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「風評」が組織犯罪の新たな武器となった

9月4日から6日にかけて、メキシコ州東部とメキシコ市のイスタパラパ区において、ある風評が広まった。この風評の扇動的な効果によって、地域経済が麻痺し、経済的損失が生じた。ネサウアルコジョトル市の民主革命党(PRD)の政治家二人は、この状況は政治的な要因も含んでおり、この地域の組織犯罪の隆盛と、警察への根深い不信感によって、恐怖は、銃弾と同じように効果的な武器となった、と述べている。

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写真:メキシコ州東部で治安の乱れ(David Deolarte)

グローリア・レティシア・ディアス
Proceso 2012/09/17

 メキシコ州東部で暴動が勃発したという風評が引き起こしたパニックから、一週間が経過したが、平静さは完全には戻っていない。

 ネサウアルコジョトル、チコロアーパン、バジェ・デ・チャルコ、チャルコ、チマウルアカン、ロス・レイェス、イスタパルーカの各基礎行政区の住民は、警戒を厳重にした。遅く帰宅しないようにし、夜9時以降は運転をせず、9月4日から6日のパニックの前は、夜10時以降も店を開けていた多くの商店も、1、2時間早く店を閉めるようになった。

 メキシコ州選出のルイス・サンチェス・ヒメネス上院議員と、7月の選挙で当選したネサウアルコジョトル基礎行政区のフアン・セペーダ・エルナンデス次期区長は、別々にインタビューを受け、3年前から、犯罪組織による暴力、治安の混乱、警察団体の汚職により、メキシコ州民は、長引く不確実さの中で暮らしている、という点を共に主張した。民主革命党(PRD)の党員である両氏は、この事態の責任は、エンリケ・ペニャ・ニエト前メキシコ州知事にあると述べた。ペニャ・ニエトは、連邦選挙裁判所(TEPJF)から、次期大統領として承認されたばかりである。

 セペーダ・エルナンデス氏は、ここ3年、ネサウアルコジョトル基礎行政区では、200人が殺害され、そのうちの18人は、今年8月に殺害された、と述べている。また、同氏は、「メキシコ州警察の警察官40人が、犯罪組織によって殺害されたが、その数字を政府は発表していない」ことを強調した。

 セペーダ・エルナンデス氏は、来年1月から、ネサウアルコジョトル基礎行政区長に就任する。同氏の説明では、2009年の選挙で、「制度的革命党(PRI)が、メキシコ市および周辺数州の『黄色地帯』と、メキシコ市、トルーカ市およびメキシコ州東部の『青色地帯』にある、多くの基礎行政区で圧勝したとき、当時のエンリケ・ペニャ・ニエト知事は、当選した区長たちに、各区が公共安全地域となるよう義務づけた。ペニャ・ニエト知事自身が、州都トルーカから、区長たちを任命したのだ。それ以降、メキシコ州全体で、秩序の崩壊が見られるようになった。犯罪、治安の悪さ、麻薬組織のミチョアカン・ファミリーが、メキシコ州に腰を据えた。この治安政策は、後任のエルビエル・アビラが知事になっても、変わることはなかった。

「ペニャ・ニエト前知事は犯罪組織と共謀していたか? エルビエル・アビラ現知事はどうか?」

 「すべては、怠慢が引き起こしたことだ。共謀のせいであったかは、わからない。それについて、話せるだけの材料がない。しかし、その活動によって共謀者となることもあれば、怠慢によって共謀者となることもある」と、セペーダ・エルナンデス氏は述べた。

 ルイス・サンチェス・ヒメネス上院議員は、2003年から2006年の間、ネサウアルコジョトル基礎行政区長だった。同議員の指摘によると、メキシコ州東部では、ミチョアカン・ファミリーが、いかがわしい商売から見ケ〆料を徴収したり、「バーや酒場、ディスコだけでなく、美容院や各種の教室、公設市場で店舗を構える店主、定期市で物を売る人々、そして路上でタコスを売る商人にまでも、場所代を請求したりしている。支払いを拒んだ人々は殺害された」

 今年8月3日、メキシコ州検察庁(PGJEM)は、ミチョアカン・ファミリーの最高幹部と思われるフアン・カルロス・ムニョス容疑者、通称エル・パリエンテの逮捕を発表した。ムニョス容疑者は、ミチョアカン・ファミリーが、2009年にメキシコ州東部に腰を据え、麻薬の販売で月に400万ペソ(約2500万円)以上、恐喝で15万ペソ(約10万円)を得ていた、と供述した模様である。また、同容疑者は、ネサウアルコジョトルにおける23件の殺人事件について、容疑を認めた。

