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米国版コロンビア・マニュアル

米国の軍隊には、コロンビアに赴任する米国人がコロンビア人のメンタリティーを理解するためのマニュアルがある。

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Semana 2014/08/23

 1944年6月、ナチスと戦うためにノルマンディーに上陸したイギリス人兵士たちは、「フランスでの作戦に従事する者への手引書」という小さな本をポケットに入れていた。この薄い本には、アドルフ・ヒトラーに侵略され、屈辱を受けたフランスの人たちと、正しく接するための助言が書かれていた。執筆者のジャーナリスト、ハーバート・ザイマンは、間もなく実物のフランス人を生まれて初めて目にすることになる何千人ものイギリス人のために、この本を書いた。ザイマンは、フランスではお茶が「ほとんどない」し、「物おじしない」フランスの女性たちの友情を誘惑と勘違いすると、協力が得られなくなるため、油断してはいけないと助言している。しかし、ザイマンは、戦争中の国への上陸には困難が伴うとも言い、結局、「常識に従うのが一番いいだろう」とさじを投げた。

 70年後の現在、米国の兵士たちが、同じようなマニュアルをポケットに入れて、フランスの海岸ではなく、コロンビアを歩いている。この95ページからなるマニュアル「コロンビアン・カルチャー・フィールドガイド」は、米国海軍の情報部門がコロンビアでの職務に服する米国の役人や軍人のために作らせた機密扱いの文書だ。このマニュアルができたのは2009年だが、現在でも正規のマニュアルとして使用されている。このような秘密のマニュアル類の存在は、長い歴史の中で珍しくなくなっているとはいえ、このマニュアルには、コロンビアの風俗や意外な解釈が豊富に盛り込まれており、一見の価値は十分にある。

 最初の数章では、「コロンビア人のメンタリティー」について、大まかに解説されている。このマニュアルの執筆者(名前はわからない)は、まず初めに、コロンビアは休日の多い、とても宗教的な国で、男性優位主義と個人主義が深く根付いており、男らしさ、誇り、名誉、忠誠、度胸が、コロンビア人のメンタリティーのもとになっていると述べている。そして、その後に実際的な助言を与えている。例えば、コロンビアでは米国と違い、つばを吐くことは下品で攻撃的と見なされるため、やってはいけない。人さし指を立てるジェスチャーは、「コロンビアでは別の意味を持っている」ため、避けなければならない。コロンビアでは、女性に対して口笛を吹いたり、ほめ言葉を投げかけたりすることは、侮辱的なことではない。米国を「アメリカ」と呼んではいけない。コロンビア人から「グリンゴ」と呼ばれても怒ってはいけない、などだ。

花とウイスキー

 このマニュアルは、職務でコロンビアに赴任した米国人が、コロンビア社会でうまくやっていけるように作られたものだ。従って、基本的なルールも書かれている。例えば、コロンビア人は、話し相手が頑張ってスペイン語で話してくれると感謝する。男性に対しては握手であいさつし、女性に対しては、状況に応じて握手か頬へのキスであいさつしなければならない。何かの集まりに出る場合は、着いたら一人一人個別にあいさつしなければならず、仕事、政治、宗教の話題に触れるのは、あまりよくない。出されたものは残さず食べる方がよく、酒をすすめられたら断らない方がよい。ボゴタの人たちは冷淡で堅苦しく、アンティオキア地方や海岸地方の人々は、もっと陽気で親しみやすい。貧しい家庭の人たちの間には、「持っているものは、たとえわずかであっても分け合うべきだ」という考えが深く根付いているため、とりわけ親切だ。特に黒人家庭は他人に親切で、親しくなりやすい。だから、もしそのような家庭の人から、いきなり「いとこ」と呼ばれても、驚いてはいけない、などのルールだ。

