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市民団体による民事訴訟で窮地に陥るモンサント

遺伝子組み換えテクノロジー世界最大手モンサントは、同社の種子の危険性を指摘する多数の市民団体が起こした訴訟によって、メキシコで大きな打撃を被った。モンサントが、自社製品の安全性をまだ証明していないため、複数の法廷が、巨額のビジネスに待ったをかけたのだ。最も重要な春夏期の播種の開始を数日後に控え、モンサントは、自社の遺伝子組み換えトウモロコシでメキシコの国土の約半分を埋め尽くすそうと、四つの法廷で争っている。

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写真:メキシコ市でモンサントに抗議する環境活動家たち (Octavio Gomez)

マテオ・トゥリエール
2014/05/01 Proceso

 遺伝子組み換え(GM)種子を販売するモンサントは、怒り狂っている。メキシコ北部では今月、春夏期の播種が始まるにもかかわらず、GMトウモロコシの種子を販売することができないのだ。2012年、モンサントは、農地184万ヘクタール分のGM種子を販売するための認可を申請していたが、ある裁判官が認可を保留する判決を下し、別の裁判官もそれを追認した。

 トウモロコシ農家の話では、農地1ヘクタールにまく種子は約8万個で、モンサントの種子1袋(6万個入り)の値段は3000ペソ(約2万4000円)だ。また、この種子を利用する場合、モンサントの除草剤ラウンドアップの利用が必須となる。そのため、モンサントにとっては、メキシコは巨額の利益をもたらす市場だ。というのは、春夏期または秋冬期のどちらか一期に販売する種子だけでも、55億2000万ペソ(約435億円)をもたらすことになるからだ。

 モンサントが焦っていることは、メキシコでのGMトウモロコシの試験栽培、シミュレーション商業栽培、商業栽培の認可保留を決定した裁判官を告訴したことでもわかる。

 2012年までは、農業牧畜農村開発漁業食料省(SAGARPA)は、面積の小さい農地に、GM種子を試験目的で播種することを認可していた。しかし、2012年9月7日以降、政府は、バイオテクノロジー各社が商業目的の播種の認可を申請することに、ゴーサインを出した。

 2012年9月7日から2013年9月3日までの1年間で、バイオテクノロジー各社は、GMトウモロコシの商業利用の認可を14件申請した。メキシコ農産食品安全衛生局(SENASICA)のデータによると、申請された農地は、チワワ州、タマウリパス州、コアウイラ州、ドゥランゴ州、シナロア州、バハ・カリフォルニア・スル州にあり、合計面積は597万3000ヘクタールに達した。

 2013年9月17日、メキシコ市の民事訴訟第7法廷で、認可保留の最初の判決が下された。この訴訟は、SAGARPA、環境天然資源省(SEMARNAT)、バイオテクノロジー各社を相手取り、複数の市民団体が共同で起こしていたものだった。

 本紙が入手した訴状のコピーによると、原告側は、GM作物が法で定められた地域外に拡散し、自然受粉によって他の植物を汚染し、メキシコのトウモロコシの生物多様性を脅かすことになるため、予防措置をとるよう裁判官に要求していた。裁判官は、予防措置をとることを認めた。

 しかし、この訴訟の核心部分は、まだ解決していない。というのは、原告側は、GMトウモロコシの商業栽培を認可するということは、在来種の保護を定めたGM生物バイオセーフティー法に違反することだと明確に認めるよう、裁判所に求めているからだ。つまり、GM作物に反対する市民団体は、認可を完全に撤回することを求めているのだ。

 予防措置の判決以降、SAGARPA、SEMARNAT、バイオテクノロジー各社は、この判決を撤回させようとしているが、その試みをくじく判決が多数下されている。そのひとつが、ハイメ・マヌエル・マロキン・サレタ裁判官が2013年12月20日に下した判決だ。マロキン裁判官は、その判決で、バイオセーフティー法が在来種トウモロコシを保護するものであることを認め、公判が終わるまでは、認可は保留されることを明確にした。

 マロキン裁判官は、判決の中で、GM種子の販売はまだ開始されていないため、予防措置はバイオテクノロジー各社の「財産や権利をはく奪する行為」にはあたらず、また、「いずれかの企業が大きな損害を被っていることを証明する」証拠も存在しないと指摘した。また、予防措置を撤回することは、手続き中の申請をSAGARPAとSEMARNATが認可することに拍車をかけ、その結果、GM作物の拡散をコントロールできないまま、環境放出してしまう可能性があるとし、「回復することが困難または不可能な損害が引き起こされる可能性がある」と述べた。

 モンサントは、マロキン裁判官の判決には公正さが欠けていると考え、今年2月28日、マロキン裁判官に対する忌避申し立てを行い、この裁判から除外するよう求めた。モンサントは、「原告の訴えや予防措置の根拠と合法性について、マロキン裁判官が原告に有利な判決を下した」と訴えた。

