した。ベネズエラの刑務所における虐殺は、1992年から現在まで続いている。1970年代半ばには、反体制派を壊滅させるために、アルゼンチン、ブラジル、チリ、パラグアイ、ウルグアイなどの独裁政権が締結した同盟「コンドル作戦」によって、死者、行方不明者が出た。

 米州人権裁判所は、これらの事例のいくつかについて、すでに162件に上る判決を言い渡した。米州人権裁判所は、犯罪の責任を明らかにし、刑を宣告し、さらに、中南米・カリブ海諸国にも、それぞれの国内の司法制度に則って、同様の裁判を行うことや、このような遺憾な出来事を繰り返さないよう約束することを勧告した。ペルーは、同地域で最も多くの判決(27件)が下された国で、グアテマラ(17件)、ベネズエラ(16件)がこれに続いている。中南米・カリブ海諸国は、大部分の事例においては、米州人権裁判所が命じた補償やその他の勧告を順守している。

 「遺憾なことに、この人権侵害の過去が清算されるまでには、まだ多くの年数がかかる。被害者たちは、真実が明るみに出て、裁判が行われるように、絶え間ない戦いを続けてきた。しかし、現在も権力の座にある者たちの中には、明らかに処罰に反対の者もいる」と、マルシア・アギルスは、エル・パイス紙に語った。マルシア・アギルスは、ワシントンに本部のある正義と国際法のためのセンター(CEJIL)の、中米とメキシコのためのプログラムの責任者である。CEJILは、人権啓発と人権の法的保護のために活動しており、現在は、米州人権保障システムに申し立てをするにあたり、中南米・カリブ海地域の380の団体と共に、アメリカ大陸全体で1万3000件に上る被害者たちを代表している。

 アメリカ大陸の少なくとも25カ国は、米州人権保障システムの基盤である米州人権条約に加盟しており、米州人権委員会と米州人権裁判所の権限を承認している。しかし、それらの国々の大部分は、米州人権保障システムのこれらの組織が課している解決策について、部分的に順守するにとどまっている。例えば、直近5年では、ベネズエラやエクアドルが、米州人権委員会と米州人権裁判所を、干渉主義的であるとして厳しく批判し、その存在に疑問を投げかけてきた。しかし、マルシア・アギルスは、これについて、次のようにコメントしている。「今日、今までにないほど、このような多国間の組織の力が必要とされている。それは、加盟各国や現在の統治者たちに、その義務を思い出させるためであり、また、義務を果たさない場合には、それぞれの事例に応じた非難を行うためである。被害者たちは、こうした組織の影響力を求めている。というのは、彼らの出身国では、すべての司法機構は、独立して権限を行使できない状態にあるからだ」

 中南米・カリブ海地域において、制度としての民主主義が優勢であるとしても、この地域における裁判は、依然として、法の支配を保護するために不可欠な保障というよりは、気分が支配するものなのである。

 司法権は、多くの場合、行政権に依存しており、さらに悪ければ、時の政府や軍部、政党に依存していることもあり、いまだぜい弱である。「正義には時間がかかる。その時間は、その国の政治的背景における時期や、可能な手段によって変わるものだ」と、ヒューマン・ライツ・ウォッチのリード・ブロディ法律顧問は述べている。ブロディは、現在、様々な元独裁者に対する被害者たちの抗議を支援している。ブロディは、2年前、ジャンクロード・デュヴァリエに関する書類の作成に加わった。ハイチの裁判所は、ジャンクロード・デュヴァリエを、人道犯罪の容疑者と見なしている。また、ブロディは、1998年、チリの元独裁者アウグスト・ピノチェトの逮捕に結びついた、イギリスの貴族院における法的闘争の間、ヒューマン・ライツ・ウォッチを代表した。

 「ロンドンにおけるピノチェト将軍の逮捕は、(ラテンアメリカにおける)裁判ラッシュ、または、ガルソン効果と呼ばれる現象を引き起こした」と、リード・ブロディは思い起こす。この現象が中南米・カリブ海地域で起こる以前の1980年代には、ラテンアメリカにおいて様々な政変があり、その間、人道犯罪の犯罪者たちは裁判を免れ、多くの場合は、中米でそうであったように、権力の座にとどまりさえした。「しかし、このことが、被害者たちの切望や、社会における真実と正義の必要性を絶やしてしまうことはなかった。政治情勢が変化し、正義への渇望は、再び、より強く、湧き起こっている。それぞれの国に、それぞれの歴史があるが、しかし、共通しているのは、正義を求める被害者たちの辛抱強い気力である。」 ブロディは、未来は常に、よりよくなるものだという信念を持って、このように述べた。

訳注
この判決は、5月20日、グアテマラ憲法裁判所によって取り消された。

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