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ベネズエラ地方選、国民の成熟

ラファエル・リコ・リオス
Rebelion 2013/12/09

 2013年12月8日に行われたベネズエラ地方選挙は、開票率97.52%、投票率58.92%で、チャベス改革推進派が49.24%の票を獲得した。一方、野党の得票率は42.72%であった。それ以外の無所属の候補は8.03%の票を獲得した。

 チャベス改革推進派は、24の自治体のうち15の自治体で勝利し、市長選の76%を制した。しかし、3大都市カラカス、マラカイボ、バレンシアの市長選では、再び敗北した。

 地方選挙としては投票率が高かったことは、ベネズエラにおける民主主義がかつてないほどに活発になっていることや、二つの政治モデルの間の対立が継続していることを示している。

 この地方選挙については、あえて結果を予想する者はいなかった。チャベスの死後、今年の4月14日のマドゥーロの辛勝と、この数か月間ベネズエラに降りかかった経済問題のために、予想が不可能だったのだ。

 今回の地方選挙は、マドゥーロ政権への信任投票と見なされてきた。そして、その結果から、ポスト・チャベス時代を垣間見ることができ、改革路線への不満の大きさを推し量り、両陣営の中核の動きを知ることができると考えられてきた。

 投票率の高さは、この選挙が実際に信任投票であったという考えを裏付けるかもしれない。しかし、これは地方選挙であり、地元特有の要因が票に影響することを忘れてはならない。さらに、深刻な経済問題は、一時的な現象かもしれないし、構造改革が必要な制度的な問題かもしれない。従って、改革路線の進み具合を解釈するために、今回の選挙結果の概括を試みるのであれば、いかなる分析や結論づけも、非常に困難になる。

これは経済戦争である

 今回の選挙結果から判断すると、品不足や投機に対処するためにマドゥーロ政権が近頃とった措置が、社会主義支持層の票を集め、階級意識を目覚めさせた可能性がある。

 2003年、資本の流失を防ぐため、外貨管理委員会(CADIVI)の外貨管理割当制度を通して、為替管理が行われるようになった。公定レートではないレート(並行レート)でのドルの購入は、ドル購入のための並行為替レート市場を生み出した。現在、公定レートのボリバル・フエルテは、並行レートの10倍の価値となるまでに至った。

 大企業は、為替管理を「うまく回避」している。というのは、大企業は、公定レートで外貨を購入して輸入を独占したり、公定レート価格で財を調達したりし、その一方で、並行レートのドルの価格で商品を販売したり、公定レートで購入した外貨を並行レート市場で売却したりしているからだ。彼らは、商品、原材料、機械の輸入や生産活動は二の次にして、外貨の売却による実入りの良いおいしいビジネスを作り出した。

 この危機は、ベネズエラ国民に深刻な結果をもたらした。過去16年間で最悪のインフレとなり、必需品が不足し、経済問題と食料品不足と生活費の上昇が、治安の悪さと並んで、ベネズエラ国民の最も憂慮する問題となってしまった。

 2013年に入ってから、物価は前年と比べて54%上昇した。輸入品の大部分は、理論上は公定レートの価格で購入されたものであるにもかかわらず、公定レートのドル価格の1200%以上で販売されている。

 企業経営者たちが行う投機に対する政府の最近の対策は、少なくとも政府が動くのを見たベネズエラ国民の階級意識を呼び覚ました。間違いなく、これは経済戦争であり、大企業経営者たちがボリーバル革命を推進する政府を倒そうとしているのだ。多くの市民は、そのような経済戦争が起こり得るであろうことを認識しているが、しかし、その戦争に勝つことができなければならないとも考えている。マドゥーロ政権が投機や品不足に対して近頃とった措置は、正しい方向を向いているのか、それとも、修正されるべきはCADIVIによる為替管理制度の方なのか、という真剣な疑問もある。もし、為替管理制度が修正されるべきなら、経済モデルを根本から再構築しなければならないだろう。

 いかなる新自由主義政府であっても、経済危機に対しては、コンサルタント集団の助けを借りるものだ。彼らは、何十年ものあいだ知識を蓄積してきた新自由主義システム専門のあちらこちらの大学で、教育・養成された専門家である。しかし、いわゆる21世紀の社会主義には、経済戦争が招いた深刻な外貨危機に立ち向かうために頼る選択肢が少なく、場当たり的な対応をするように思われる。

 授権法が可決され、国会はマドゥーロ大統領に、1年間の立法権を与えた。この可決によって、投機やインフレ、外貨流出、為替管理制度に対して、素早い対応ができるようになることが期待されている。

 野党が十分な署名を集めることができれば、2016年には、マドゥーロ大統領の罷免投票を呼び掛けることができる。もし、現政権が、経済危機の解決策をうまく見つけ出せなければ、チャベス改革推進派が選挙で敗北したり、新たな大統領選が招集されたりする事態に直面するかもしれない。そうなれば、チャベス路線陣営が誰を新しい大統領候補にするかについても、野党が政権奪取のために、団結していない民主団結会議を団結させる可能性についても、予想がつかないのである。

 この金融危機のさなかでも、政府は格差解消のための政策を継続している。そして、国連ラテンアメリカ・カリブ経済委員会(CEPAL)のデータによれば、2013年、ベネズエラは中南米・カリブ海地域で最も貧困を減少させた国になり、失業率は7%を維持し、経済は引き続き安定したペースで成長している。IMFは成長率を上方修正し、2014年も成長が続くと予想している。一方、バンク・オブ・アメリカは、ベネズエラ石油会社(PDVSA)の現在の産出量をもってすれば、未払いの債務を支払うに十分であると指摘した。

