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ハゲタカの帝国とアルゼンチン

フアン・トーレス・ロペス
ALAI, America Latina en Movimiento 2014/08/08

 この数日、マスコミでよく聞かれる意見は、債権者への利払いが停止されたのは、アルゼンチン政府が経済問題についてやるべきことをやらず、不適切な経済運営を行ったためだ、というものだ。しかし、この意見は、よくあることだが、現実とはまったくかけ離れている。

債務問題の歴史的背景

 アルゼンチンは、過去数十年間、繰り返し収奪されてきた。最初は、アルゼンチンの寡頭支配層からの直接的な収奪、または、ファシズム軍事政権や文民政権を通しての間接的な収奪だった。彼らは、非常に少数の支配層や企業の利益のために、国民から収奪していただけでなく、何千人もの国民を、殺害したり投獄したりもしていた。また、大企業や世界規模の大手銀行からも収奪された(それらの企業では、スペイン人が支配的な地位を占めている)。そして、最近は、国際投資を行う大手の投機会社から収奪されている。

 収奪のために用いられてきた主な手段は、前述した政治弾圧や殺害以外では、民営化と借金だった。民営化では、新自由主義の汚職政府が、アルゼンチンの企業や所有物を外国企業に売り渡し、外国企業側は、アルゼンチンの優良な企業や資源を、非常な安値で入手した(スペインがアルゼンチン航空を完全に牛耳っていたのがその一例だ)。一方、借金による収奪は、軍事政権が、世界各地に支店を持つ大手銀行の利益のために開始し、その後、銀行側に有利な利率と、新自由主義の歴代政権の破滅的な政権運営とによって、さらに助長されていった。

 アルゼンチンの軍事独裁政権は、大手銀行に気に入られるために、アルゼンチンに450億ドルの借金を負わせた。元金と利息を払い続けて30年が経過し、債務削減や債務再編がたびたび行われたにもかかわらず、現在の債務は当初の6倍に膨れ上がっている。それも当然だ。なぜなら、融資に適用されている複利というものは、債務がなくならないようにするためだけでなく、特に、債権者に正常に返済するための収入源がない場合には、債務が際限なしに増加するように考案されたものだからだ。

現在の債務問題のはじまり

 2001年、アルゼンチン経済は深刻な不況に見舞われ、国民の約40%が貧困に陥った。そこで、臨時政府は利払停止を宣言し、それによって、2002-2004年、アルゼンチン経済は年9%の成長率で回復することができた。状況が少し安定した2005年、キルチネル大統領が、利払停止中の債務の再編を提案した(つまり、条件は変更するが、払い続けるということだった)。この再編案は、債権者の76%に受け入れられた。その後、2010年、フェルナンデス大統領が、別の再編案を提案し、この時点で、債権者の91%が再編を受け入れた。つまり、債務再編に応じていない債権者の債券は、36億ドルのみになったということだ。

 2005年と2010年の再編策は、そもそも不法な債務を国民が返済し続けることを受け入れた点では批判を免れないにしても、再編策としては成功だったと言うことができる。少なくとも、経済を回復することができ、債権者も引き続き利息を受け取ることができたからだ。

ハゲタカ・ファンド

 再編に応じないまま残された9%の債券は、いわゆる「ハゲタカ・ファンド」が購入していた債券だ。ハゲタカ・ファンドとは、利払停止の危険がある債券(利息は非常に高いが、デフォルトの可能性も非常に高いタイプのもの)を故意に買い集め、後に裁判で、額面通りに支払うことを要求する投資家たちのことだ。

 そのため、ハゲタカ・ファンドは、いかなる再編案も受け入れず、投資家に有利な国(通常は米国か英国)で訴訟を起こし、所持している債券の高額な額面金額を請求する。ハゲタカ・ファンドがもうけるために必要なことは、債券の発行国が債務再編を強いられていること(デフォルトを招くために、発行国の経済を悪化させるためのあらゆる手段をとる)と、裁判官がハゲタカ・ファンドの主張を認めることだけだ。最近の例では、ハゲタカ・ファンドのオーナーのポール・シンガー氏が、所有しているアルゼンチン国債について米国で訴訟を起こし、勝訴した。従業員数300人以下のハゲタカ・ファンドが、4000万人以上の国民を抱えるアルゼンチンに脅しをかけているのだ。

