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麻薬マフィア「ラ・トゥタ」のメッセージビデオ

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写真:セルバンド・ゴメス通称ラ・トゥタのメッセージビデオのひとつ(Foto:Tomada de YouTube)

ヘナロ・ビジャミル
Proceso 2014/09/23

 セルバンド・ゴメス通称ラ・トゥタは、どこにでもいるような犯罪者とは違う。麻薬組織テンプル騎士団のボスであるだけでなく、ミチョアカン州を恐怖で震え上がらせ、州内の全政党の政治家を操っている。大統領令により「ミチョアカン安全と発展委員会」が発足して9カ月たった今も、まったく痛手を受けていない唯一の人物だ。

 それだけではない。ラ・トゥタは、メッセージビデオ制作の名人で、電話も盗聴すれば、盗撮もする。ネット世界の脅威でもあり、ハッカーとオサマ・ビン・ラディンを足して2で割ったような人物だ。また、(ほぼ)すべての要人が「トゥタのテーブル」に招待されたことを知らしめるために、会話の様子をビデオで撮影して公開するなど、スキャンダルをうまく利用する術も知っている。自らの贈賄ビデオを撮影・公表して「ビデオ・スキャンダル」を巻き起こしたカルロス・アウマーダのやり方に似ているが、トゥタの方がポスト・モダン的で、自らの戦略を隠そうとしない。

 それらのメッセージビデオは、トゥタTVと呼ばれ、ソーシャル・ネットワークではすでに市民権を得ており、多くのツイッター利用者が皮肉たっぷりに、「トゥタTVの次の主演俳優は誰だろう?」と書き込んでいる。すでに、ミチョアカン州の元知事の息子ロドリゴ・バジェッホ、市長や企業家、テレビ局大手テレビサのミチョアカン特派員らが「出演」している。

 トゥタTVは、ソーシャル・ネットワークや電話の傍受を正当化しようとしている政府にとっては、痛烈な平手打ちだ。先日の通信法改正では、国民に対する諜報活動とプライバシーの侵害を正当化するための条項(「当局への協力」を定めた189条と190条)は削除されなかった。内務省、連邦通信機関(IFT)、大部分の上院議員、お抱え専門家たちは、その理由を麻薬組織と戦うためだと述べ、当局による通信傍受には裁判官の命令が必要であるため、当局が勝手に傍受することはできないことを、うんざりするほど繰り返していた。しかし、皮肉なことに、トゥタTVは次々と公開されている。

 トゥタTVが意味することは、国家安全調査局(CISEN)の諜報活動に数十億ペソの予算を割り当てたり、通信に関する国際法とプライバシーを侵害したりしているにもかかわらず、トゥタを逮捕することもできなければ、トゥタのサイバー反撃を抑止することもできないということだ。当局がトゥタの居所をつかむ前に、トゥタの方こそ、相手がどこにいるかを知ることができるのだ。

 トゥタは、単独で、または「トゥタのテーブル」での会話やそのビデオで脅迫して、一部の当局関係者の協力を得ることで、メキシコの当局全体ができることより、もっと多くのことができるようになっている。

 トゥタTVに写っているのは、明らかに汚職の場面だ。しかし、その汚職は、治安部隊、共同体防犯団、地方防衛隊、諜報機関の活動では、解決することができない。なぜなら、そのような治安作戦では、テンプル騎士団の二本柱(社会に密着していることと、政府と併存していること)を揺るがすことはできないからだ。

 麻薬組織と政府が「うまく併存」しているため、トゥタのテンプル騎士団は、すでに独自の「テレビ局」も持っている。鉱山王のヘルマン・ラレアや大富豪カルロス・スリムは、利益を守るために、新規テレビ・チャンネルの入札に参加したりしているが、トゥタには、その必要はない。また、地方メディアのように、番組を放送するために許可を求めたりもしない。トゥタにはYoutubeやソーシャル・ネットワークがあるし、様々なインターネット・サイトの編集部を脅して書かせることもできる。

 トゥタTVは、テレビサの特派員と接触してテレビサを笑いものにし、MVSコミュニケーションズに圧力をかけている。ジャーナリストには金を配って協力させ、「トゥタのテーブル」への招待を拒むジャーナリストは、脅迫されるか殺害される。トゥタTVは火と同じで、近づいた者は黒焦げになる。

 「政治家は悪いことばかりしているのに、なぜ自分だけ非難されるのか?」というトゥタの意見は、麻薬マフィア特有の皮肉な意見だ。トゥタは、ミチョアカン・ファミリーやロス・セタスの残酷さを受け継いでいて、そのやり方は、ミチョアカン州で起こった四つの出来事(セクハラで訴えられたマルシアル・マシエル元神父、暴力的な慈善活動を行ったママ・ロサ、住民から学校教育を取り上げたヌエバ・エルサレン、元大統領フェリーペ・カルデロン式メシア信仰)のミックスとも言える。

 トゥタTVは、「トゥタを捕まえたかったら、トゥタに協力したことをまず白状しろ」というメッセージであり、「ミチョアカンの真の問題は、麻薬組織の冷酷で狡猾なボスの存在ではなく、軍の麻薬組織掃討作戦の失敗により治安が極限まで悪化し、結局は恐怖を倍増させただけだった」ことを証明している。

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