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米国の大麻合法化は、メキシコにどう影響するか

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foto:TARINGA!

ウィル・グラント
BBC Mundo 2012/11/22

 毎年、大麻の合法化を擁護する活動家のグループが、米国シアトルに集合し、シアトルの海岸で2日間行われるフェスティバル、「ヘンプフェスト」に参加する。

 大麻の鼻につんとくる煙が、人々の頭上に漂っている。人々は、音楽の生演奏を聴いたり、パイプや、このフェスティバルと関連のある、あらゆる道具類を売っている露店の間を、歩いたりしている。

 警察もその場にいて、麻薬の売買が行われていないことを確認している。しかし、次回のヘンプフェストでは、そうする必要さえ、なくなるかもしれない。

 ワシントン州の有権者たちは、バラク・オバマ大統領の再選に賛成票を投じたのと同じ日に、大麻の娯楽目的の使用を合法化することにも、賛成票を投じた。コロラド州でも同じことがあった。

 「ワシントンとコロラドで起こったことは、本当に革命的なことだった」と、ランド麻薬政策リサーチセンター共同責任者のボー・キルマー博士は言う。

 「医療以外の用途での、大麻の生産と流通について、禁止を撤廃した近代国家は、まだ一つもありません」

 この政策が、12月上旬にコロラド州で発効するときには、21歳以上の成人であれば、大麻28グラムまでの所持は合法になる。また、自宅に大麻の木を6本まで所有することと、28グラムまでを人に与えることも、合法となる。

 麻薬の生産と流通を規制する枠組みを作ることについて、今なお、複雑な問題があり、少なくともあと一年は、手間取る可能性がある。

 そして言うまでもないことであるが、この二つの州は、この決定によって、米国政府やその麻薬取締政策と、法律上対立することになる。

 しかし、キルマー博士は、この意味で、対立する行政機関がオバマ政権だけだとすることは、間違っていると考えている。

 「この点において、米国政府が、この2州に対してどのように反応するか、だれにも分からない。しかし、重要なことは、政府が、私たちと同様の考え方をするものであるとは、考えないことだ」

 米国麻薬取締局(DEA)、司法長官室、国税庁(IRS)が、この問題について、ある程度の権限と決定権を持っている、とキルマー博士は指摘している。

麻薬戦争への武力行使

 一方、数千kmはなれた、メキシコ市の「大麻密売店」では、コロラド州とワシントン州の決定は、好意的に受け止められた。

 高そうな吸入器でいっぱいのショーケースに囲まれて、店主は、顧客の多くが、メキシコでも同様の法律を待ち望んでいる、と語る。

 「人々は、これ以上、麻薬カルテルの収益に貢献することを望んでいない。私はこのところ、この本のコピーをたくさん売っている」と言い、『大麻のエコ栽培』という本を見せた。

 メキシコで現在、法改正のための動きを率いているのは、左派の政治家のフェルナンド・ベラウンサランだ。ベラウンサラン議員は、改正法案を議会に提出した。その法案は、コロラド州の法律に類似したもので、大麻に、アルコールと同様の規制を適用する、というものである。

 「米国で起こったことが元になって、事態が前進した。というのは、この議論が、非常に重要なものだからだ」と、ベラウンサラン議員は、法案を正式に提出した日に、BBCに答えて言った。

 「徹底的な軍事作戦を継続することに、意味があるのか、我々は自らに問うてみなければならない。この作戦は、メキシコに、すさまじい破壊と多数の死者をもたらした。その目的は、ある物質が米国へ流入することを防ぐことであったが、その物質は、今や米国では認可され、統制下にある」

 ベラウンサラン議員は、今国会で法案が可決されることは、必ずしも期待していない。しかし、重要なことは、この問題に関して新たな議論が行われることだ、と指摘している。

 米国とメキシコの報道機関の中には、ワシントン、コロラド両州の決定は、麻薬戦争に関するメキシコと米国の二国間関係における「作戦変更」である、と位置付けるメディアもある。

 メキシコの、任期を終えつつあるカルデロン政権も、任期を開始しつつあるペニャ・ニエト政権も、バラク・オバマ大統領の任期二期目において、大麻についての議論が広く行われることに対する期待を表明した。

 近ごろ行われた中米諸国の首脳たちとの集まりにおいて、メキシコのフェリーペ・カルデロン大統領は、米国における決定は、麻薬の消費についての「理論的枠組みの変更」である、と述べた。カルデロン大統領は、国連と米州機構が状況を解明することを要請した。

 メキシコのペニャ・ニエト新政権は、さらにもう一歩踏み込んだ。

 エンリケ・ペニャ・ニエト新大統領の主任顧問であるルイス・ビデガライは、次のように述べた。「当たり前のことであるが、メキシコでは違法であるその薬物が、米国へ流入することを阻止するために、我々が対処することは不可能だ。というのは、米国(少なくとも米国の一部)では、今やその薬物に対して、別の立場を取っているからだ」

 しかし、大麻についての議論に変化が見られるのは、メキシコだけではない。左派のホセ・ムヒカ大統領のウルグアイでもまた、国が、大麻の合法的な栽培と消費を、規制する役目を負うことが、検討されている。

 アメリカ大陸全体で、明らかに、まだ多くのことが、議論されなければならない。

 合法化賛成派と反対派は、大麻の合法化が、麻薬カルテルの収益に、どのくらいの影響を与えることができるかについて、合意を見ていない。

 また、オバマ大統領が、前出の2州における有権者たちの決定に対して、まとまった回答を表明するまでには、まだ時間がかかる。

 しかし、人々の注意をそらす巧妙なごまかしの中にも、はっきりと見えてくることが、ひとつある。米州において大麻が問題になるときは、もうすでに、変化の種はまかれている、ということだ。

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