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犯罪被害者支援庁による、もうひとつの被害

犯罪被害者支援庁(PROVICTIMA)が、事実上無用のものであるという批判が増加している。同庁へ出向いた人々は、相談を受理されるが、問題の解決を見出すことはできない。本誌は、同庁の職員の職務上の能力が不足していることのほかに、本誌記者二人が推測する通り、職員が、連邦検察庁、国防省、さらには諜報機関である国家安全調査局などの出身者たちであることを突き止めた。「犯罪被害者支援庁のあの大きな建物は、何の役にも立たない」と、被害者の一人は言った。

マルセラ・トゥラティ
Proceso 2012/10/06

 タバスコ州出身の商店主、イルマ・モンロイ・トーレさんは、メキシコ市にある犯罪被害者支援庁(PROVICTIMA)の事務所へ出向いた。イルマさんの家族が、麻薬マフィアのロス・セタスに追い回されているため、助けを求めるためだ。軍関係者である職員がイルマさんに応対し、その話を聞いた。職員は、イルマさんの件についての報告書を、国防省に送った。

 「大佐に取り次がれましたが、その大佐は、実際には私の言うことを信じていませんでした。私たち家族は、犯罪被害者支援庁に所属するこの軍人と、電子メールでやりとりしていましたが、彼は間違って、国防省に送ったメールを、私に送ってしまいました。そのメールには、私たちのことが書かれていました。私たちが被害者を装っていること、私たちの言うことが信用できないことが、3行で書かれていました。しかし、その後そのメールは、私のアカウントから消えてしまいました。これはきっと、私のアカウントをハッカーしたのだと思います」と、イルマさんは言う。

 イルマさんは27歳の女性で、モンテレイ工科大学の国際貿易科を卒業した優秀な人物だ。彼女が本誌に語ったところでは、2011年11月、自宅付近で、会社員のトリニダ・エルナンデス・バウティスタさんが発砲されるということがあって以来、家族は度重なる被害を受けている。

 イルマさんによると、それ以降、母親や姉と共に、切羽詰って何度も助けを求めてきたが、無駄であった。彼女たちは、タバスコ州検察庁、連邦検察庁、国防省、共和国政府、そしてカルデロン政権の6年間の間に設立された、被害者支援のための公的機関である犯罪被害者支援庁でも、軽くあしらわれた。

 イルマ・モンロイさんは、犯罪被害者支援庁のロゴマークの入った書類を見せた。その書類には、「下記の日付(2012年2月24日)において相談が受理された」ことに同意することが、あらかじめ印字されていた。書類によると、相談の結果、事前捜査と保護対策が行われたことになっていた。しかし、イルマさんは、だまされたと言う。「助ける前にこの書類に署名をさせて、その後は私に二度と応対してくれませんでした」

 国家公安調整機構や連邦検察庁の職員だけでなく、公安省、海軍、国防省、内務省の職員などが電話に出て、犯罪被害者支援庁に助けを求める人々に、自ら応対することは、珍しいことではない。

 同庁は、2011年11月の大統領令によって創設された。被害の大きな犯罪(誘拐、行方不明、恐喝、殺人)の被害者たちを支援するために、フェリーペ・カルデロンが始めた麻薬戦争のさなかに設立されたものだ。しかし、同庁の職員の大半は、軍隊や検察出身者だ。

 メキシコ人権委員会といくつかの市民団体は、これらの公的機関の役人たちが犯した人権侵害について、調査してきた。被害者たちが、犯罪被害者支援庁のような公的機関に、犯罪被害を訴える事案で、その犯罪の共犯者や犯人が、これらの公的機関の役人たちだとういうことが、たびたびある。

軍関係者

 イルマさんがPROVICTIMAに電話し、情報公開の部署へつないでもらうよう交換台で頼むと、電話の向こうでは「エルナンデス中佐」と名乗る人物が応対した。エルナンデス中佐は、電話が間違った部署へ転送されてきたのだと言い訳した。しかし、他の職員に、その「中佐」とやらの内線を尋ねたときも、同じ内線番号を教えられ、同じ部署に電話が転送された。また、イルマさんの電話に、「パラフォックス大尉」と名乗る人物が出ることもあった。

 犯罪被害者に支援を提供する機関の組織図の中で、軍関係者が重要な役職に組み込まれているということだ。

 犯罪被害者支援庁の内部運営に関する公的情報について、公開請求があった全件について、軍人のグスタボ・バルタサル・ゲレロがチェックしている。バルタサル・ゲレロは、書類に署名したり、電話に出るときには、軍隊での階級を捨て去り、民間の「専門家」になる。

 メキシコ全土からの、助けを求める人々からかかってくる電話のコールセンターは、海軍のレオポルド・エルナンデス・ロペスが取り仕切っている。

 心理学者たちで構成される部署の責任者は、ヘスス・モレーノで、公安省出身、2010年のビジャス・デ・サルバルカルの虐殺事件の後に、シウダー・フアレスに配置された人物である。

 リリア・レベッカ・バルデス・アレジャーノは、行方不明者について担当している女性で、連邦政府の事務室で直接給料を受け取っている。国民行動党(PAN)の党内でも、下院議院内でも、常にフェリーペ・カルデロン配下で、キャリアを形成してきた。

 これらは、犯罪被害者支援庁の職員名簿の情報を調べた結果の一部だ。その名簿は、本誌が情報公開に関する法律に基づいて請求したり、政府機関のインターネットサイトで、各役人について公開している経歴を元に、調査したものである。

 この入り組む情報の中で、コールセンターの責任者で、海軍出身のエルナンデスが、海軍士官学校の治安責任者であったことを、探し当てることは可能だ。

 エリック・スーザン・リードが、犯罪被害者支援庁副検事室で働いていることも、注目に値する。エリック・スーザン・リードは、2008年から2010年にかけて、内務省の諜報機関である国家安全調査局(CISEN)で働いていた。戦略的作戦部門の責任者であり、戦略研究と政治戦略の分野における管理職であった。政府機関のインターネットサイトによると、エリック・スーザン・リードの職務には、戦略的な業務の調整や、治安政策計画の作成などがあった。後に、国家公安調整機構の執行室において、幹部職員となった。

 犯罪被害者支援庁職員のウゴ・セルヒオ・アレバロは、公安省の中にある、ガルシア・ルナ公安大臣の事務室に勤務していた。その給料は、連邦政府から支払われた。

 犯罪被害者支援庁職員のハイメ・ラミレス・ニーニョは、システム分野の出身で、以前、イルデブランド社で働いていた。イルデブランド社は、カルデロンの妻のマルガリータ・サバーラの家族が所有するIT関連企業だ。ハイメ・ラミレスはその後、連邦検察庁に勤務した。

 犯罪被害者支援庁本部事務所の3階、5階、9階は、連邦検察庁の職員たちで埋まっている。

(すでに発売中のプロセソ1875号に掲載された報道記事より抜粋)

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