 しかし、それ以外にも、ベネズエラの石油埋蔵量には世界最多のお墨付きがあることも、意識しておく必要がある。この膨大な石油埋蔵量を独占するための経済的・メディア的な強い圧力があっても、マドゥーロ政権は、大企業と協定を結んではおらず、1100を超える共同体および3万1000の住民自治体と共に、人民権力の発展を推し進め、チャベスの主義に対する誠実さと一貫性を示している。

批判の機会の欠如と改革路線の「制度化」

 新自由主義の民主主義国家では、2大政党制によって、同じ経済システムを掲げる2大政党が、交互に政権を握ることが可能になる。与党が消耗した場合には、野党が失望した有権者の票をかき集め、同じ経済システムが維持される。

 ベネズエラでは、そのような選択肢はない。いわゆる21世紀の社会主義を選ぶか、新自由主義の資本主義へと逆戻りするかしかない。チャベス改革路線は、与党が消耗したり、政策の欠陥から不満が生じたりした場合に、別の選択肢を提示することができないということである。

 この選択肢のなさが、いかなる批判の機会をも握りつぶしてしまう。民間メディアは、経済的な利益のために、政府に対して常に猛烈な攻撃を仕掛けている。国営メディアは政府の言いなりで、民間メディアの攻撃に対するバランスをとるために、政府批判の機会を設けず、プロパガンダの道具のようになっている。

 このからくりは、克服することが困難で、社会の隅々にまで及んでいる。労働組合の指導者は、野党に有利に働くことがないように、政府に批判的な立場をとることを避けている。ベネズエラ社会主義統一党(PSUV)などの与党陣営の政党は、政府との区別がつかなくなっている。官僚についても同様であるし、さらには、社会運動までもが、住民自治体のような機関を通して、または人民権力の発展のために受け取る資金を通して、政府の支援と影響を受けている。

 革命の「制度化」は、官僚主義が増大するという意味において、政党と政府の分かちがたい複合企業を作り出した。その複合企業は、労働組合やメディア、大部分の社会運動さえをも飲み込んでしまい、政府の重大な失策を批判してバランスをとることができなくなっている。

 与党に自己批判のための排気弁がないことは、必然的に、不満のある有権者に影響を及ぼす。それらの有権者は、ボリーバル社会主義の中に他の選択肢を見出せないことから、投票の棄権や野党支持にまで至ることもある。

 野党はこの数年間、右派の支持層に対してではなく、与党に不満を抱くそれらの有権者に対して、非常に巧みにメッセージを送ってきた。それは、「チャベスは偉大な指導者だが、その取り巻きは凡人だ」という考えを深く浸透させるメディア戦略だった。この戦略によって、「今、国民を統治しているのは、それらの役立たずたちだ」と考えるようになった有権者は少なくない。

 このジレンマを克服することは、困難な課題である。しかも、それは、民主主義のしくみの枠内で行われなければならないし、改革推進派の内部に批判の機会を与え、なおかつ労働組合の役割も強化しなければならない。さらには、PSUVが、支持基盤の中心としての役割を果たしながらも、政府を批判できるようにしたり、国民が公のメディアで批判の声をあげられるようにもしなければならないのである。

チャベスの死後1年を経て

 今回の地方選挙は、ウゴ・チャベスが最後に行った国民への演説の一周年と重なった。穏やかな12月のあの夜、チャベスは、悲痛な別れの言葉で私たちを驚かせた。近年のベネズエラで最も苦悩に満ちたその35分間、私たちは最後の一言が終わるまで、息を殺していた。

「今日われわれには、間違いなく祖国がある。今日われわれは、間違いなく祖国の国民である。今日われわれの祖国は、かつてないほど生き生きと、聖なる炎の中で輝いている」

「今日、土曜日の夜の10時10分、みなさんに伝えることは、もうこれだけだ。さようなら、勝利するまで! 独立と社会主義祖国!」

「生きよう、そして、打ち勝とう! ベネズエラ万歳!」

 その1年後、資本主義によって従属させられ痛めつけられたその他の国々とは異なり、歴史的指導者を失ったベネズエラの国民が、これほどの成熟と明晰さによって、階級闘争や二つの経済モデルの対立が意味することを理解していると、誰が想像できただろう。ベネズエラの国民は、階級の利益の擁護と非効率な政府の政策との間の複雑な差異を見分ける術を知っているのだ。

 つまり、マドゥーロにとっては、これは監視の目であり、ベネズエラ国民はそれを示したのだ。ベネズエラ国民は、常に既成秩序に疑問を投げかけ、服従せず、チャベスの最大の遺産が階級意識と左翼の団結であることを、はっきりと認識している。これは、他の国では見られないことだ。

 チャベス政権発足から15年後、チャベス改革路線に反対するプロパガンダに大金がつぎ込まれたにもかかわらず、また、経済戦争、政権打倒の工作、政策の重大な誤り、効率の悪さ、計画性のなさ、場当たり的な対策、汚職、治安の悪さにもかかわらず、そして現在では、チャベスがいないにもかかわらず、多くの人々が地方選の惨敗とチャベス改革路線の終末の始まりを予想していた中で、ベネズエラで再び、社会主義が資本主義を打ち負かしたのだ。

 これは、政府の勝利ではない。イデオロギーの勝利だ。民間メディアと多国籍巨大企業は、自覚を持ち反骨精神と闘争心にあふれるベネズエラの国民を欺くのは難しいということを、いまだに理解できないでいる。

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