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メキシコ人移民、国境の向こうでもこちらでも苦境

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写真:移民希望者。米国サン・ディエゴと国境を接するメキシコのティフアナで。(Eduardo Miranda)

マテオ・トゥリエル
Proceso 2013/04/30

 米国において、移民政策が厳格化されたことや、労働市場が厳しい状況にあることは、とりわけメキシコからの移民に影響している。その影響は非常に大きく、米国へ移民したメキシコ人たちは、帰国し、そのままメキシコに定住せざるを得ない状況である。

 しかし、国境を越えてメキシコに入ると、彼らは、「何とか生活していく」ための様々な問題に突き当たる。「米国およびメキシコにおけるメキシコ人移民についての両国間の対話」という報告書を発表するにあたり、今日、メキシコと米国の専門家たちは、このように警告した。

 報告書によると、2010年のメキシコの国勢調査では、98万人のメキシコ人が、米国で生活していたことがあると回答した。その5年前の調査では、わずか23万人であった。

 米国にいるメキシコ人移民の雇用や生活環境は、2000年から2007年までの間は向上していた。報告書によると、メキシコ人移民のグループの失業率は、米国内で最低であった。しかし、金融危機によって最も痛手を受けたのも、メキシコ人移民であった。というのは、2008年以降、メキシコ人移民の失業が増加し、その他のグループよりも、所得が大幅に低下したからだ。

 米国で生まれ、メキシコに移住した人々の数は、2010年では73万9000人で、その77%が未成年であった。

 「メキシコが、これほど大勢の移民を受け入れるのは、かつてないことだ」と、米国ジョージタウン大学国際移民研究所の政策研究ディレクターのリンゼイ・B.ローウェル氏は、報告書の発表会見の中で述べた。

 しかし、報告書は、2005年から2010年の間に、メキシコへの帰国移民が増加したのではなく、米国を出国したメキシコ人移民が、再び国境を越えようとしないのだ、と指摘している。

 メキシコの出生率は低下し、2012年には、妊娠可能年齢女性一人あたりの子供の数が、平均2.2人まで低下したにもかかわらず、上記のような理由から、メキシコの人口は、実質的には増加し続けている。

 その代償として、2010年から2012年の農業部門における雇用が、10%増加したにもかかわらず、メキシコの労働市場は、仕事を探す若者たちを吸収しきれない状況にあることを、報告書は指摘している。

 しかし、米国の雇用の見通しも弱く、雇用数はわずかに増加しているだけで、それは、メキシコ人移民が従事してきた仕事についても同様である。

 それと同時に、メキシコから米国への移民の数は、「過去30年から35年の中で、最も低い水準」まで低下した。2005年には、68万人のメキシコ国民が米国へ移民したが、2010年には、その数は10万6000人まで減少した。

 メキシコを揺るがす暴力も、移民を抑制する要因になっている。国境付近の州は例外で、米国への距離の近さから、移民する人々の割合が高くなっている。その上、メキシコ北部の移民で構成される少数のグループは、より多くの資金を持ち、高い教育を受けている傾向があると、報告書は指摘している。

 「(農村における)殺人率が高くなると、移民率が低くなることについては、メキシコ国内の移動中の治安が非常に悪化していることや、財産や人の安全に対する脅威に対抗するために、家族が一緒にいなければならないことが、その理由である可能性がある」と、報告書は述べている。

 米国への移民の数がこのように低いままであれば、2010年から2020年の間、180万人近い人々が、メキシコの労働市場に加わることになる。これは、経済危機以前であれば、米国へ移民していたであろう人々の数と、同人数である。

 研究者たちによると、移民たちは、メキシコを去るときには、米国にいるメキシコ人移民よりも健康状態が良い。しかし、ひとたび米国に渡ると、悪い習慣(果物や野菜の摂取が減ることや、タバコやアルコールの消費が増えることなど)や、厳しい労働条件、不法移民であることからくるストレスなどによって、時が経つにつれて、身体的にも精神的にも、健康が害されていく。