 忌避申し立てを行ったモンサントのルイス・ミゲル・ベラスケス・リバノ弁護士は、GM作物の認可を担当するSAGARPAとSEMARNATについても擁護し、「この件を法に従って処理できるのは、SAGARPAとSEMARNATだけであるため、マロキン裁判官の行為は正当化できない」と述べた。

 一方、マロキン裁判官は、忌避の判断を下す裁判官に、「この件に関する個人的な利害は何もなく、この件ですでに下した判決も、今後下すかもしれない判決も、厳密に法に準拠する」と述べた。

 モンサントの代理人は、本紙の取材に対し、「モンサントは、これまで通り問題を公正に解決するため、メキシコの法律を尊重するし、メキシコの司法機関が法に準拠することをも尊重する。(…)現在はまだ、認可の現状について推測したり公表したりする段階ではない」と回答した。

訴訟

 命の種子財団理事で、この訴訟の市民団体側の合同代表を務めているアデリータ・サンビセンテ・テジョ氏は、4月4日、モンサントの訴えに対する市民団体の意見をまとめた書面を、民事・行政第3単独法廷に提出した。

 本紙が入手したこの書面のコピーでは、ワルテル・アレジャノ・オベルスベルヘル裁判官が1月30日に下した、予防措置判決に対するモンサントの権利救済を拒否する裁定が、引用されている。

 モンサントは、権利救済の申請時、予防措置は違法であり、「行政の活動を麻痺させている」ため、「公共の秩序や社会的利益、商業活動の自由を侵害している」と主張した。また、マロキン裁判官が両省にもモンサントにも、裁判を傍聴する権利を与えなかったと訴えた。

 アレジャノ裁判官は、モンサントの主張は「根拠はあるが、効力はない」と判断した。そして、マロキン裁判官が予防措置の継続を決定したときとほとんど同じ言葉を用い、「環境に影響を及ぼす可能性がほんのわずかでもあれば、予防措置は継続されなければならない」と述べた。

 コレクティーバス財団の弁護士で、今回の訴訟で市民団体側の代理人を務めているレネ・サンチェス・ガリンド氏によると、第1巡回裁判所民事第5合議法廷のアレジャノ裁判官は、マロキン裁判官よりも職位が高いことから、アレジャノ裁判官の裁定は、マロキン裁判官が法に従って予防措置の継続を決定したことを裏付けるものとなった。

 また、サンチェス弁護士は、本紙の取材に対し、「モンサントは、マロキン裁判官を担当から外すため、倫理の問題を持ち出してきた。売られたけんかは買うべきだ」と回答した。

 各市民団体は、モンサントによるマロキン裁判官の判決の取り消し要求をはねつけるため、「世界各地の地域社会や市民団体が、モンサントと、モンサントに代表されるアグリビジネス・モデルを拒絶し、抵抗している」ことを記した文書を、裁判所に提出した。

 文書は、インドにおいてモンサントが「バイオパイラシー犯罪」で訴えられた裁判や、GM作物の認可を10年間保留するペルー政府の決定にも触れ、抗議の声は、ラテンアメリカでも高まっていると述べている。

 また、文書は、「モンサントなどバイオテクノロジー各社は、米国で何件も裁判を起こされている。その中には、メキシコの野生種保護地域へのGM作物の拡散を防ぐために、メキシコ政府が根拠として使えそうな裁判もある」と指摘し、虚偽の広告でモンサントを有罪としたフランスにおける二つの判決にも言及している。さらに、モンサントのGM種子と、種子とセット販売される有名な除草剤ラウンドアップの普及が原因で、ラウンドアップの有効成分グリフォサートに耐性のある「スーパー雑草」が出現したことにも触れている。

 マヌエル・スアレス・フラゴーソ裁判官は、4月21日、モンサントの訴えを拒絶し、マロキン裁判官の判決を支持した。スアレス裁判官は、「マロキン裁判官は予防措置の原則に基づき、法に従って措置の継続を決定」し、その決定は「メキシコの治安や経済を危険にさらすものではない」との裁定を下した。

抵抗

 複数の市民団体が合同で訴訟を起こした2013年7月5日から現在までの期間に、この訴訟に対する49件の不服申し立てが、4カ所の裁判所で行われた。市民団体側のサンビセンテ合同代表は「裁判は始まったばかりだ」と言い、サンチェス弁護士は「われわれを疲れさせようとしている」と述べた。

 現在、SAGARPA、SEMARNAT両省とバイオテクノロジー各社は、予防措置に対する11件の権利救済訴訟(うち2件はSAGARPAによる)と、3件の反訴を起こしている。

 最初に不服申し立てを行ったのは、SAGARPA、SEMARNAT両省(10月9日、10日)だった。両省は、本紙1930号にも掲載したとおり、傍聴する権利を侵害されたと主張した。また、2月14日、SAGARPAは、予防措置に対して新たに権利救済を申請し、法の信頼性が損なわれたと主張した。

