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メキシコの共同体防犯団、自警団、私設軍

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ラファエル・デラガルサ・タラベーラ
Colectivo La Digna Voz 2013/03/14

 メキシコにおける暴力の急増により、ある事象が発生し、関係者や国、州、市町村の各警察の間で論議を呼んでいる。その事象とは、武装した民間人グループが新しく結成されたり、すでに存在していたグループが再び脚光を浴びたりしていることだ。それらの武装した民間人グループは、ベラクルスなど様々な州に存在しており、本来なら治安維持と法の適用のために存在しているはずの公的機関が弱体化し、腐敗していると主張している。

 この武装した民間人グループを批判する人々は、その主な論拠として、民間人が武装することが違法であることや、治安を一定水準まで改善することにはおそらく役に立たないことを主張している。その一方で、通常の生活を送るために最低限必要とされる治安状態を維持するために、共同体や住民が武装することは、憲法で保証された権利だと考える人々もいる。しかし、この武装した民間人グループを指す言葉の使用については、混乱もみられるようだ。

 共同体防犯団、自警団、私設軍を安易に同一視してしまうことが、世論や一般住民の間に混乱を引き起こしている。そしてこの混乱が、「武装民間人グループは法を犯すものであり、犯罪者として扱われるべきだ」という考え方を助長している。さらには、そうしたグループは、個人的な利益のために紛争や混乱を巻き起こす麻薬組織や地方のボスに雇われている、とも考えられている。そのような誤解を解くために、この事象がメキシコの人々の間に呼んだ論議も考えあわせつつ、それぞれのグループの法的根拠と、ひいてはその活動の許容範囲という観点から、各グループの違いを定義してみようと思う。

 共同体防犯団は、集落や共同体の自治機関の配下にあり、自治機関は、慣習にのっとった共同体独自の規範をもとに活動している。この意味で、共同体防犯団というものは、最近になってできたものとは言えない。というのは、先住民共同体のカルゴ・システム(*)の中には、治安監視員の役割が含まれていたからだ。治安監視員は、犯罪の容疑者を逮捕することができるが、その容疑者を地元の警察に連行しなければならず、地元警察は、容疑者の扱いを検察庁に任せることになっている。共同体防犯団の活動には報酬は支払われず(共同体から食料と監視小屋は与えられる)、使用する武器は、大抵は個人の所有物であり、防犯の任務以外でも使用される。共同体防犯団に参加する共同体住民の数は、暴力の程度に応じて増加してきた。いずれにしても、その法的根拠は、最終的には国際労働機関(ILO)第169号条約およびメキシコ憲法にある。

 一方、自警団は、共同体の内部のグループであり、従って、その活動について、行政区や州の議会に報告する必要はない。治安に対する脅威が発生した場合、自警団は対抗するために武装し、自らの判断で対処するが、それは常に、地元住民の名において行われる。使用される武器は大型の武器を含み、名目上は、その活動への報酬は受け取らない。しかし、上記のような自警団の特徴から、活動地域の実権を握るものに買収されることもあり、自警団が私設軍に変わることもある。自警団には法的根拠はなく、自ら脅威に対抗する立場をとるものである。

 私設軍は、一般的には「グアルディアス・ブランカス」として知られている。彼らは、大地主、大商店主、役人、犯罪組織など、地元の権力者に雇われて武装している集団である。法的根拠はまったくない。というのは、彼らは雇い主の利益のために行動するのであり、従って雇い主だけに報告を行うからだ。地元の共同体の住民がメンバーとなっている場合もあるが、雇い主の命令であれば、迷うことなく共同体を攻撃したり略奪したりする。軍隊と似たような作戦をとり、軍隊から兵站面での支援、訓練、武器を受け取っているため、私設軍と呼ばれている。その序列は、明らかに軍隊の階級を元にしたものであり、高性能の武器を使用している。

 このように、共同体防犯団が住民や共同体、集落に最も近いところにあり、それが共同体防犯団の法的根拠となっている一方で、私設軍はその反対に位置づけられる。というのは、私設軍は、公共の利益を侵害し、特定の個人を守るために存在しているからだ。私設軍は金銭だけに従い、結局のところ、金銭がその活動の理由である。両者の中間点にある自警団は、情勢に応じて、防犯団にも私設軍にも、容易に傾く可能性がある。

 この3種類の武装民間人グループの出現は、ここ数年において顕著な事象だ。しかし、国だけが合法的に暴力を独占できるという理由で、この3つを違法であると同一視することはできない。昨今の状況、とりわけ、現実に被害者となった人々や、被害者になる可能性のある人々を巻き込んでいる状況を考えると、治安を改善するための新しい手段を考える必要性を、否定することはできない。正規軍だけが治安維持の役目を果たすべきだと固執することは、現在直面している非常に困難で、解決不可能に思われる大きな障害を、単に否定していることになる。今日ほど、新しい対策を考え出すことが不可欠とされたことはない。従って、風前の灯の人権を回復するためには、共同体防犯団は否定されるべきではないし、ましてや悪者扱いされるべきではない。共同体防犯団を悪者にしても、メキシコの暴力の悪循環は止まらないし、しっかりと認識される前に否定されてしまえば、合法、違法の両方の権力者たちを利することになるだろう。

* カルゴ・システムは、先住民の共同体内における行政や宗教に関する仕事を、共同体の構成員が交代で行う伝統的なシステム。1-3年交代で、無償で任に当たる。

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