e-MEXICO

ホーム > 自然・環境問題 > フラッキングの真実 (3)健康リスク

フラッキングの真実 (3)健康リスク

foto
写真:フラッキング地点に近い地域の家庭。水源がガスで汚染され、蛇口の水に火がつく。

 非在来型化石燃料の採掘については、以前から多くの専門家が、健康を害する危険性があると予想していた。近隣住民や関係者も、健康被害を訴えてきた。様々な調査の結果を見ても、フラッキングが健康に及ぼす悪影響は数えきれないほど多く、非常に危険であることは明白だ。

 データは、まだ十分とは言えない。しかし、医療・公衆衛生関連の文献には、フラッキングが健康に対する脅威であることを裏付ける重要なデータが掲載されている。

 米国では、フラッキングのリスクがすでに知られているにもかかわらず、エネルギー業界の閉鎖性と政府の対策不足が、フラッキングによる健康被害についての本格的な調査の実現を阻んできた。そのため、長期的に蓄積されていく健康への影響についても、追及・監視されることのないまま放置されてきた。

 企業によって情報が隠ぺいされるという非常に根強い問題は、解決される気配がない。米国だけでなく、おそらく他の国々でも、フラッキングでどのような化学物質が使用されているかは、特許で保護されているか、企業秘密になっている。そのため、他の産業では適用されている「知る権利」についての法律が、この業界では適用されていない。しかし、フラッキング用化学物質の多くは、飲用水の水源に混ざれば、健康に甚大な損害を与える可能性がある。

 また、米国では、秘密保持契約や裁判所による認可、司法取引などによって、健康被害を受けた家族や医者が病気やけがの状態について話すことが妨げられるため、事態はより複雑になる。

 そのため、フラッキングがどれほどの健康被害を引き起こしたかについて、現時点での正確なデータや資料は存在していない。しかし、存在している不完全な資料だけを見ても、フラッキングによる水や大気の汚染などの様々な要因が、人の健康を重大な脅威にさらしていることがわかる。

 地下水汚染、大気汚染、放射能による被ばくなど、フラッキングによる短期的・長期的な健康被害についての不安は日増しに高まり、とりわけ、不妊、先天異常、がんが不安視されている。

foto
写真:フラッキング地点に近い地域の家庭の上水道の蛇口から出る水

 フラッキングとその廃水が地下水と地表水を汚染することは否定できない。フラッキングで出る廃水は、廃水処理施設で処理されるか、地下の穴に注入されるか、または、地表水に直接流し込まれる。そのため、フラッキングから出た廃水に含まれる有害物質は、飲用水の地下水源に到達する可能性がある。

 雑誌「エンドクリノロジー」に発表された、コロラド州ガーフィールド郡における調査の結果によると、天然ガスの採掘活動によって、地表水と地下水の中の内分泌かく乱物質が増加する可能性がある。

【フローバック水について】
 米国では、フラッキングによって水源が汚染されたケースが、1000件以上報告されている。その大部分は、危険な化学物質を含むフローバック水(フラッキング時に地下に注入した水が地表に逆流したもの)による汚染で、漏出や不適切な管理によって起こった。

 汚染のケースの中には、フローバック水をほとんど処理せずに水道の水源に流してしまったケースや、漏水防止処理をしていない貯水池でフローバック水を保管し、地下水を汚染してしまったケースがあった。

 フローバック水に含まれる危険な物質は、地下注入時のフラッキング水に添加されていた化学物質や砂だけではない。地下から逆流するときに、もともと地中にあった重金属、ガス、石油、ラドンやウランなどの放射性物質を、地上に運んできてしまう。

【フラッキング水に含まれる添加剤】
 とりわけ憂慮すべき問題は、シェール層を破砕するために使用する水に、様々な化学物質が添加されていることだ。それらの化学物質が集落の水源を汚染した場合、健康と環境に重大な悪影響を及ぼす可能性がある。

 天然ガスや石油を扱う企業は、フラッキング水に添加する化学製品の情報をほとんど公開していないため、住民の不安が増している。

 フラッキング水の成分の構成は、破砕の規模や井戸の状態、水質などによって異なる。一般的には3~12種類の化学物質が添加されるが、もっと多い場合もある。

【主な添加剤】
 例外はあるが、一般的にフラッキング水に添加される化学物質は、次のようなものである。
塩酸、酢酸、塩化ナトリウム、ポリアクリルアミドその他の摩擦低減剤、エチレングリコール、ホウ酸塩、グルタルアルデヒド、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、グアーガムその他のゲル化剤、クエン酸、イソプロパノール

 米下院エネルギー商業委員会は、米国におけるフラッキングの影響調査を進めるため、2005年から2009年の5年間にフラッキング水に添加された化学製品の種類と量、および、その化学製品に含まれる化学物質の名前を報告するよう、石油・ガス関連の大手企業14社に要請した。

