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米墨国境で立ち往生するハイチ人移民

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写真:米国への移民を希望するハイチ人7800人以上が、何カ月も前からメキシコで立ち往生している。 (Andalusia Knoll Soloff / En el Camino)

アルベルト・ナハル
IPS 2017/06/07

 ティフアナで望みは絶たれた。南米から中米へと6カ月かけて移動し、米国に接する国境の町ティフアナ(メキシコ)にたどり着いたウィリアム・ランドルフさんは、ドナルド・トランプとはだれか、彼が作ろうとしている壁とは何かを、真に理解した。

 ランドルフさんは腕の良い配管工で、家全体の配管を3~4日で仕上げることができる。リオデジャネイロ・オリンピック(2016年)の競技場や選手宿泊施設を建設する作業員として働くため、5年前に出身国のハイチを去った。

 ブラジルではすべてが順調で、米国に移住するという当初の目的を変えても良いと思うほどだった。しかし、オリンピック前に経済危機が起こり、その後、政治情勢も不安定になったため、再び米国行きを決意した。

 2016年9月、ランドルフさんは、米国を目指してブラジルを出発した。メキシコのティフアナに到着したのは今年3月、バスを降りるとすぐに、ティフアナの市街地から数メートルのところにある、米墨国境のサン・イシドロ検問所に向かった。

 移民税関捜査局に行き、ハイチ人移民の臨時入国許可待遇を申請するつもりだった。2010年のハイチ地震後に開始されたこの措置は、ハイチ人は米国に入国し、少なくとも18カ月滞在することができるというもので、2017年7月まで有効であるはずだった。

 しかし、ランドルフさんは、米国に入国できなかった。大勢のハイチ人が、米国に入国できずにティフアナにいた。「2カ月間刑務所に入れられたやつもいた。話すことは禁じられていて、ひどい扱いを受けたらしい」と、ランドルフさんは語った。

 米国に移民する望みは絶たれた。ブラジルに戻ることはできないし、ハイチには決して戻らないつもりだった。結局、ティフアナに残ることにした。

 国境から市街地に戻る途中には、ランドルフさんと同じように、ティフアナに残ることを選択をしたハイチ人が大勢いた。

 市民団体の調査によると、7800人のハイチ人が、米国に入国できずに、メキシコにとどまっている。彼らの大部分は、メキシコに不法入国し、不法滞在しているため、正確な数字を把握することはできない。

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写真:メキシコのバハ・カリフォルニア州の国境の町ティフアナに滞在するハイチ人グループ (Andalusia Knoll Soloff / En el Camino)

 それらのハイチ人の大部分は、ティフアナやメヒカリなど、バハ・カリフォルニア州の国境沿いの都市にいるが、メキシコ市や、南部のチアパス州のタパチュラにも滞在している。

 帰化住民・アフリカ系住民のための市民会議(CCDNAM)を設立したウィルネル・メテルスさんによると、メキシコにいるハイチ人移民は、みな同じような状況にある。

 つまり、仕事がないか、または、低賃金で長時間労働をしている。数カ月前までは、大勢のハイチ人移民が移民宿泊所に住んでいたが、米国からメキシコ人が送還されてきたため、移民宿泊所はメキシコ人でいっぱいになった。

 メテルスさんは、「州や市の政府は、ハイチ人移民を援助せず、食事は一般の市民がわけてくれるものだけで、量も不足している。アメリカから送還されてくるメキシコ人の数は、増える一方だ。移民宿泊所は、メキシコ人を泊めるか、ハイチ人を泊めるかの決定を迫られ、メキシコ人を泊めることを選んだ」と語った。

 移民たちは、いつも援助なしで放っておかれる。移民宿泊所を出たハイチ人の一部は、ティフアナやメヒカリの高速道路の高架下で寝起きするようになった。

 なかには、1週間の仕事を見つけ、下宿をする人もいるが、下宿代を払えばギリギリだ。

 「移民宿泊所では食事を出してくれるが、下宿住まいの場合は、食費として少なくとも40ペソは必要だ。ほとんどのハイチ人は食事代が出せず、食べない日が何日もある」と、メテルスさんは言う。