 しかし、ミチョアカン・ファミリーのメキシコ州への進出は、2008年にすでに報告されていた。連邦検察庁の管轄下にある組織犯罪捜査専門次官室(SIEDO)の事前捜査で明らかにされたことは、身辺保護されている証言者たちが、警察の関与を証言していることである。証言者たちは、「ミチョアカン・ファミリーの敵対者たちが縄張りを侵さないように世話をしているのは、州や基礎行政区の警察の幹部たちだ。縄張りに侵入された時には、それらの警察官が、敵対者たちを誘拐したり、排除したりする。また、役人の誰かが、麻薬を密売している商店などを閉鎖するよう命じると、その警察官自身が、別の場所で、その商売を再び始めることを、請け負っている」と証言した。(プロセソ1806号)

政治的要因

 9月4日火曜日、メキシコ州東部のサン・ビセンテ・チコロアーパンのバイクタクシーの運転手たちと、アントルチャ・ポプラール(以前、アントルチャ・カンペシーノと呼ばれていた、PRI系の市民団体)の活動員たちとの間で、衝突があり、2人の死者を出した。その衝突の後、数人のグループが、市民と商店への襲撃が準備されていると、拡声器を通して、または対面で、うわさを流し始めた。最初は、襲撃はアントルチャ・ポプラールによるものだと言われていたが、その後、ミチョアカン・ファミリーの暴力行為であると言われるようになった。

 メキシコ州東部と隣接する、メキシコ市のイスタパラパ区、トラウァク区、イスタカルコ区の住民たちも、これらの恐怖を掻き立てる行為の被害者となった。

 恐怖は地域を麻痺させた。各種報道によると、メキシコ商業会議所は、ここ数日のパニックで、イスタパラパ区の商業施設で2500万ペソ(約1億5000万円)、ネサウアルコジョトルでは9000万ペソ(約5億4000万円)の損失を報告した。このネサウアルコジョトル基礎行政区では、商店10軒中9軒が閉店した。また、メキシコ州運輸改善のための諸組織間調整室は、チコロアーパン、ロス・レイェス、ネサウアルコジョトル、チマウルアカンで、1万5千人から2万3千人の輸送機関運転手が、営業をしなかったことを発表した。これは、輸送機関運転手全体の収入の総計が、1500万から2000万ペソ減少したことを意味する。

 これまでのところ、公共の平和を乱したことにより、ホセ・ルイス・ペニャ・ナバーロ、フアン・ラモン・サンチェス・テリホス、ダビ・ゲレーロ・パディージャ、エウヘニア・マイネ・オソリオ・ロペスに対して、事前捜査を開始した出先機関は、メキシコ市検察庁のみである。

 この4人は、6日木曜日の夜間に逮捕された。4人は、オートバイから拡声器で、アグリコラ・オリエンタル町において、アントルチャ・ポプラールのメンバーと犯罪組織が行うと予想される武力攻撃について、警戒を呼び掛けていた。逮捕された4人は、数人の見知らぬ人物が、そうしたメッセージを広めるよう依頼して、400ペソ支払った、と供述した。

 8日土曜日までに、メキシコ州のエルビエル・アビラ・ビジェガス知事は、この事件が、ソーシャルネットワークの利用において、「私たちに反省を促すものとなるはずだ」と指摘した。また、メキシコ州は、「安全で平静な」状態である、と付け加えた。

 11日火曜日の上院議会において、ルイス・サンチェス・ヒメネス上院議員は、アビラ・ビジェガス知事が上院議会に報告を行うための、合意点を提案した。提案した点は、9月4日から6日に起こったことについて、メキシコ州政府が開始した調査について、そして、ネサウアルコジョトル、チコロアーパン、テスココ、イスタパルーカ、ロス・レイェス、チマウルアカン、バジェ・デ・チャルコ、チャルコ、トラルマナルコの各基礎行政区における風評に由来する経済的損失について、である。

 同様に、サンチェス議員は、バイクタクシー運転手たちと、アントルチャ・ポプラールの活動員たちの衝突において、二人の死者が出たことについての、最初の尋問調書を公開することを、アビラ知事に要請した。同議員は、アントルチャ・ポプラールについて、「メキシコ州の代々の知事たちに支援されてきた」と述べた。

