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IMFまで欧州の緊縮策を批判?

ヨーロッパの指導者たちはIMFの発表に不満

エリック・トゥーサン
仏→西訳:ラウル・キロス=グリセルダ・ピニェロ
ALAI, America Latina en Movimiento 2013/03/15

 2012年10月、国際通貨基金(IMF)は、ヨーロッパの危機が深刻化していることを説明する重要なポイントを発表した。IMFの調査局は、公共支出をGDP比1%削減するごとに、国内総生産(GDP)が0.9-1.7%減少する原因となることを明らかにした。そのことから、フィナンシャル・タイムズのウォルフガング・ミュンヒャウ論説委員は、今回の危機において3%の財政調整(つまり、公共支出を3%減少すること)は、GDPを4.5%減少させることになると推測している(1)。従って、ヨーロッパの各国政府が継続している政策は、経済活動を縮小させ、公的債務の負担の減少を妨げることになる。しかし、ミュンヒャウも指摘するように、この発表を行ったIMFの真意を取り違えてはいけない。「IMFは、緊縮政策が過度に厳しく不公平であるとか、短期的に度を越えた困窮を引き起こしているとか、富裕層より貧困層へのダメージが一層大きいとか言っているのではない。IMFはただ、適正な期間内での債務削減という目標は、緊縮政策では達成できない危険性がある、と言っているだけだ(2)」

 一方、IMFのクリスティーヌ・ラガルド専務理事は、緊縮政策の適用は、もっと長い期間をかけて段階的に行うべきであり、経済を活性化するためには公共支出が増加することもあり得ることをほのめかした。これは、IMF加盟国内の新興諸国(特に、中国、ブラジルをはじめとするBRICsの国々)からの圧力を受けて言ったことだ。というのは、それらの新興諸国は、ヨーロッパの輸入の減少がブーメラン効果をもたらすことを恐れ、ヨーロッパにおけるIMFの財政的な関与の度が過ぎることを批判しているからだ。ラガルド専務理事は、2012年10月に東京で開催されたIMF・世界銀行年次総会において、その観点から講演したが、ヨーロッパの指導者たちは、IMFの文書やラガルド専務理事の進言に対して、不同意を表明した。例えば、東京での年次総会において、メルケル政権のショイブレ財務大臣は、時宜を得ない干渉であると、ラガルド専務理事を公然と非難した(3)。

 ウォルフガング・ミュンヒャウは、緊縮政策を一層推し進めることについて、IMFが慎重な意見を表明したことで、強硬路線を信頼するヨーロッパの指導者たちの態度に変化がもたらされることはないと考えている。「ヨーロッパの支配者たちは、彼らの信用が危機的な状況にあるときには、偏執狂のようになる。私の予想では、彼らの緊縮政策が破たんして不愉快な終末を迎えるまで、その方向性が変わることはないだろう」(4)

 IMFと欧州委員会との間の緊張は、2012年11月14日、再び表面化した。ルクセンブルク出身のユーログループ議長ジャン=クロード・ユンケルがギリシャの見通しについて述べた楽観論に、クリスティーヌ・ラガルド専務理事が反論したのだ。どうやらIMFは、ヨーロッパの方向性の決定における影響力を強化するために、欧州委員会に圧力をかけようとしているようだ。新興諸国と米国は、ヨーロッパの危機の解決に彼らの意見が反映されるよう、IMFに干渉している。というのは、IMFはそれらの国々に、資金面での援助を要請しているからだ。

IMFは乱暴な緊縮政策が歴史的に失敗に終わってきたことを主張

 すでに公表されているIMFのもう一つの報告書「世界経済見通し」は、2012年10月の年次総会直前に発表された。この報告書でIMFは、1875年以降に起きた公的債務危機のうち、債務が対GDP比100%を上回った26の事例について、危機を脱するために取られた政策を入念に分析している。そのひとつが、第一次世界大戦後の英国で起こった危機である。英国の公的債務は、対GDP比140%に達していた。そのため、英国政府は急激な緊縮財政政策と厳密な通貨政策を実施した。1920年代を通して、公的債務を減らすため、GDPの約7%にあたる金額の基礎的予算の黒字を、大急ぎで返済していった。しかし公的債務は減少せず、1930年には対GDP比170%に達し、その3年後の1933年には190%にまで達した。

 フィナンシャル・タイムズのマーティン・ウルフ論説委員によると、英国政府が実施した政策の真の目的は、労働運動を潰すことであった。1926年にゼネストが組織されたが敗北し、労働運動の退潮は第二次世界大戦後、何十年間も続いた(5)。このことは、現在ヨーロッパで起こっていることを、まさに連想させるものだ(6)。ウルフによると、ヨーロッパの指導者たちとスペインのマリアノ・ラホイ政権は、失業をちらつかせて、賃金を大幅に下げることを望んでいるが、しかし同時に、スペインの実質GDPは減少しており、緊縮政策の努力は、より一層GDPを減少させることになるだろう。また、ウルフは、この政策がイタリア政府の政策にも影響を与えていることを指摘し、世界的な主要金融紙のコラムニストとしては異例と思われる次のようなコメントで論説を結んだ。「金融の閉塞感に苦しむ国々における予算の緊縮政策と賃下げのための努力は、社会や政府、そして国家までをも破壊してしまうかもしれない。」 実際、マーティン・ウルフは数か月前から、緊縮政策は、EU諸国を行き詰まらせるものだと繰り返し述べ、2013年2月のイタリアでの選挙におけるマリオ・モンティの屈辱的な敗北を、その例として挙げていた。

 前述のウォルフガング・ミュンヒャウが指摘するように、ヨーロッパの指導者たちは、緊縮政策を引き伸ばし、追求することを望んでいるのだ。

ヨーロッパの指導者たちは、なぜ緊縮政策を加速化するのか?

