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メキシコ湾・カリブ海(4/4) マナティーはどこにいる?

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パロマ・ラドロン・デ・ゲバラ・ポラス (メキシコ湾海洋システム総合管理評価プロジェクト、国連工業開発機関)
ベンハミン・モラレス・ベラ (チェトゥマル・フロンテラ・スル研究センター)
La Jornada Ecologica 2015/02/03

 私たちは、子供のころから、牛は家畜として農場で飼育され、食肉や牛乳、乳製品に加工されると教えられてきました。

 牛は恒温の哺乳動物で、空気を呼吸し、体毛を持ち、親とほぼ同じ姿をした子を分娩(胎生動物)し、乳腺から分泌される乳を授乳します。牛は牧草などの草を食べる草食動物です。

 もし牛が、海で生活するのだとしたら、4本の足のかわりにひれがなければなりませんし、水中で長時間呼吸を停止したり、イルカやクジラのように効率よく泳ぐことができる体を持っていなければなりません。しかし、牛は陸に住む動物で、イルカのように泳ぐことはできません。では、「海牛」と呼ばれている動物は、どのような動物なのでしょう?

 海牛とは、水中に住む唯一の草食性哺乳類のことで、マナティーと呼ばれています。マナティーは、哺乳類に属する恒温動物で、肺で空気を呼吸し、子供を母乳で育て、体毛があります。マナティーは、川岸から川に垂れ下がる植物やマングローブ、水草、海草など、水辺の植物を食べています。牛と同様に草食であるため、海牛と呼ばれているのです。

 マナティーは、カイギュウ目に属し、次の3種の存在が確認されています。

(1)アメリカマナティー (Trichechus manatus) は、米国のフロリダ半島周辺から、メキシコ、中米、アンティル諸島、ブラジルにかけて生息しています。

(2)アマゾンマナティー (Trichechus inunguis) は、南米のアマゾン川に生息しています。

(3)アフリカマナティー (Trichechus senegalensis) は、西アフリカの川や沿岸に生息しています。

 マナティーは、アメリカ大陸やアフリカ周辺の、水深の浅い、平均水温20度以上の熱帯・亜熱帯水域に生息しています。海で暮らすこともできますが、川の河口に近い、塩分の薄い沿岸にいることを好みます。

 アメリカマナティーには、二つの亜種があります。ひとつは、フロリダマナティー (T. m. latirostris) で、米国のフロリダ半島周辺に生息しています。もうひとつは、アンティルマナティー (T. m. manatus) で、メキシコ、アンティル諸島、中米、南米大陸北岸に生息しています。

 マナティーは、国際自然保護連合(IUCN)によって、絶滅危惧種に指定されています。メキシコでも、マナティーは、優先保護種となっており(2010年環境天然資源省令059号)、保護対象希少野生動植物種リストでも、絶滅危惧種に指定されています。そのため、様々な研究機関が政府と緊密に連携し、2010年には、複数の専門機関と環境天然資源省の自然保護委員会が共同で、アメリカマナティー保護プログラム"PACEマナティ 2010"を作成しました。

 このプログラムには、マナティー保護のための方針と活動、科学的・専門的知識の紹介、環境教育、マナティー保護活動へのコミュニティーの参加などが含まれています。

 メキシコでは、マナティーは、ベラクルス州からキンタナロー州までの川、湖、沼地、入り江、河口、沿岸地域など、広大な範囲に散らばって生息しています。

 以前は、メキシコ湾に面する全州にマナティーが生息していましたが、過去に過剰な開発が行われたことや、現在もマナティーの生息域が失われつつあること、不注意に設置された漁網にマナティーがかかってしまう事故などにより、マナティーが生息している場所が減少してしまいました。現在、メキシコ国内でマナティーが生息している場所は、主として南東部の、次の3カ所のみとなっています。

(1)キンタナロー州:プラヤ・デル・カルメン、トゥルム、シアン・カアン生物保護区、チェトゥマル湾の沼地や入り江。メキシコに生息するマナティーの調査の大部分は、この地域で行われています。

