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悲劇ばかりじゃない!ある移民少年の物語

いわゆる第一世界に住むメキシコ人移民が体験するのは、屈辱と悲劇ばかりではない。メキシコで封切りされた長編映画「グーテンターク、ラモン(こんにちは、ラモンの意味)」は、移民の生活の明るい側面を描いている。この映画を監督したメキシコ人のホルヘ・ラミレス・スアレス監督(「コネホ・エン・ラ・ルナ」)は、約15年前からドイツに住んでいる。ラミレス監督が、今回映画初主演となった若手俳優クリスティアン・フェレールさんと共に、当誌インタビューに答えた。

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写真:「グーテンターク、ラモン」のひとこま

コルンバ・ベルディス・デ・ラ・フエンテ
Proceso 2014/08/21

 ホルヘ・ラミレス・スアレス監督の最新作「グーテンターク、ラモン」では、メキシコの若者たちの移民問題がテーマとなっているが、ラミレス監督によると、この映画は、「米国にいるメキシコ人少年はみな非行少年だという偏見やお決まりの麻薬マフィア」ではなく、移民のポジティブな側面を描いている。

 この映画は、メキシコのドゥランゴ州、ドイツのヴィースバーデン市とフランクフルト市で、2013年に撮影された。ラミレス監督は、彼自身が脚本も書いたこの映画を、映画愛好家だけでなく、「もっと多くの観衆に見てもらえる映画にしようと思っていた」と語った。その甲斐あって、ハリウッドメジャーを含めた多数の映画会社が上映を希望し、最終的には20世紀フォックスが、8月21日(木)からメキシコで公開することになった。ドイツでは今年11月下旬、米国では2015年に公開予定で、その後、ラテンアメリカとその他の国々でも公開される。

 主役は、今回が映画初主演のクリスティアン・フェレールさん(19歳)が演じる。また、メキシコ人俳優のアドリアナ・バラサさん、アルセリア・ラミレスさん、ドイツ人俳優のリュディガー・エバーズさん、フランシスカ・クルーズさん、インゲボルク・シェーナーさんらが出演している。

 主人公のラモンは18歳、米国への密入国に5回失敗し、麻薬マフィアに入ることも拒み、友達の伯母が住むドイツに行くことにする。ラモンは、その伯母に助けてもらって、ドイツで仕事を探すつもりだったが、伯母を見つけることができない。ビザもなく、金もなく、スペイン語しか話せないまま、路頭に迷う。そんなとき、年金生活をする老婦人ルースと出会う。ルースはスペイン語を話さないが、ラモンを助けることにする。ラモンとルースは、身振り手振りと絵を使って、コミュニケーションをとっていく。

 ラミレス監督(1969年メキシコ市生まれ)は、14年来住んでいるドイツのヴィースバーデン市で、電話によるインタビューに応じ、「この映画では、人と人との友情や連帯を描きたいと思っていました。作品中でラモンに起こったようなことは、現実にもたくさんあるのです」と述べた。

 「メキシコにはチャンスがまったくなく、多くの若者たちが移民しなければならないことは、心配なことです。移民たちの身に起こる悲惨なことは、ニュースで見たりして、すでに誰でも知っています。でも、私が描きたかったのは、ラモンというメキシコ人少年が、あるすばらしい老婦人と知り合ったことから生まれた、友情の物語です。ラモンがとても無邪気で純粋なため、老婦人は彼を助けてあげるのです。ですから、ラモン役は少年であることが前提でした。主役のフェレールは、メキシコのドゥランゴ州で撮影していた期間は17歳で、ドイツでの撮影に出発する前日に、18歳になりました」

 「コネホ・エン・ラ・ルナ」「アマール」「ロス・インアダプタードス」などの作品も手掛けたラミレス監督は、「グーテンターク、ラモン」について、「現実的で、おもしろくて、感動的で、すべての要素が少しずつ入っているストーリーです。そういう映画を作るのが好きだし、人生でも同じことが言えます」と述べた。

 この映画は、ラミレス監督の映画会社ベアンカ・フィルムズと、ドイツのMPNケルン・フィルム3の共同制作で、メキシコの映画産業促進投資基金(FIDECINE)、映画産業支援資金(EFICINE)、ドゥランゴ州政府から、資金援助を受けた。

ドイツの人々の連帯

 ラミレス監督が「グーテンターク、ラモン」の制作に着手したのは2009年、完成までに5年(脚本に2年、資金集めに1年、撮影・編集に2年)を費やした。

 ラミレス監督は、自身の政治スリラー映画「コネホ・エン・ラ・ルナ」がメキシコ国外で上映されたときのことについて、この映画が高級官僚の汚職を扱ったストーリーであるため、メキシコ人たちがひどく悲しんでいたと語った。

