e-MEXICO

ホーム > 麻薬・移民問題 > 麻薬取引に振り回されている経済

麻薬取引に振り回されている経済

La Jornada 2012/07/17

 国連薬物犯罪事務所(UNOCD)の発表によると、犯罪組織は、世界中で年間8700億ドルの資金を動かしている。この金額の全体的な意味を見るためには、昨年メキシコで承認された連邦国家政府歳出予算がおよそ2600億ドルであったこと、アルゼンチンの2011年の国内総生産が6000億ドル近かったこと、そして、同時期の米国国防予算が7390億ドル近くであったことを指摘すれば、十分であろう。そうであっても、UNOCDが出したこの数字は、まだ控えめだと思われる。というのは、米国の連邦捜査局(FBI)の2001年の報告書によると、麻薬取引(つまり、組織犯罪の活動のうちのひとつに過ぎないもの)に関連して世界中で毎年行われる資金洗浄は、5000億ドルから1兆ドルに達し、その資金の半分は米国の銀行において資金洗浄されたからである。

 その一例をあげると、米国上院議会の最近の報告書によれば、2007年から2008年の間に、HSBC銀行のメキシコ支店が、米国内にあるこの多国籍金融機関の複数の店舗へ、70億ドルを送金していた。この金額の規模は、麻薬取引の収益が含まれていたとすることでのみ、説明可能な大きさだ。ウェルズファーゴ銀行、バンク・オブ・アメリカ、シティグループ、ウェスタンユニオン、アメリカン・エキスプレスについても、最近の活動において、同様の指摘ができたはずである。特に際立った例はワコビア銀行の例だ。同銀行は、リオ・グランデ川の南にある複数の両替所と特別の関係を持っており、2004年から2007年の間に、3780億ドル以上の違法な資金を取引していた。

 一般的な組織犯罪、とりわけ麻薬密売の、全体的な金融取引の規模の大きさは、なによりもまず、新自由主義とその政策の結果起きることによって支配された世界において、犯罪組織が到達した力を示している。その新自由主義の政策とは、すなわち、自由貿易の旗印のもとでの市場開放、全面的な規制緩和、より短期間での投下資本回収によって最大の収益率を上げること、である。麻薬取引の場合、明らかなことは、犯罪組織が手にしているこれらの巨額の資金をもってしては、各国政府は、この手の犯罪に対して繰り広げる戦いに、負ける運命にあるということ、そして、米国政府が引き続き諸外国に押し付けている様々な戦略とは異なる戦略を考え、作り上げ、適用することは、後回しにできないということである。メキシコの場合、数万人の死者と、制度の崩壊と、麻薬カルテルの権力の増大によって、その点に関して、悲しい例となっている。

 別の見方をすれば、組織犯罪は経済の中に、否定しようのない全般的な歪みを生み出した。つまり、一流の大金融機関、証券取引機関、両替機関は、犯罪組織の売上げ、利益の幅、資金洗浄のために使用される資源を前に、違法行為で生じた資金によって汚染された状態となることを、簡単にはさまたげることができない。より重大なことは、現在の経済の論理によって必然的に、これらの大企業が、血と破壊行為と苦しみで汚れた犯罪組織の資金という、ドル箱となる取引の獲得をめぐって、競争してしまうということである。そして最後には、経済全体が、こういった資金への依存を生み出すことになる。なぜなら、これらの資金が突然金融の循環から消えてしまえば、前例のない世界的な経済危機を、即時に引き起こすことが予想されるからである。

 こういった考察の残念な結論は、違法薬物の搬送と戦う公式の戦略が、現段階では、見せかけの行為になる、ということだ。なぜなら、もし麻薬密売の根絶が真剣かつ誠実に提案され、その目的が達成されることがあれば、破滅的かつ世界的な金融危機が生じるかもしれないからだ。

 世界経済が麻薬に引きずり回されていることと、司法、警察、軍が、本来の使命とは違った行動をとらざるを得なくなっていることの、明白な事実を前に、戦略を変えることが必要である。しかし、ワシントン・コンセンサスという新自由主義の全ての教義を、一度きっぱりと廃止してみることもまた、適切なことだ。なぜなら、そのワシントン・コンセンサスを厳格に適用したことが、世界的な現象としての組織犯罪の高揚のための温床を作ってきたからである。

↑ PAGE TOP

inserted by FC2 system