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地獄の管理人

ハビエル・シシリア
Proceso 2014/06/28

 1980年代以降、メキシコの統治者たちは、国民の保護者であることをやめ、カネを扱う代理人になった。彼らは、社会の安全と平和と均衡を守る責任者という国家の概念を捨て、国家を経済成長の代理店に変えてしまった。人々の生活の全領域を、消費のための財とサービスの無差別な増大の下に置くという彼らの考え方によって、30年後の今、社会的・政治的な不均衡が生じ、社会における生活というよりは、ナチスやソビエトの強制労働キャンプの地獄にそっくりな様相を呈している。

 30年前から、メキシコの統治者たちは、次の六つのことしかしていない。それは、(1)経済活動の規制のメカニズムを撤廃すること、(2)公共部門の企業を民営化すること、(3)地域経済を保護してきた国境を、大企業の資本や商品を利するために、消滅させること、(4)社会投資を削減すること、(5)労働者を守るための措置を撤廃して、民間投資を刺激すること、(6)大企業に対する税金や環境配慮の義務を免除することだ。

 その結果は明らかだ。環境や共同体の知恵がますます破壊され、合法・違法の民間の大資本が増加し、国民と国土は単なる開発可能な資源となり、略奪された大勢の人々が、大企業や犯罪組織のための労働者予備軍となり、失望、恐怖、憎悪、不信がはびこっている。要するに、これは、残酷な道具主義に服従させられた人間が、資本を極限まで増大させるために、国家によってモノとして管理される、天井のない強制収容所と同じことだ。そこでは、発展という方向性を維持するのに役立つという条件付きで、人間は労働者や失業者、殺し屋、誘拐被害者、行方不明者、移民、性的奴隷、恐怖におののく人、その他どんなものにでもなることができる。統治者たちにとっては、その統治者が左派であれ、右派であれ、中道であれ(カネの前にはみな同じだから)、やるべきことは同じだ。つまり、統治者たちが国家を地獄に変えた、その地獄を管理することと、新旧の法制度の下で、権利と搾取の共存は可能だと見せかけることだ。国家というものが、これほどの痛み、死、正義の不在、恐怖を生み出しながら、それと同時に、人権についてこれほど話題にしたことはなかったし、人権保護のための法律や政策を、これほどたくさん作ったこともなかった。

 その意味で、構造改革(すべての政党がこれに賛同した)と、犯罪の増加と、人権保護のために毎日作られる膨大な数の法律や社会プログラムとの間には、密接なつながりがある。発展の論理においては、法律や社会プログラムは、代理人の業務の一部であり、国家の堕落を隠し、幻想の隠れみのの役目を果たしている。しかし、この隠れみのの存在は、かえって国民の真の状況を暴いている。というのは、実際には、国民は完全に見捨てられていて、すでに犠牲者であるか、もうすぐ犠牲者になるか、という状況にあるからだ。要するに、資本の最大化と発展の過程においては、国民は、と殺場の動物のように、管理可能な道具と見なされるということだ。

 その最も明らかな証拠は、人権・貧困対策のために、ものすごい数の法律、改革、各種委員会、プログラムが作られる一方で、依然として、犯罪の95%は無処罰のままであり、貧困も急激に増加(5000万人以上が貧困状態にある)していることだ。また、それ以外にも、国民は、治安の悪さと失業にも直面している。メキシコ統計局が行った全国犯罪被害認識調査によると、2013年、国民が最も憂慮していたことは、治安の悪さだった。この調査では、居住している地区や町の治安について、44%が悪いと感じており、市の治安については63%、国全体の治安については72.3%の人が、悪いと感じていた。また、75.6%の人が、少なくとも1件の犯罪の被害者となる可能性があると考えていた。失業については、46.5%の人が、失業を心配するだけでなく、実際に失業している状態だった。

 これらのデータは、歴代政府がどれほど地獄の管理人に成り果てているかを示している。その地獄は、直近の二つの政権の任期だけでも、死者10万人、行方不明者2万4000人、移住者50万人を出しており、その数は、現在も日々増加しているという極悪ぶりを誇っている。また、近代化政策によって想定されていた通り、国家はその機能を停止し、逆効果をもたらすものとなった。というのは、国家が本来の目的とは逆の目的のために働きはじめ、安全ではなく治安の乱れを、平和ではなく戦争を、公平ではなく不公平を、仕事ではなく失業をもたらすようになり、もはや統治機関ではなく、多国籍資本の搾取、違法行為、国民と国土の私的利用を助ける代理店となってしまったからだ。

 数百年前、ダンテは地獄の光景を描いて見せた。「神曲」第8圏では、詐欺や不正を行った者(その中には内乱を引き起こす汚職政治家や悪い役人が含まれる)は、地獄の管理人ゲーリュオーンに遭遇する運命にある。ゲーリュオーンは、誠実そうな顔に、千通りの詐欺の方法を象徴する多色の皮膚を持つヘビの体をしている。これは、ダンテによれば、詐欺の汚いイメージを表しているのであるが、メキシコの政治家や役人のイメージともぴったりと重なる。

 しかし、私たちは、そのような詐欺師ではない。汚職に関わる政治家や役人に背を向けると決めた、サパティスタなどの社会運動のひとつひとつで、貧困の時代に必ず生まれる新しい動きが拡大している。

 さらに望むことは、サン・アンドレス合意が守られること、争いをやめること、投獄されているすべてのサパティスタやアテンコで弾圧された人々を解放すること、暴力の被害者のために正義が行われること、そして、罪を犯した政治家や役人が裁かれることだ。

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