国家と国際金融機関の共謀

 これらのハゲタカ・ファンドが、各国の公的債務と、ひいてはその国の経済の安定に及ぼす影響は、偶然のたまものではない。ハゲタカ・ファンドが意図していることは、民間の金融機関の力の前に、各国政府を弱体化させることだ。それが始まったのは、1980年代、債務が膨らんだ周辺諸国の経済を「救済」するため、様々なプランが考案されたときだった。それらのプランでは、投機的な投資ファンドが従来は民間企業の債務に対して行っていたことを、公的債務に対しても行うことが許されたのだ。とりわけ、かの有名なブレイディ構想によって、株式市場で国債を交換することができるようになったことで、国債の債権者数が激増し、各国政府が債権者と交渉することが非常に難しくなった。というのは、債権者の中には、後に正真正銘のハゲタカとして活動するために、債権者として名乗り出ない者が多くいたからだ。

 また同時に、それらのプランを設計・後援していた国際機関は、債務国に対し、自国の司法管轄権を放棄し、他国の司法管轄権を受け入れる条項を認めるよう強制した。

現在起こっていること

 アルゼンチンが現在直面している問題は、ニューヨーク地方裁判所の判事が2012年2月に下した一審判決が、米最高裁で確定したことだ。その判決は、例によって投機筋寄りの判決で、ポール・シンガー氏のハゲタカ・ファンドの主張を認め、2001年に利払停止となった国債について、額面通りに全額支払うことを、アルゼンチンに命じるものだった。

 アルゼンチンは、今年6月末の国債利払期限の前に、米国の銀行にこれまでどおり5億3900万ドルを振り込んでいた。これは、前述の再編案の取り決めに基いた対応だった。しかし、この判決を受けて、米裁判所は、再編案を受け入れなかったハゲタカ・ファンドに額面通りに支払うまでは、それ以外の債権者に支払うことも禁止し、アルゼンチンが振り込んだ利払金を凍結することを命じた。つまり、米国の判事は、1%足らずの債権者の要求に応えるために、残りの99%の債権者への利払いを妨害したのだ。

 この利払金の凍結によって、パラドックスが生じた。米格付け会社のスタンダード・アンド・プアーズがアルゼンチン国債を即座に格下げし、債権者に味方したり投機取引をあおったりして、事態を紛糾させたことからもわかるように、実際に、利払いは停止している。なぜなら、5億3900万ドルは、債権者に届いていないからだ。しかし、アルゼンチン政府は支払った。なぜなら、利息を払うためにお金を振り込んだからだ。

 さらに悪いことに、この判決の結果生じる問題は、これで終わりではない。債務再編が行われたとき、再編に応じた債権者は、条件付きで再編を受け入れていた。その条件とは、ある債権者が(現在ハゲタカ・ファンドが要求しているような)特別な条件で支払いを受けた場合、その時期にかかわりなく、アルゼンチン政府は他の債権者にも同様に支払いを行わなければならないというものだった。このことは、アルゼンチン政府の支払額が膨大な金額に達するかもしれないことを意味している。また、再編を受け入れた債権者から、いわゆる「早期償還」を求められる可能性もあり、その場合、問題は解決不可能になる。

 アルゼンチンは、定期的に債務を返済してきた。何年も前から利払停止中の債券に対してさえも、支払う意志があることを表明してきた。再編案は、ほとんどすべての債権者にとって有利なものだったし、アルゼンチンは、裁判所のすべての判決を受け入れてきた。それにもかかわらず、アルゼンチンは、再び大手金融会社の前にひざまずいている。かつてローザ・パークスが、米国の黒人社会に起こったことについて、「服従すればするほど、ひどい扱いを受けた」と言ったが、それと同じことが、アルゼンチンにも起きている。これが、もうひとつのパラドックスだ。

 総括すると、結論は明白だ。今回のような問題を専門とする完全に独立した国際裁判所がないため、各国の国民は、どんな裁判所のどんな裁判官をも動かすことができる人たちの意のままになっている。国民を代表する政府は身動きが取れない一方で、人類に対する経済犯罪といってもいいような投機目的の金融取引が、したい放題に行われている。債務でもうける商売は、国民、社会の決まり、人々の困窮などのどんなものよりも優先されている。

 ハゲタカの帝国が世界に君臨している。もし世界が立ち上がらなければ、アルゼンチンは、再び大きな出費を強いられるだろう。

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