(2)ベラクルス州:メキシコ湾岸、アルバラド湖、パパロアパン川流域。

(3)グリハルバ=ウスマシンタ川流域とその支流、タバスコ州・チアパス州北部・カンペチェ州西部にまたがる湖沼。

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 マナティーは、水中を効率よく泳ぐことができますが、流れの強い場所は苦手としています。身体はがっしりとしていて、生まれたばかりの赤ちゃんマナティーでも、体長は90cmから1m、体重は約30kgあります。成獣は、体長3m、体重450-500kgに達することがあります。プロペラ形の尾ひれは、お腹側と背中側から押して平たくしたような形状をしており、水中での移動を容易にしています。

 胸びれ(または短い腕)には、爪が3本あります。マナティーは、この胸びれを使って泳いだり、食べ物を押さえたりしたりします。皮膚はゴツゴツとしていて灰色ですが、体表に付着している海藻やフジツボ、甲殻類のために、大抵は緑色に見えます。

 体表には、まばらに体毛があり、鼻と口の周りには、多数の太いひげが生えています。寿命は約60年で、生後3-5年で生殖可能になります。

 繁殖期の間は、1頭のメスと複数のオスが一時的にグループを作り、メスが発情期に入ると、雄たちは争いながら交尾を行います。マナティーは一般的に、3年に一度の割合で出産します。妊娠期間は12-14カ月、授乳期間は1-2年です。子供は、通常2年間、母親の側で過ごします。このことから、マナティーは、個体数の増加のペースが遅い動物であることがわかります。メキシコに生息するマナティーは1000-2000頭で、そのうちの約250頭は、ユカタン半島付近に生息していると考えられています。ベラクルス州、タバスコ州、チアパス州、カンペチェ州の川や湖に生息するマナティーの数は、まだ把握されていません。

 マナティーは、その食習慣を見ると、栄養分をリサイクルする存在だと言えます。というのは、マナティーは、海藻や草などの植物を食べ、それを植物バイオマスに変えることで、沿岸、湿地、マングローブの林に生息する非常に多くの生物の餌を作っているからです。

 マナティーは、1日の3分の1の時間を食事にあてるため、マナティーの食事と排泄は、栄養分の循環を速め、水生動植物(商業的価値の高いものも含まれる)の成長を促進することに、重要な役割を果たしていると考えられます。つまり、マナティーは、生態系の生産性維持に役立っているのです。

 マナティーの捕獲は違法です。メキシコのマナティーの生存を脅かす主な脅威となっているのは、マナティーの生息域の破壊や分断、船がマナティーに衝突する事故、水生植物の減少、密猟、水の汚染、漁網の不適切な設置によるマナティーの死亡です。

 これらの脅威は、すべて人間の活動と密接なつながりがあります。従って、この問題に対応するために、様々な分野から総合的に検討された計画が必要になります。また、マナティーを保護するためには、地域社会の積極的な参加が不可欠です。そこで、マナティーが生息する地域(ベラクルス州のアルバラド湖、カンペチェ州のアタスタ湖、チアパス州のカタサハ湖、キンタナロー州のオルボクス島)や都市(タバスコ州ビジャエルモサ市、ベラクルス州ベラクルス市、キンタナロー州チェトゥマル市)では、何年も前から、社会活動や環境教育のワークショップが行われ、地元の人々や政府、専門家、地域社会が参加しています。

 このような活動以外にも、メキシコ・マナティーの日(9月7日)の制定、座礁したマナティーへの対処方法の確立、専門的知識の普及などによって、マナティーの保護と保全への意識が高まり、市民の参加が増加しました。親を失ったマナティーの子供を海に帰すための訓練や、座礁の監視、モニタリング活動などに、住民が地域ぐるみで参加するようになったことも、その一例です。誰もが、このおとなしく無害なマナティーの絶滅防止のために、何かをすることができるはずです。例えば、次のようなことです。

・湖や川、海、沼にごみを捨てないでください。マナティーの生息域の近くに住む人は、地域でゴミ拾いの活動を行ってください。

・マナティーについて知っていることを、もっと広めてください。

・環境について学ぶ活動に参加し、その内容を家族や友人に伝えてください。

・マナティーから作られた製品を買わないでください。

・お住まいの地域で、9月7日のメキシコ・マナティーの日を祝うイベントを開催してください。

・湿地やマングローブの林を大切にし、保護してください。

・船を操縦するときは、アクセルを踏み込まず、注意深く操縦してください。漁を行うときは、マナティーを傷つけたり殺してしまわないように気をつけ、マナティーの生息域を避け、禁漁期間を守ってください。

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