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ルチャ・リブレ:現実と空想の入りまじる世界

メキシコのプロレス「ルチャ・リブレ」がある日は、いつも、どの会場でもお祭り騒ぎです。だって、ルチャ・リブレですから。

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写真:ルチャ・リブレ(ProAeroPhoto)

MexicoDesconocido No.293

 ルチャ・リブレは、過剰装飾と大混乱の世界です。観客は、ごちゃごちゃとしたにぎやかな演出で盛り上がり、観客全員がその主役として、または、監視役として参加します。なぜなら、ルチャ・リブレには、荒っぽい悪い冗談も多く、聖母が坊主刈りで登場する、なんてことさえあるからです。

 ルチャ・リブレを見る者は、いずれにしても、2人組または3人組で戦うグループのどちらかの味方をすることになります。というのは、レスラーたちは、善と悪が対立する場面を表現しているからです。こうして、ファンたちは、心理学者や人類学者を混乱させるルチャ・リブレというカタルシスで、ストレスを発散します。マスクや華やかな衣装、派手な立回りなど、このカラフルな世界を理解し、楽しめるのは、その時その場所にいる人だけ、つまり、会場に行かなければなりません。照明が消え、壁と床一面に漂うカラフルなイルミネーションで場内がライトアップされるとき、アドレナリンが体中を駆けめぐるのを感じることができるのは、会場にいる人だけです。

 さあ、心臓がドキドキ、ワクワクしてきます。司会者のお決まりのナレーション。「2ラウンド先取ぅぅぅ。時間無制限ーーー」 この前口上を合図に、私たちは、日常の時間を離れ、お祭り騒ぎの異次元空間に入り込むことになります。

 スモークが立ち込める花道から、様々な衣装のレスラーたちが登場し、本物の興奮が、会場中に湧き起こります。ミイラやハロウィーンなど、別世界の存在の衣装のレスラー。北欧神話の雷と戦争の神トール。バットマン、パワーレンジャーのようなスーパーヒーロー。現実社会を表象するウィチョール(先住民)、メスティーソ(白人と先住民の混血)、ストリート・チルドレン。その上、聖人(サント)や悪魔もいます。つまり、ここでは、物語の登場人物たちが現実となって現れ、生き始め、触れることができるようになるのです。専用の花道から登場したレスラーに、子供たち(中には、お気に入りのレスラーのマスクをつけた子供もいます)は近づいて行って、触れたり、再生紙でできた興行プログラムにサインをもらったりします。

 レスラーの登場は、ルチャ・リブレの要で、ここから祭りが始まります。恍惚とした期待感は、興奮した観客から飛び出す野次、掛け声、ブーイング、指笛などで、大音響の大騒ぎに変わります。盛り上がった観客が悪玉(ルド)と善玉(テクニコ)の対決、善と悪の終わりなき戦いの物語に参加しようとしているのです。それは、空想が現実に変わる世界であり、会場全体が日常とは違う空間になります。

 戦いのストーリーと現実生活との間には、類似性があり、善は悪を倒すべく戦い、悪の攻撃に苦しみます。観客は、その戦いの中に人生の縮図を見て、戦いと笑いの物語の主役になります。そして、ルチャ・リブレの世界にのめり込み、レスラーに自己を投影して、日頃の浮世の憂さ晴らしをするのです。

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