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史上最強のマフィア、エル・チャポ

数々の死亡説を尻目に、エル・チャポ・グスマンは、かつてないほど強力になっているようだ。連邦検察庁(PGR)の分析によれば、エル・チャポの組織であるシナロア・カルテルは、メキシコにおいて揺るぎない地位を確立し、アメリカ大陸全体にまで勢力を拡大しつつある。PGRの情報部門は、グスマンの組織とライバル組織との国内の縄張り争いの過程で、ここ数年来の流血の惨事よりもはるかに多くの血が、メキシコ国内で流されることになるだろうと警告している。

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写真:シナロア・カルテルのリーダー、ホアキン・グスマン通称エル・チャポ。(Benjamin Flores)

アナベル・エルナンデス
Proceso 2013/02/23

 シナロア・カルテルのボス、ホアキン・グスマン・ロエラは、国内32の自治体のうち20の自治体においてすでに縄張りを確立し、その勢力を国外にますます拡大している。米国麻薬取締局(DEA)が、伝説のマフィア、アル・カポネと共にシカゴ最悪の社会の敵と位置付けるホアキン・グスマンは、その帝国をさらに一層拡張しようとしている。

 フォーブズ誌に世界の大富豪として名を連ねるエル・チャポは、過去数か月の間にシナロア・カルテルの再編成に着手し、さらには「情報提供者」として利用する未成年者を駆り集めた。今では、マリファナやヘロイン、コカインの密輸のみならず、合成麻薬の製造、流通、販売を行うスタッフも抱えている。

 連邦検察庁(PGR)の対犯罪調査分析情報室(CENAPI)の専門家たちは、カルデロン前政権末期に報告書を作成した。その報告書によると、エル・チャポは、単にその覇権の維持だけでなく、勢力範囲を拡張し、今後数か月でライバルたちを始末することを望んでいる。また、勢力を維持し、縄張りを拡大し、制度的革命党(PRI)新政権の保護を得るために、組織に変更を加え、新たな戦略を整えた。

 そして、エンリケ・ペニャ・ニエトとその仲間たちがエル・チャポの名を禁句とし、カルテルという言葉を公式の演説から消した ―まるで犯罪組織などすでに存在していないかのように― その一方で、シナロア・カルテルはライバルと対決するための態勢を整えた。

 CENAPIの報告書によると、エル・チャポが率いる犯罪組織は、「非常に深く根を下ろしており、そのことがエル・チャポに、社会や体制に入り込むための多大な柔軟性や能力を与え、国際的な影響力をもたらしている。シナロア・カルテルはメキシコの麻薬組織の中でも最も複雑な組織であり、様々な組織や犯罪グループを取りまとめている」

 他の犯罪組織と異なり、エル・チャポとその仲間は組織のまとまりを維持することができており、PGRが初めてはっきりと認めたように、現在最も勢力を持つ麻薬組織である。

 「彼らの組織的な保護ネットワークは非常に発達している。そのため、大掛りな物流活動を展開することができる。」 シナロア・カルテルは強大で、至るところに拠点があり、今日では中南米でも勢力を持っている。「シナロア・カルテルは、中南米の拠点を強化すると見られている。シナロア・カルテルの組織的な保護ネットワークは、ライバル組織ロス・セタスのものよりはるかに優れており、中南米に陸上、海上の輸送ルートと保管倉庫を持っている」と報告書に述べられている。

 シナロア・カルテルは、国内32の自治体のうち、少なくとも20の自治体で活動している。報告書の内容から、少なくとも16の州において、暴力が増大することが予想される。

新たな手口

 2001年1月にハリスコ州のプエンテ・グランデ刑務所から脱走して以来、エル・チャポに関する無数の伝説が語られてきた。逮捕されたが逃がされたという説や、すでに殺されているという説 ―少なく見積もっても1ダースほどの死亡説がこれまでに流布している― がある。最近では2月21日(木)、グアテマラのペテン県における抗争で死亡したという説があったが、誤報であった。

 確かなことは、この12年間でエル・チャポが絶大な力を持つ麻薬マフィアになったということだ。CENAPIはその報告書の中で、シナロア・カルテルを新たに「パシフィック・カルテル」と定義した。また、シナロア・カルテルは犯罪や麻薬組織に対抗するべき公的組織から手厚い保護を受けているため、最も強大な麻薬組織となっていることを初めて明言した。

 「彼らの組織的な保護ネットワークは非常に発達している。そのため、大掛りな物流活動を展開することができる」と報告書は指摘し、シナロア・カルテルに協力していると思われる企業、企業経営者、行政区長およびその経験者、裁判官、さらには様々な州の州検察庁長官の名前まで挙げている。

 エル・チャポは、すでに国内外のマリファナ、コカイン、ヘロインの密輸を支配し、今では、麻薬密造所が多数存在するハリスコ州や、「黄金の三角地帯」と呼ばれるシナロア、ドゥランゴ、チワワの3州において、覚せい剤の製造にも精力的に進出している。

 PGRの報告書は、黄金の三角地帯には様々なグレードの精度と性能を備えた製造工場があることを指摘している。また、ドゥランゴ州タマスラの製造工場については、「非常に大規模な目を引く建物で、麻薬やその前駆物質を大量に保管することができ、また同時に、工場で働く大勢のスタッフが寝泊まりすることもできる施設だ」と言及している。この工場は2009年8月6日に解体された。

 報告書によると、麻薬の取引のほかにも、「恐喝、(中小企業経営者に対する)誘拐、ライバル組織のメンバーの拉致」など、シナロア・カルテルのメンバーが「関与している犯罪」がある。

 また、エル・チャポは、現在持っている縄張りの支配力を強化する目的で、未成年者を取り込んでいる。というのは、他の組織の刺客や警察、陸軍、海軍の部隊との抗争を通じて、シナロア・カルテルが下から崩れてくることを避けようとしているからだ。「未成年者は成人と同じ処罰の対象にはならない。そのため、投獄を避けることができ、短期間のうちに再び犯罪行為に加担できるようになる」と報告書は指摘している。

 PGRの追跡調査は、ロス・アントラクスやサンギナリオス・デル・M1のような犯罪グループのメンバーが、主に中学校で未成年者をスカウトする役目を果たしていると述べている。

 「未成年者たちがその行動や忠誠心を示すことによって、彼らに特別な仕事が割り当てられていき、今ではこの未成年者層は、組織の分厚い基盤となっているということがわかる。というのは、未成年者たちは操りやすく、敵対者や警察に捕まったり殺されたりした場合に、代わりが見つかりやすいからだ」と報告書は指摘している。

 未成年者たちの多くは、情報提供者として利用される。提供する情報は、「住んでいる地区や町内周辺の情報であったり、インターネットやソーシャル・ネットワークを通じて得た情報であったりする。」 そして、大抵はシナロア・カルテルの拠点がある地区で、シナロア・カルテルと関係のある不良集団や犯罪グループに加わることになる。

 そうした不良グループのひとつが、「ロス・チャピートス」の名で知られるグループで、そのメンバーは「シナロア・カルテルの年少グループ」と見なされている。報告書によると、ロス・チャピートスはヌエボ・ラレドやシウダー・フアレスで活動している。

(すでに発売中のProceso1895号の主要報道記事より抜粋)

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