 メキシコに帰国した移民の死亡率は一層高く、移民したことがないメキシコ人よりも、身体的な障害に苦しむ場合が多い。

 米国では、「メキシコ人移民は、社会保障サービスから、ますます遠ざけられている。2009年の社会保険の権利についての法改正において、不法移民も除外されるようになった」と、社会人類学高等調査研究所のアグスティン・エスコバル・ラタピ研究員は主張した。

 「メキシコに頻繁に帰国する移民たちは、一般的に、帰国しない移民たちや、移民の故郷の人々よりも、健康状態が悪い」と、報告書では指摘されている。

 このことは、帰国する移民が、2種類に分類されることを示している。一方には、能力や経済力を高めることに成功し、「確固たる地位」を築いて、自身の意志で帰国する移民たちがいる。他方には、強制送還者たちがおり、「メキシコ社会に溶け込むために、相当な支援」を必要としている。

 米国政府は、不法移民たちを国境へ戻すが、そこでは、国境付近のメキシコの都市における犯罪の多さなど、極端に危険な状況が待ち受けることになる、と報告書は述べている。

 研究者たちの調査によると、ひとたびメキシコに戻されると、そこでは、社会復帰のための有効な対策が不足している。帰国した移民たちにとって、社会保険、教育、その他の社会保障を受けるための書類を入手することは、容易ではない。

 それどころか、「地方政府は、勝手な決定を下している。移民や、特に国外で生まれた子供たちが、学校に入学するなどの権利を得るべきではないと見なした場合は、出生証明書のような書類を取得することを妨害することもある」と、報告書は指摘している。

 米国生まれのメキシコ人移民の子供たちがメキシコの教育制度を利用するには、障害がある場合が多い。その障害のひとつは、依然として、書類の入手の問題である。研究者たちは、報告書の中で、これらの手続きの簡略化を、メキシコ政府に呼びかけている。

 研究者たちによると、帰国した移民たちは、出身の村へは戻らず、より多くの仕事の機会がある北部や都市部に残る。また、彼らの送金は、家族の教育や物質的な豊かさには寄与したが、家族が住む村を豊かにすることはなかった。

 また、研究者たちは、帰国した移民の子供は、米国で学校に通っていた場合、移民ではない子供たちよりも、教育に対する熱意が高い、とも述べている。

 米国では、移民の流入が減少したことと、相当数の査証が返却されたことから、合法的なメキシコ人移民の割合が、2000年の56%から、2010年の70%へと上昇した。

 同様に、以前よりも多数のメキシコ人が、季節労働プログラムによって、米国へ移民している。その数は、2006年には57万5564人であったが、2011年には76万2770人に増加している。

 それにもかかわらず、国境の向こうでは、経営者による不当な扱いが、依然として存在している。ジョージタウン大学の国際移民研究所のスーザン・マーティン理事は、「メキシコ人労働者の権利を侵害している経営者に対して、厳しい措置をとる必要がある」と警告した。

 「米国で議論されている移民法改正は、移民にとっては好ましいことであるが、しかし、十分ではない。というのは、メキシコ人移民の社会への加入が保証されておらず、合法でない移民が合法的な移民となるためには、長い時間のかかる、困難な規定があるからだ」と、エスコバル研究員は述べた。

 また、エスコバル研究員は、米国が労働法改革をしなければ、おびただしい数の不法移民が存在し続けることになるが、しかし、過去十年間と同じように、移民の流入が継続することはあり得ない、と指摘した。

 「メキシコは、毎年何万人もの労働者が国外へ移民することが、正常で無害なことだと考える態度を変えるべきだ。メキシコの発展は、これらの人々を取り込むべきである」と、報告書は指摘している。

 移民を取り巻くこの新たな状況に対し、メキシコと米国の28人の研究者たち(各14人ずつ)は、移民問題におけるメキシコと米国の間の協力体制を開始することを呼びかけた。

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