 SAGARPAのフランシスコ・ブルゲテ・ガルシア長官補佐は、「SAGARPAの弁護士は、SAGARPAが正当に行うべきことを妨げる状況に対し、行動するべきだ。予防措置を撤回させることは、仕事の一部だ」と述べた。また、「訴訟に影響することを避けるため、SAGARPAのミレイユ・ロカティ・ベラスケス弁護士代表は取材に応じない」と説明した。

 全国農業生産取引業連合(ANEC)のビクトル・スアレス理事は、3月31日の記者会見で、モンサントの広告が2つの「虚偽」に基づいていると述べた。ひとつは、GMトウモロコシは、ハイブリッド種や在来種よりも収益性が高いとしていること、もうひとつは、農薬の使用量が減って、環境改善に寄与するとしていることだ。

 スアレス理事は、これについて、本紙取材に次のように答えている。「メキシコでは、トウモロコシ農地の生産性は高くない。しかし、それは、農家がGMトウモロコシを使用しないせいではない。在来種トウモロコシの収穫量は、本来1ヘクタールあたり20-30トンあるからだ。生産性が低いのは、小規模農家に対する総合的な政策がないためだ。在来種はメキシコの気候条件に適応しているが、モンサントの種子は、米国で作られたため、ある特定の気候や灌漑などの条件が必要になる。メキシコのトウモロコシの生産性が上がるかどうかは、土壌の質や灌漑、肥料、日照、害虫対策などを改善するための政策にかかっている。そのためには、政府は、農家が融資や技術支援、土壌、水質、限界収量の分析を受けやすくなるような政策を行うべきだ。有機肥料による地元農業を推進すれば、小規模農家は農地をより有効に利用できるだろう。これは、先祖伝来の農民の知恵と、過去50年のテクノロジーの進歩の融合だ」

 米国の農務省が2月に発表した報告書「米国におけるGM作物栽培」は、「GM種子は収益性が上がる可能性を示していない。実際、除草剤や害虫に耐性のあるGM種子の栽培地は、従来種の栽培地よりも収益性が低い場合がある」と述べている。また、害虫耐性のGMトウモロコシの場合、害虫被害は小さいとしているが、収益性については、害虫による汚染レベルに大きく左右されるとする研究結果が複数あることにも言及している。

 除草剤の利用について、ANECのスアレス理事は、「米国では、除草剤ラウンドアップに耐性のある雑草が現れているため、除草剤の使用量の増加を招いている。手作業やトラクターを使って、雑草を物理的に除去する場合もあるが、その場合もコストは増加する」と指摘している。

 前出の報告書によると、「除草剤の使用量は、GMトウモロコシ農家でも減少はしたが、従来種トウモロコシの農家では、より一層減少した。2010年のデータでは、従来種トウモロコシの農家が農地1ヘクタールに散布した除草剤の量は、GM種の農地よりも少なかった。」 また、2001年から2010年までの間に、米国では、GM種子の価格は50%上昇した。一方、在来種の種子は、GM種子より30%安くなっている。

農業政策

 市民団体側の代理人であるサンチェス弁護士によると、ビセンテ・フォックス政権時代の2005年に作られたバイオセーフティー法の目的は、GM作物にメキシコの門戸を開くことであった。この法律では、GM作物の栽培が禁止される「原産」地域が定められているが、それ以外の地域では栽培することができるからだ。

 バイオセーフティー法は、トウモロコシの原産地域をメキシコ南部と定め、南部における野生種の保護を呼びかけている。そのため、バイオテクノロジー企業は、北部の、しかも水利の良い地域でGM種子を販売しようとしている。また、サンビセンテ氏によると、モンサントは、ナジャリ州の水力発電ダムの近くに、広大な面積の土地を購入している。

 ANECのスアレス理事は、GM種子の促進は、政府が行っていることだと主張している。「現政府は、GM種子の商業栽培を認可したがっている。しかし、抵抗や訴訟のために実現できていない。その証拠に、メキシコのGM作物政策を決定する機関であるGM作物バイオセーフティーに関する省庁間委員会(CIBIOGEM)は、GM作物に好意的な人々で構成されている」

 CIBIOGEMは、執行事務局のほかに、技術諮問会議、市民会議で構成されているが、この市民会議は「何の役にも立たなかった」と、スアレス理事は語った。ANECやグリーンピース、命の種子などの市民団体がこの市民会議に参加していた期間、「市民会議の意見は決して取り上げられなかった。」 そのため、この会議に参加した市民団体の大部分は、2009年3月18日に辞職した。

 市民会議に残ったのは、アグロバイオ・メキシコ(大手バイオテクノロジー企業が集まって作った団体)、メキシコ農畜産業評議会、メキシコ・トウモロコシ商工会議所、メキシコ種苗企業協会などだった。スアレス理事は、「すべてGM作物賛成派だ。市民会議は見せかけだけのものだ」と述べた。

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