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ワニの涙

「ワニの涙を流す」は、世界のいろいろな国、文化圏、言語圏で使われるフレーズで、ウソ泣きすること、偽善的な態度をとることを意味しています。ウソ泣きはなぜ、「ワニの涙」にたとえられるようになったのでしょうか。

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(Alberto Montt)

 昔から、ワニは人をだますことがうまいと言われてきました。ワニは獲物を捕らえるために、悲痛な鳴き声をあげて同情心をかき立て、近くまでおびき寄せておいて食べてしまうからです。ワニの涙と言えば、ウィリアム・シェイクスピアのオセロの一場面が連想されます。妻デズデモーナの浮気を疑って嫉妬に狂ったオセロが、デズデモーナに言った言葉です。「ああ、悪魔、悪魔!大地が女の涙で子を孕むなら、その一滴一滴からワニが生まれ空涙を流すだろう。目障りだ、出ていけ!」

 おもしろいことに、ワニが涙を流すのも悲痛な鳴き声をあげるのも、本当のことです。ただし、それは悪徳や邪悪な感情から来るものではなく、生き残るための体のしくみから来るものです。そのしくみがあるからこそ、ワニは約3億5000万年前から、地球上に生き続けることができたのです。

 昔から、ワニが涙を流すのは、獲物をだまして捕まえて食べるためだと信じられてきました。しかし、ワニは偽善者なわけでも思いやりがあるわけでもなく、従って、心を痛めて涙を流すことはありません。ワニが涙を流すのは、生理的な問題です。ワニは、摂取した過剰な塩分を腎臓で処理しきれなくなると、眼窩にあるハーダー腺から塩分を含む水を分泌します。それが、ワニの涙の正体です。ワニは涙腺からも液体を分泌しますが、こちらは人間の涙とよく似ていて、眼球を潤し、バクテリアなどから目を守って清潔な状態に保つ働きをします。

 また、ワニは、爬虫類の中でも特にはっきりとした鳴き声を出すことができる動物です。その鳴き声は、求愛期間のオスがメスを求めるときの太い鳴き声や、赤ちゃんワニが殻から出たことを母親に知らせる声、危険が迫っていることを知らせる声など、バリエーションがあります。

 昔の人にとって、ワニは、血と肉への絶え間なき渇きをいやすことしか考えない捕食者でした。そのため、そのように狡猾な捕食者の内側から出てくる声は、痛ましさを装った偽りの泣き声に違いないと考えられるようになったのでしょう。

 「ワニの涙を流す」は、明らかに、神話的なものから生まれたフレーズです。では、なぜ昔の人は、ワニやその鳴き声を神話化したのか。その答えは、ヘルベルト・ヴェントの「世界動物発見史」にあるようです。ヴェントは、自然界で実際に起きたことが、格言や神話の中の空想上の出来事として語り伝えられることについて、次のように説明しました。

「どのような時代のどのような文化圏においても、人間の想像力は、視覚や聴覚よりもずっと優れている」

ファビオ・クプル・マガーニャ
Algarabia No.71 2018/01/29より

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