 「映画を見たメキシコ人たちと話をしましたが、彼らはがっかりしていました。それで、私は、社会的な問題を扱いながらも(というのは、社会的な問題を描かずに映画を作ることは、私にはできないからですが)、『コネホ・エン・ラ・ルナ』とは違うタイプの映画を作ることを、念頭に置くようになりました。その後、移民問題のネガティブな側面を扱った映画が、小さいマーケット向けに制作されるようになりましたが、私としては、移民後の生活がうまくいった例もあると思いますし、悲劇ばかりではないと思っています」

 「『グーテンターク、ラモン』の脚本を書くために取材をしていたとき、とても多くの人たちがヨーロッパに移民してきていること、そして、中には移民先の人々に助けられ、うまくいっている人もいることに気づきました。連帯と友情は大切です。私は、この側面を撮りたかったのです」

実在の人物に着想を得た

 「私はドイツで、作品中のルースのような女性と知り合いました。彼女はマンションに住んでいましたが、そのマンションの住民は、80歳以上のひとり暮らしの高齢者ばかりでした。これには驚きました。また、ラモンのような少年たちにも出会いました。彼らは、清掃の仕事をしながら、かなりの期間、ドイツに住んでいます。ドイツ語も話せず、何の保証もなく、無い無い尽くしです。そして、そんな彼らに寝る場所を提供している老人もいました。少年たちは働いて、メキシコの実家に金を送っていました。また、米国へ密入国しようとしたけれども、ひどい目にあったとも話してくれました。移民問題は、現在のドイツが抱える問題のひとつです」

 - 米国が、未成年の移民の入国を妨害していることについて、どう思いますか?

 - もし、そのような少年少女がドイツにやってきたら、まず最初に、どこかの国に家族がいないか調査が行われるでしょう。もし家族がいなければ、施設に収容されると思います。それらの少年をいきなり本国へ送還することはできないと思います。就労ビザを得ることは難しくて、色々な手続きや決まりがあります。

 先週、国連児童基金(ユニセフ)は、米国の南の国境で2013年10月から2014年5月までの間に捕らえられた少年4万7000人のうち、4分の1はメキシコ人だったと発表した。

 ラミレス監督は、ルースを通してナチズムに触れているが、他の映画でよく描かれているような過去のドイツ「ナチス」を描きたくはなかったと述べている。

 「ルースは80歳で、まだ10歳にならない頃に起こった第二次世界大戦のことを覚えています。ドイツには明らかに歴史の産物が残っています。ナチズムは、過去のものになってきていますが、ドイツが背負い続けていくものでもあるのです。以前のドイツでは、現在のようにワールドカップでドイツの国旗を掲げたり、華々しく祝ったりすることは、難しいことでした。1990年、ワールドカップ・イタリア杯で西ドイツが優勝したときも、誇らしげに祝うということはありませんでした。不可能だったのです。ドイツ人がドイツ人であることに、誇りを持てなかったのですから。第二次世界大戦から月日がたち、ドイツ人は誇りを持てるようになってきました。ワールドカップで勝ったドイツの選手や一般のドイツ人は、このことから、ナチスの残虐行為は二度と繰り返されてはならないことだと、教えられました」

 「ドイツの政府は、完全に民主主義的で反独裁主義的な構造になっていて、政党も一つではなく、二つあります。ドイツでは、子どもが生まれたら、18歳になるまで給付金が支給されます。もちろん、すべてが完璧とは言えず、問題もあります。例えば、『グーテンターク、ラモン』にも、ラモンを嫌うドイツ人が出てきます。でも、だからと言って、ドイツ人すべてがナチスで人種差別主義者だとは言えないのです」

 ラミレス監督は、「グーテンターク、ラモン」は20世紀フォックスが扱うと述べた。というのは、ドイツとメキシコを頻繁に往復するラミレス監督が撮影を開始する前に、脚本を最初に読んだのが、20世紀フォックス・メキシコのフアン・カルロス・ラソ社長だったからで、また、大手配給会社が扱えば多くの人に見てもらえる可能性があり、ラミレス監督の希望に添うということもあった。

 ラミレス監督は、すでに次の作品をドイツのMPNケルン・フィルム3と共に制作中で、「4つの国が関係している」作品だと明かした。そして、インタビューの最後に、「自分でもこの勢いを止められないよ」と笑った。

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