 ヨーロッパの指導者たちが問題に気付いていないと考えることは、間違いだろう。彼らのやりたいことは、成長経済へ回帰することではない。また、EU内のまとまりを一層強化して繁栄を取り戻すために、EU内の不均衡を是正することでもない。EU諸国の行政を導くヨーロッパの指導者たちは、第二次世界大戦の終結以降獲得されてきた経済的社会的権利に対して、ヨーロッパ規模の大攻勢をかけようとしているのだ。この意味で、ここ数年実施されてきた政策は成功であった。というのは、失業を増加させる緊縮政策を適用することで、雇用をますます不安定化して、ストライキや労働運動をできないようにし、賃金や様々な社会保障給付金を減らすことに成功しているからだ。その一方で、EU内での競争を増大させるために、EU内の労働者の間に著しい不平等を維持している。ヨーロッパの指導者たちが目指している目標のひとつは、ヨーロッパの企業の力を強化し、世界の他の地域の競争相手から市場占有率を奪い取ることだ。そのためには、経費を急激に減らすことが必要だと彼らは言う。これは、ヨーロッパの労働者たちに、決定的な痛手を与えることを意味している。ヨーロッパの指導者たちはまた、他の目標も達成しようとしている。すなわち、公共サービスに対する攻撃を実行すること、銀行の破たんをできる限り防ぐこと、立法権に対する行政権(欧州委員会や各国政府)を強化すること、資本を優遇する政策を固めるために、条約による制約の押しつけを強化すること、などである。

 選挙対策のための費用は上昇するかもしれない。しかし、全体としては、従来からヨーロッパを支配している政治家の数家族は、選挙に敗北したとしても、次の選挙では勢力を回復するだろうと考えている。いずれにしても、野党になることは、国家機構やEUの諸機関などで彼らが得てきた多くの地位を失うことを意味するものではないし、地方当局(都市、地方政府)における地位についても言うまでもない。

 ヨーロッパの指導者たちの計画を少々複雑にするのは、ブッシュ政権の政策を引き継いで、緊縮政策を急速に推し進めるというオバマ政権の決定だ。この決定により、米国において、特に公共支出や社会保障費の予算がますます削減されるだろう。このことは、市場占有率を増やしたいヨーロッパの企業にとっては、好ましいことではない。日本だけは、弱い刺激策を実施しようとしているようだが、結果を待たなければならない。

 そこで結論は、次のようになる。前述したように、IMFとヨーロッパの指導者たちの目指しているものは、まったく同じである。実際、2012年12月にオバマ政権は、米国の緊縮政策を急激に推し進めると発表したが、その後、クリスティーヌ・ラガルドからも、その他のIMF幹部からも、ヨーロッパで実施されている政策についての批判的な意見はまだ聞こえてこない。

 従って、IMFの発表の意味を取り違えてはいけない。IMFは確かに、ヨーロッパの指導者たちとは少々距離を置いた。しかしそれは、戦後獲得された社会的権利を攻撃したり、民営化を後押ししたりする構造調整政策を放棄するよう説得するためではない。IMFが意図するところは、様々な決定における影響力を増すことであり、また、それを知らしめることだ。IMFが今後も、財政収支を均衡させる速度を少し落とした方がいいと、ヨーロッパの指導者たちに言い続けるかどうか、数か月後にわかるだろう。IMFの調査局の研究の中には、現在支配的な政策とほぼ正反対と言ってもいい主張を含んでいるものもある。しかし全体としては、IMFの態度は少しも変わっていない。そしてこの態度に対してこそ、私たちは全力で戦っていかなければならないのだ。

エリック・トゥーサンは政治学博士、ベルギーCADTM代表、フランスATTAC科学評議会会員。

注釈
1. Wolgang Munchau "Heed the siren voices to end fixation with austerity" FinancialTimes 2012/10/15
2. The IMF does not say that austerity is too hard, too unfair, causes too much pain in the short term or hits the poor more than the rich. It says simply that austerity may not achieve its goal of reducing debt within a reasonable amount of time.
3. Financial Times "German minister rebukes IMF head. Schauble criticises Lagarde call to ease up on austeriry" 2012/10/12
4. Wolgang Munchau "Heed the siren voices to end fixation with austerity" Financial Times 2012/10/15. European policy makers are paranoid about their credibility, and I expect them to hold on to austerity until the bitter end, when the policy implodes.
5. Martin Wolf "Ce que nous enseigne l'histoire de la dette publique" Le Monde 2012/10/15
6. Vease Eric Toussaint "La mayor ofensiva contra los derechos sociales realizada desde la Segunda Guerra Mundial a escala europea tercera parte de la serie" "Bancos contra pueblos: los entresijos de una partida amanada" 2012/12/30

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