e-MEXICO

ホーム > 麻薬・移民問題 > トランプ政権の移民政策と国家の暴力

トランプ政権の移民政策と国家の暴力

foto

ラファエル・デ・ラ・ガルサ・タラベラ
La Digna Voz 2017/04/26

 トランプが選挙期間中に行った公約のうち、最もインパクトがあったのは、おそらく移民政策に関する公約だっただろう。就任後100日を迎え、トランプ大統領は、南の国境からの密入国者が大幅に減少したことを発表した。しかし、その成果は、不法移民を集団的に強制送還するための一連の措置(強制送還の対象範囲の拡大、移民の権利の縮小など)の結果だった。いずれにしても、トランプ政権の移民政策の本質は、移民の増加を抑制するために、移民たちの間に恐怖心を生じさせることにある。

 選挙戦でトランプが主張した不法移民1100万人の強制退去は、メキシコとの国境に建設する壁と共に、明らかに、トランプの選挙公約の柱だった。ただ、米国に滞在するメキシコ出身の不法移民は、不法移民全体の約半数に過ぎないことについては、トランプは話題にしなかった。

 米国の移民問題は、脆弱なメキシコ経済が米国経済に従属していることや、移民の安い労働力が米国経済にとって必要であるという、構造的な性質を持っているが、このことも、トランプは認めないだろう。しかし、移民問題に取り組むときに、このことを無視することはできない。従って、トランプ大統領の脅迫的な公約は、米国の本来の姿を取り戻す救世主としての、単なるプロパガンダであることは明白だ。しかし同時に、このプロパガンダは、移民たちの間に米国を去らざるを得なくするような恐怖心を生じさせたり(実際には、出身国における恐怖の方がずっと大きいため、あまり現実的ではない)、今後密入国しようとする人たちを抑制する意図も持っている。

 そうでなければ、2月にノースカロライナ州、サウスカロライナ州、ジョージア州、カリフォルニア州、ニューヨーク州、ワシントン州、イリノイ州で行われた一斉検挙の説明がつかない。一斉検挙が行われた4日間で、600人以上の移民が逮捕された。その中には、ドリーマーと呼ばれる若年不法移民であるダニエル・ラミレスさんも含まれていた。ラミレスさんは、ラミレスさんの父親(一度強制送還されたが、再度密入国したと思われる)を探しに来た移民税関捜査局(ICE)の執行官らによって、自宅にいるところを逮捕された。ICE執行官らは、ラミレスさんの父親がいなかったため、ラミレスさんを「ギャング団のメンバーである」として逮捕したのだ。

 ラミレスさんのケースは、強制送還されるのは重犯罪者だけではないということを、明白に示している。強制送還の対象となる犯罪の範囲は、軽犯罪にまで拡大された。例えば、送還命令が出ているが、送還を免れている移民(その後、すでに送還されたかどうか不明な場合も含む)、裁判中の移民(この場合、裁判の終了を待たずに送還される可能性がある)、詐欺や虚偽の申告で訴えられている移民、公的扶助プログラムを悪用した移民、そして最後に、移民当局の職員が、「国防や治安にとって危険である」と判断した移民が含まれる。つまり、実際には、不法移民であろうと合法移民であろうと、すべての移民が送還される可能性があるということだ。

 上記以外に、即時の強制送還(裁判なしの強制送還)のルールも拡大された。オバマ政権時代は、即時の強制送還の対象となったのは、入国後14日が経過していることを証明できない、国境から100マイル以内にいる移民だった。しかし、現在は、入国後2年が経過していることを証明できない移民が対象となっている。国境から100マイル以内の条件は撤廃され、米国全土が対象となった。

 このような移民政策を実行するために、トランプ政権は、移民法287(g)条項の適用を厳格化した。この条項では、州や市の地元警察は不法移民捜査に協力可能であると規定されている。また、それとは別に、国境警備要員の1万人の増員と、移民拘置所の増設が予定されている。犯罪歴のある不法移民300万人を強制送還するというトランプ大統領の政策には、何を犯罪と見なすかということについて、自由な解釈をする余地が含まれており、それが、先行きの不安や恐怖心をあおっている。安心していられる移民など、一人もいない。そして、その移民たち自身が、自国にいる移民希望の友人や家族に、その恐怖を伝えている。これこそが、トランプ政権のねらいだ。

 トランプ政権の移民政策のベースは、明らかに、人種差別と恐怖心だ。現実的には、移民当局の予算と処理能力には限界があり、安い労働力も必要であるため、すべての不法移民を国外退去させることはできない。しかし、トランプ政権は、この移民政策を実行することで、恐怖心を利用して移民の流入を抑制すると同時に、社会的な問題を解決する方法としての暴力を常態化することも狙っている。現在、その暴力の標的になっているのは移民たちだ。しかし、今後はどうなるだろう?

↑ PAGE TOP

inserted by FC2 system