 よその家を訪ねるときに何を手土産にするかは、米国人にとって非常に重要なことのようだ。このテーマだけでひとつの章になっていて、書き出しは、「訪問する家庭の地位によって、手土産を変えた方がよい」となっている。白人家庭やメスティーソ(混血)の家庭では、「あまり堅苦しくない、比較的独創的なもの」でもよいが、しかし、あまり凝り過ぎずに、女性には新鮮なフルーツの詰め合わせ、男性にはウイスキーなどの方が無難だ。また、ウイスキーは、貧しい家庭の場合は気分を害したり、近所の人たちともめることさえあり、問題の種になることがある、と助言している。

 また、ビジネスでコロンビアを訪れる米国人への助言もある。いわく、コロンビア人は、会話の途中で話をさえぎる傾向があり、それを不愉快に思わない方がよい。また、コロンビア人は、そのような場では表向きの顔でエレガントに振る舞うため、フランクすぎる話し方をしないように気をつけなければならない。コロンビアで商談を行う場合、まとまるまでに何回も集まることが珍しくないため、「長期戦」の覚悟をしておく方がよい。時間は正確に守った方がよいが、コロンビア人にそれを期待してはいけない。「相手は遅れて到着し、大抵はあいさつ、世間話、ひとまずコーヒーとなるため、商談の開始は遅くなる。」 普通、コロンビア人は30分遅れてくる。社交的な集まりの場合は、少し遅れることが「礼儀にかなった」行為でさえある。また、企業や役所に正午に電話すると誰も出ないが、イライラしてはいけない。というのは、「その時間帯は、長ければ2時間の休憩を取る習慣」になっているからだ。

「パランカ」と「ロスカ」

 このマニュアルでは、コロンビアの料理、服装、各地方の文化、歴史、政治について多くのページを割いているが、そこで特に強調されていることは、コロンビアが社会的、人種的、経済的、階級的に分断されているということだ。コロンビアの権力機関については、富裕層と権力者だけが国政に関与したり恩恵を享受することができる仕組みになっているため、「閉鎖的でよそよそしく、本音が見えない」と批判している。また、「そのために、無視されていると感じる人が多い」とも述べている。

 米国人が驚くような内容が何ページも続く中でも、コロンビアの社会構造についての記述は、とりわけ興味深い。それによると、植民地時代から現在に至るまで、コロンビア社会は、階級と人種によって分断されている。「白人エリート層」がピラミッドの頂点に君臨し、自分たちの利益を維持することだけを考えて、国内の秩序を作り上げている。そのため、「白人」は、政治的な権力、経済力、社会的地位に直接的にアクセスすることができる。「メスティーソ」は中流階級で、努力し、運に恵まれた場合のみ、富と教育と白人の生活様式を手にすることができる。ピラミッドの底辺には、アフリカ系コロンビア人と先住民が位置している。

 最後の章は、軍隊の歴史と構造について分析している。コロンビアの軍隊は、「ロマンチックで誇り高く、過剰に保護されていて保守的」であり、外国からの干渉にはしばしば「尊大」な態度をとる。また、軍は、「先住民の抜け目なさ(創造力や直観力によって、困難な状況に適応していく能力)」を過剰に警戒している。軍人たちは、政府の下で働くというよりは、「祖国への愛」のために働くことが、自らの義務だと考えている。コロンビア人を理解するための重要な「鍵」は、「パランカ」と「ロスカ」の概念だ。パランカとは、「権力者との個人的なコネ」のことだ。一方、ロスカは、「内輪のグループによる意思決定システム」のことで、各社会階層にそれぞれ存在している。パランカもロスカも、軍特有のものというわけではなく、社会や政治が機能するために「不可欠」なものだ。このパランカとロスカによって、政治や軍事の大抵のことが決定される。

 米国人が、米国とまったく異なるコロンビアの社会でうまくやっていくために、このマニュアルは役に立つだろうか。それは、コロンビアの人々に聞いてみなければならない。しかし、はっきりしていることは、コロンビアに駐留する米国海軍の場合は、ノルマンディーの場合と違い、常識などはまるで通用しないということだ。

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