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地球工学とそのリスク配分の地域的不平等

シルビア・リベイロ*1
ALAI, Ameica Latina en Movimiento 2014/09/18

 様々な研究において気候変動の悪化が指摘される一方で、地球工学(地球規模での意図的な気候操作)の推進派は活発に活動し、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)などの関連国際機関に入り込むことに成功した。また、推進派は、生物多様性条約の締結国会議で決定された「地球工学に対するモラトリアム」を廃止させることや、気候変動関連の会議で地球工学の技術を合法化することをたくらんでいる。

 地球工学は、気候変動を抑制することにはまったく役に立たないだけでなく、大きなリスクを地域によって不平等に分配するものであるため、問題は非常に深刻で、見過ごすことはできない。地球工学のリスクの大部分は、南半球の国々が負うことになるだろうが、それらの国々は、現在の気候変動の原因を作った張本人ではないし、地球工学が原因で異常気象が多発するであろうことも、おそらく認識していないだろう。

 最近の様々な研究によると、地球工学は、ある特定の地域に、より大きな損害を与える可能性がある。例えば、太陽光をブロックして北半球の気温を下げる(地球工学推進派は、それができると言っている)ために、北極の上空に人為的に巨大な火山雲を作るプロジェクトが実際に行われたら、降雨量が増加または減少し、熱帯地方と亜熱帯地方の水循環が崩れることが予想される。そうなれば、主にアジアやアマゾン川流域の熱帯雨林が壊滅的な被害を受け、アフリカの干ばつが悪化するだろう(アンガス・フェラーロ他 「エンバイロメンタル・リサーチ・レターズ」 2014年)。

 2013年に発表された数学的なモデルを用いた研究(多くの国と科学者が参加した気候工学モデル相互比較実験プロジェクト GeoMIP など)においても、やはり、地球工学の様々な提案が抱える深刻なリスクが指摘されている。気候変動を専門とするラトガース大学のアラン・ロボック教授は、すでに2008年に、「火山雲を人為的に配置すれば、降雨パターンに間接的な影響を及ぼすことになり、その結果、アジアとアフリカの20億人の人々が、水と食料を入手できなくなる可能性がある」と指摘していた。GeoMIPプロジェクトの研究の多くは、異常気象は北半球も含めた地球全体に影響を及ぼすという、類似した結論に至っている。

 また、地球工学の火山雲プロジェクトの結果、気温が急激に上昇し、降雨量が増え、南極や北極の氷が大量に溶け出す可能性を指摘する研究もある。つまり、人工火山雲が配置されれば、地球の環境がそれ以前より悪化するかもしれないということだ(アンドリュー・ジョーンズ他 「ジャーナル・オブ・ジオフィジカル・リサーチ」 2013年)。

 地球の力強いエコシステムである気候は、その全容は明らかになっていないが、人間を含むすべての種の生存に必要不可欠なものだ。その気候を、明らかに危険だとわかっていながら、かたくなに操作しようとするのはなぜか?

 理由の一つは(正当な理由とは思えないが)、長い間環境を汚染してきた先進国にとって、地球工学が都合のよい言い訳になることだ。先進国は、地球工学によって、温室効果ガスの排出量を減らすことなく、温暖化を緩和できるかもしれないと考えている。そうなれば、排出量を本当に減らすことを約束せずに、気候変動に関する話し合いを続けることができるし、温室効果ガスの排出権市場でのビジネスを拡大することもできる。地球工学の技術に排出権を割り当てることが認められれば、一層のビジネス・チャンスとなるだろう。