 あるハイチ人移民は、雇用主がこの状況を都合のいいように利用していると語った。「私たちは密入国しています。だから、給料を少ししか払ってくれないのです。私はアイスキャンディーを売る店で働きましたが、雇い主から、日給200ペソで1日14時間働くように言われました」

 入国書類がないことは、労働搾取につながる。トランプ政権の移民政策が強硬であるため、多数のハイチ人がメキシコにとどまる決心をし、メキシコに合法的に滞在する方法を探している。

 メテルスさんによると、メキシコ移民局(INM)は、人道的措置として、4300人にビザを発行することを提案しているが、パスポートの提示を条件としている。

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写真:移民宿泊所のサッカー盤ゲームで遊ぶハイチ人 (Andalusia Knoll Soloff / En el Camino)

 ハイチ人の98%はパスポートを持っておらず、パスポートの取得も難しい。というのは、メキシコにあるハイチ大使館は、パスポートの取得時に100ドルを請求するからだ。100ドルが払えるハイチ人移民は、ほとんどいない。

 この悪循環を断ち切る方法は、今のところ見つかっていない。「私たちは、メキシコ移民局に、パスポート以外の身分証明書による申請も受け付けるよう求めていて、現在交渉中だ。しかし、ハイチ人が、ハスポートだけでなく、身分証明書を何も持っていない可能性もある」と、メテルスさんは語った。

 メキシコ移民局のロドゥルフォ・フィゲロア・パチェコ代表は、先日、今年の年末までにビザを取得していないハイチ人は、強制送還されると発表した。

 ハイチ人移民希望者の一人、ミッキー・ジャン・ゲリンさんは、ハイチで中学校・高等学校を経営していた。しかし、2010年のハイチ地震で、学校を閉鎖せざるを得なくなった。数年間は、復興のための建設現場などで働いたが、その仕事もすぐになくなった。

 そこで、ゲリンさんは、多くのハイチ人と同様にブラジルへ働きに行き、2016年の半ばに米国へ向けて出発した。しかし、米国に入国することはできず、ひとまず、メキシコに滞在することにした。

 「トランプ政権は永遠に続くわけではない。次の政権になれば、おそらく、米国に入国するチャンスも訪れるだろう。メキシコは、今のところプランBだ。けれども、いつなんどきハイチに強制送還されるかわからないから、ビザを取得したい」と、ゲリンさんは話した。

 プランBを選択せざるを得ないのは不条理だ。なぜなら、ハイチ人に対する臨時入国許可待遇は現在も有効であるため、ハイチ人は、移民税関捜査局に行くだけで、米国に入国することができるはずだからだ。

 しかし、それも実際には、移民局の係官の判断次第だ。係官は、最近のトランプ大統領の政策によって、前代未聞の恣意的な決定権を与えられた。係官は、係官個人の(たいていは偏見に満ちた)基準によって、だれが臨時入国許可を受けることができるかを、決定することができる。

 また、係官は、ビザを持っている入国希望者についても、入国できるかどうかを決める権限を持っている。実際、多数の正式な入国ビザが、係官の気に入らなかったというだけの理由で、拒否されてきた。

 さらに、係官は、個人の判断で、移民を拘置所に送ることができるため、ハイチ人にとっては、これも危険のひとつだと、メテルスさんは言う。「毎日、米国からポルトープランスへ向けて、飛行機が2便飛んでいるが、まったく無駄なことだ。ハイチ人は、強制送還されても、もう一度移民の旅を開始するからだ」

 バハ・カリフォルニアの国境で立ち往生しているハイチ人は、永遠の悪夢を見ているようなものだ。元学校経営者のゲリンさんは、「ハイチには未来がない。戻っても仕方がない。以前はメキシコに住むことは望んでいなかったが、今はここでいいと思っている。ただ、メキシコ人のように自由に、合法的に生きようと思えば、ビザが必要だ」と語った。

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