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メキシコが遺伝子組み換え共和国に?

市民団体「環境研究グループ(GEA)」の持続可能な食糧システム(SAS)プログラムを担当するキャサリン・マリエール・メイエ氏は、遺伝子組み換え商品作物による緊迫した状態と、その結果として起こる環境や経済への影響について、注意をする必要があると呼びかけた。

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アーサー・ロロット
Desinformemonos 2012/10/07

 「私たちは、もう後戻りできないところまで来ている」と、市民団体「環境研究グループ(GEA)」の持続可能な食糧システム(SAS)プログラムの責任者であるキャサリン・マリエール・メイエ氏は述べた。同氏によると、「遺伝子組み換えトウモロコシの商品作物の認可が与えられるなら、農業牧畜農村開発漁業食料省(SAGARPA)と環境天然資源省(SEMARNAT)は、メキシコにおける生命を守る任務に失敗したことになる」

 遺伝子組み換え植物とは、遺伝子の変更、置き換えが行われた植物のことだ。遺伝子組み換え植物には、細菌や植物、動物など、他の種の遺伝子が組み込まれ、農薬の使用に耐えるように作り変える。これらの植物は、多くの専門家たちが、多数の在来植物に影響する、取り返しのつかない汚染や、健康と環境への弊害の原因となることを、指摘している。

 遺伝子組み換え種子の作付認可は、SAGARPAとSEMARNATに5件申請されている。そのうち2件は、多国籍企業モンサントからの申請であった。モンサントは、シナロア州に総面積140万ヘクタールの土地を所有している。また、残りの3件は、パイオニアの子会社であるパイオニア・ハイブレッド・インターナショナル・メキシコからのものだ。同社は、タマウリパス州に100万ヘクタール以上の土地を所有している。

 これまでのところ、遺伝子組み換え商品作物の実現に向けて、実験及び実験農場の許可が171件下りている。1977年以来、環境保護のために戦っている、GEAの研究者であるマリエール氏は、これについて、メキシコの生態系に打撃を与えるに充分であったとし、「もうすでに、多くのトウモロコシ畑やその他の作物の農地において、遺伝子組み換え作物との交雑によって、在来作物が汚染されている」と述べた。

 また、同氏は、「遺伝子組み換えの大豆やトウモロコシは、環境への影響を伴う。例えば、グリフォサート(モンサント社が商品化したラウンドアップなどの除草剤)に耐える植物を作付けすると、膨大な量の農薬が散布されるようになる可能性があり、長きにわたって土地と水を汚染し、また、農民や農村の人々の健康を損なうことになる」とも指摘した。

 たとえ巨大企業やそのお抱え研究者たちが、遺伝子組み換え作物を、進歩かつ地球の人口増加に対応するための可能な手段として紹介しても、その健康への悪影響のために、はじめから批判されてきた。ジル=エリック・セラリニ博士がフランスのカーン大学で行った研究は、NK603トウモロコシを与えられたネズミの集団において、腫瘍の異常な発生が見られたと明かした。このNK603は、SAGARPAの諸委員会における承認を待っている、遺伝子組み換えトウモロコシの一品種である。

 キャサリン・マリエール氏の意見では、セラリニ博士の研究発表によって生じた論争は、個別の研究が不足していることを表しており、「メキシコでなされるべきことは、メキシコ独自の事例や問題に沿った研究を始めることだ」と述べた。

 メキシコは、トウモロコシの原産地であり、70以上の種と、数千にのぼる変種を有する。従って、メキシコでは、遺伝子組み換え作物による環境破壊は、原種が汚染されることを意味する。キャサリン・マリエール氏は、「トウモロコシは、徐々に汚染されていくだろう。それには、風や昆虫によって花粉が運ばれ、自然受粉して汚染される場合や、メキシコで長年の伝統的習慣である種子交換によって、汚染が広がる場合がある。これは、取り返しのつかない過程だ」と説明した。

 また、同氏は、「私たちには、この遺産を保護していく、非常に大きな責任がある。この遺産は、非常に多様な遺伝資源であり、メキシコの先住民や農民の、何千年もの仕事の中で、獲得されたものだ」と述べた。

 メキシコでは、トウモロコシは、生物学的、文化的遺産であり、その保護は、「トウモロコシなしにメキシコはない」という全国的な運動の目的となっている。この運動は、トウモロコシを守るために、様々な分野の300以上の団体が団結したものだ。9月29日土曜日、メキシコの「トウモロコシの日」にあたって、「トウモロコシなしにメキシコはない」運動の人々は、メキシコ市中心部において、独創的なイベントを行った。

 運動のメンバーたちは、このように述べた。「農村と都市の住民の連帯によってのみ、メキシコの主食であり、心であり、支えであるトウモロコシが、多国籍企業に打ち勝つことを、実現できる。多国籍企業は、例えばモンサント社のように、巨万の富を我が物にしようとしているが、その富は、私たちの祖先が世界にもたらした富なのだ」

 遺伝子組み換えを推し進めるアグリビジネス企業の経済モデルは、共有財産すなわち植物を私有化することを基盤としている。そして、その結果、農民たちが企業に従属せざるを得ない状況が生まれる。

 マリエール氏の説明によると、食糧主権は危機的な状況にある。「なぜなら、大企業が、その種子に塩基配列を組み込む(=遺伝子を組み換える)ための特許を登録しているからだ。これが意味することは、遺伝子組み換え企業は、遺伝子組み換え植物に汚染された農地の農民を、責め立てることができるということだ。つまり、企業と協定や契約を結んで署名する、ということをしていないため、訴えることができる、ということである。これは、モンサント社の私設警察「モンサント・ポリス」がある米国やカナダで、すでに起こっていることだ」

 強調すべき重要な点は、これらの遺伝子組み換え企業の種子を買った農民は、自分で栽培した作物から得た種子を使用する権利がなく、毎年、新たに種子を購入しなければならない、ということだ。

 遺伝子組み換え食品摂取後の影響が公表されなくとも、また、予防原則(*)の定義するところに反していようとも、遺伝子組み換え食品は、他国からの輸入トウモロコシという形で、すでにメキシコの食品の中に存在している。米国からは、毎年1000万トンのトウモロコシが輸入されており、そのうちの80%が遺伝子組み換え作物である。また、毎年200万トンが、南アフリカから輸入されている。食品のラベルに、遺伝子組み換え作物を原料としているかについて、記載する義務はまったくない。

 アルゼンチンには、遺伝子組み換え大豆用の農地が1400万ヘクタール存在し、そのため、キャサリン・マリエール氏は、アルゼンチンを「遺伝子組み換え大豆共和国」と描写した。そのアルゼンチンにおいて、ブエノスアイレス大学のアンドレス・カラスコ博士は、農薬のグリフォサートの恐ろしい影響を証明した。グリフォサートは、遺伝子組み換え大豆の栽培に使用される除草剤で、その栽培地域全域で、癌の発生例が増加した。

 マリエール氏は、次のように結論を述べた。「世界的に、大きな戦いの動きがある。それは、遺伝子組み換えに反対する国々や各組織による戦いであり、また、モンサント社に率いられた、農業バイオテクノロジー多国籍企業各社の意向を受け入れた国々による戦いでもある。それは、種子市場の支配に対する戦いである。なぜなら、種子市場を制する者が、農業と食料における流通の、最も重要な部分を制するからだ」


* 予防原則は、遺伝子組み換えなどが環境や安全に悪影響を起こす可能性がある場合は、その影響が立証されていなくても、規制することができるとする考え方。1998年に行われた環境問題についてのウィングスプレッド会議において定義された。

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