 しかし、最も大きな理由は、石油、石炭、ガスなどの化石燃料資源を扱う多国籍企業にとって、地球工学が素晴らしい選択肢だということだ。化石燃料産業は、世界でも非常に強力な巨大産業のひとつで、採掘のための設備投資は、世界全体で55兆ドルにのぼる。従って、彼らにとって、採掘をやめるという選択肢はあり得ない。また、彼らは、化石燃料の埋蔵量が減少に転じるのは、まだ先のことだと主張し、未開発の地下資源の埋蔵場所や新たな採掘方法(フラッキングや石炭地下ガス化など)を常に考案(またはねつ造)している。フラッキングと石炭地下ガス化は、どちらも環境に非常に深刻な影響を及ぼすものだが、彼らはまったく意に介さない。また、もうかるビジネスになると思えば、代替燃料分野にも参入するが、自らの意志で化石燃料を放棄することは絶対にない。しかし、環境破壊による自然災害は明らかに増加している。そこで、化石燃料産業にとって、地球工学が非常に魅力的な選択肢となる。なぜなら、テクノロジーを駆使して気温を下げたり、大気中の二酸化炭素を除去することで、今まで通り採掘を続けることができるだけでなく、新たなビジネス・チャンスまで与えてくれるからだ。

IPCCの考え方

 このような状況の中で、IPCCは、不条理にも、地球工学を選択肢のひとつと考えており、気候変動の自然科学的根拠を評価する第1作業部会の報告書の中で、気候変動対策としての地球工学の可能性に言及している。つまり、地球工学の深刻なリスクを問題にし、ゴーサインは出さないでおきながら、同時に、地球工学の「太陽放射管理」で気温が下がるかもしれないとほのめかしているのだ。これは、あたかも、IPCCが予測する気候変動の先行きがあまりにも暗いために、「温暖化対策の政策合意は不可能だから、危険すぎるとわかっていても、地球工学を使うしかない」という無言のメッセージを送っているかのようだ。さらに悪いことに、IPCC第3作業部会の報告書では、気候変動の緩和策として、人や環境を破壊する原子力や、地球工学のBECCS(*2)の利用について、繰り返し言及されている。

 BECCSには、有益な点がまったくない。バイオエネルギーは、食料価格、経済、農民や国民の土地、環境などに影響を及ぼすため、非常に多くの人々から批判されている。そもそも、バイオエネルギーを得るということは、バイオ燃料として燃やしてしまうための木や作物を、広大な面積で単一栽培するということで、それは、緑の砂漠を作ることを意味している。推進派は、バイオエネルギーで温室効果ガスを減らすことができると主張しているが、実際にはそうではないため、エネルギー資源としても不適切だ。そこで、今度は、二酸化炭素を回収して貯留するCCSとバイオエネルギーをセットにすることが考え出された。CCSは、二酸化炭素を回収して、陸や海底の深い地層に埋めるための巨大な設備だ。BECCSによるリスクの中でも特に深刻なのは、BECCSが、「地中に埋めた二酸化炭素は、地殻変動があっても、産業活動によっても、何が起こっても決して浮上してくることはない」という前提に立っていることだ。しかし、地中に気体を注入すれば、地層が不安定になるし、もし二酸化炭素が浮上してきたら、想像を絶する大惨事になる。

 今後数カ月の間に、地球工学のような危険な提案について議論するための様々な会議が開催される。ニューヨークにおける気候サミット(9月23日)、韓国における第12回生物多様性条約締結国会議(10月8日-19日)、ペルーにおける第20回気候変動枠組条約締結国会議(12月1日-12日)などだ。また、IPCCは、10月の終わりに、デンマークで第5次評価報告書を発表する。それぞれの会議の前には、社会的な運動も行われる。例えば、PrecopSocialは、ベネズエラが作った機関で、国際会議では取り上げてもらえない意見や、市民社会や社会運動の意見に、発表の場を与えている。ひとつひとつの運動の中で地球工学のリスクを訴え、反対を表明することも重要なことだ。


*1 シルビア・リベイロは、ETCグループ・ラテンアメリカのディレクター、研究者。
*2 BECCSは、バイオエネルギー(BE)由来の二酸化炭素排出点源に、発生した二酸化炭素を大気拡散前に回収し、地下(1000-3000メートル)に送り込んで貯留する技術(CCS)を組み合わせたもの。

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