 14社が報告した情報によると、調査対象の5年間に使用された化学製品は2500種類以上、化学物質は750種類以上であり、そのうちのいくつかは、メタノール、ベンゼン、トルエン、エチルベンゼン、キシレンなど、毒性の強い物質であった。化学製品の総量は、7億8000万ガロン(約30億リットル)だった(化学製品のみの量。水は含まない)。

 フラッキングで使用される化学物質の中には、一般的で無害なものもあるが、発がん性が知られている物質も多く使用されている。上記の2500種類の化学製品のうち、650種類以上の製品が、米国の安全飲料水法で「ヒトに対する発がん性が知られている」または「ヒトに対する発がん性が疑われる」ために規制されているか、大気清浄法で指定される有害大気汚染物質のリストに載っている。

 まとめると、2005年から2009年の間にフラッキングに使用された650種類の化学製品には、以下に該当する29種類の化学物質が含まれていた。
・ヒトに対する発がん性が知られている、またはヒトに対する発がん性が疑われる
・人の健康を害するため、米国の安全飲料水法で規制されている
・大気清浄法で有害大気汚染物質に指定されている

 上記の化学製品のうち、60製品の成分は、ベンゼン、トルエン、エチルベンゼン、キシレンだった。これらの化学物質は、米国では、安全飲料水法や大気清浄法で、有害な汚染物質として指定されている。また、ベンゼンは、ヒトに対する発がん性が知られている物質である。調査対象の5年間で、ベンゼン、トルエン、エチルベンゼン、キシレンの少なくとも1種類が含まれるフラッキング水が、1140万ガロン(4310万リットル)注入された。

 調査対象の5年間で使用された化学製品のうち、279製品9400万ガロン(3億5500万リットル)は、メーカーが特許を取っているか、または企業秘密となっている成分を1種類以上含んでいた。公開されていない成分について情報公開するよう、石油・ガス関連企業側への正式な要請があったが、公開したのは数社だった。残りの企業は、複数のメーカーから化学製品を購入したため、フラッキング水に含まれていた正確な化学成分を特定できないとして、情報公開を行わなかった。従って、これらの企業は、成分も属性もよくわからない化学物質を、大量に地中に注入したことになる。

foto
写真:ノースダコタ州ウィリンストンにある天然ガス・プラントの前を通るタンク車。フラッキングに使用する何千リットルもの水を輸送している。 (AP / La Jornada)

 調査対象の5年間で最も大量に使用された化学物質はメタノールで、342種類のフラッキング用化学製品に含まれていた。しかし、この物質は、米国の安全飲料水法で5年ごとに公表される汚染物質候補リストに載っている。メタノール以外では、イソプロパノール、2-ブトキシエタノール、エチレングリコールが大量に使用されていた。

 米国の地下水保護評議会は、米エネルギー省と石油・ガス関連企業の出資で、FracFocusというウェブサイトを作成し、運営している。FracFocusは、フラッキング水の情報を登録するデータベースで、企業が自発的に情報を登録・公開するしくみになっている。FracFocusは、米国の23州で情報公開のために採用されているが、登録される情報が次第に詳細でなくなり、透明性が失われてきている。ハーバード大学の研究グループの調査によると、FracFocusが開始された2011年と比較すると、2016年時点で、企業秘密や非公開の情報の割合が増加していた。

大気

 フラッキングによる採掘地点に近い住宅地や人が働いている地域では、発がん性のあるベンゼンや対流圏オゾン(スモッグ)の前駆物質などの大気汚染物質が、米国の法律で定められた安全基準を超える、異常に高い濃度で検出されている。それらの大気汚染物質は、風に運ばれて数百km離れた場所まで到達することが、複数の調査結果で証明されている。

foto
写真:アルゼンチンのビスタ・アレグレにおける、フラッキングへの抗議行動

健康への悪影響

 フラッキングに使用された化学物質の25%以上は、がんや遺伝子変異を引き起こす可能性がある物質だった。また、37%は内分泌かく乱物質を、40%はアレルギー物質を、50%は神経系を害する物質を含んでいた。

 フラッキング地点周辺の水源の水は、メタンや発がん性物質、神経毒性物質を、高い濃度で含んでいる。それらの水源の水を使用する集落の住民の間では、フラッキングによる大気汚染が関連するがんの発生率が、66%にのぼっている。また、フラッキングの現場で働く労働者も同様に、汚染物質と事故のリスクによって、健康と生活を脅かされている。

(ラ・ホルナーダ・エコロヒカ216号 2018/02/03)

↑ PAGE TOP

inserted by FC2 system