 また、同議員は、上院の公安委員会に提出した提案書において、首都圏地域の各基礎行政区内で治安作戦を開始するために、フェリーペ・カルデロン政権が介入することをも要請した。

 メキシコ州政府の不透明さが元で、「風評の中に、これらの事件には政治が絡んでいるとの、別の憶測が生まれた」と、サンチェス上院議員はインタビューに答えて言った。

 同議員によると、「風評が広まったことの責任が、メキシコ州の現政権にある可能性もある。それは、アントルチャ・ポプラールの存在感を弱めるためだ。アビラ知事とアントルチャ・ポプラールの間に、非常に大きないさかいがあった。そのいさかいは、今年7月に行われた選挙の、テスココ基礎行政区における結果にも反映している。テスココでは、アルトゥーロ・モンティエル州知事時代に州務長官であったマヌエル・カデナが、PRIから立候補した。

 しかしPRIは3位に終わった。この結果は、エルビエル・アビラ知事と、イヒニオ・マルティネス議員(メキシコ州議会におけるPRDの元責任者)との間に、取引があったということだけでは、説明できないことだ。マルティネス議員は、現在は市民連合(MC)の責任者で、側近の一人であるデルフィーナ・ゴメス・アルバレスを当選させて勝利した」

 また、サンチェス議員は次のようにも述べた。「アントルチャ・ポプラールの活動員たちが、マヌエル・カデナに悪く作用する形で活動したことに対して、マヌエル・カデナは非常に強い不満を持っている。なぜなら、カデナは、常にアントルチャ・ポプラールの活動員たちを保護してきたからだ。アントルチャ・ポプラールは、モンティエル州知事時代に、カデナと共に大きく成長し、ペニャ・ニエト州知事時代に、強化された」

 サンチェス議員は、アントルチャ・ポプラールの活動員たちが、市民を殴ったり襲ったりする計画を立てているという風評について、基礎行政区や州の警察官たちが、そのうわさを流しているのを見た、という人々の供述に、疑いを強めている。また、5日水曜日に、メキシコ州教育関連サービス庁(SEIEM)から各幼稚園に、「次の知らせがあるまで教育活動を中断する」ように書かれた電子メールの存在についても発表した。

 同議員が述べたところでは、「各小学校と中学校についても調査を行い、小中学校の校長たちは、その電子メールを受け取っていないことを確認した。その後、州職員たちが各幼稚園の園長たちと話をし、情報を訂正した。しかし、翌日、園長たちは再び、6日は幼稚園を開園しないようにという電話を受けた」

恐怖をあおる戦術

 2008年9月以降、新聞記者のリカルド・ラベロ氏は、ミチョアカン・ファミリーが、エンリケ・ペニャ・ニエトの州知事時代に、メキシコ州に侵入したことを報じてきた。連邦公安省によると、当時メキシコ州には、麻薬の密売を兼ねる商店などが、約5000軒あった。

 ミチョアカン・ファミリーは最初、ロス・セタスと共にこの地域に入ってきた。アルトゥーロ・モンティエル州知事時代にこの地域を支配していたシナロア・カルテルから、この地を奪うためである。ミチョアカン・ファミリーは、2007年、ゴルフォ・カルテルとロス・セタスから分裂し、数えきれないほどの死者を出したことと、遺体と共に残された「ナルコ・メッセージ(麻薬組織からのメッセージ)」を通して、知られるようになった。2008年9月12日、ラ・マルケサのある場所で、殺害された24人の遺体が遺棄されていた事件は、彼らの最も恐ろしい犯行の数々の一つである。

 しかし、ミチョアカン・ファミリーが支配しているのは、メキシコ州における麻薬密売のみではなく、「他の様々な商売にも手を出している。例えば、貨物輸送車への襲撃、恐喝、海賊版の製造販売、ストリップ・ダンスや売春宿、マッサージ店などのいかがわしい商売への場所代の徴収、麻薬を密売する酒場の経営、その他の多くの違法な商売がある」(プロセソ1664号)

 プロセソ特別号No.25(2009年7月)では、メキシコ州におけるミチョアカン・ファミリーの拡大は、市民の恐怖心をあおる戦術を伴っていたことが考証されている。麻薬組織は、「企業経営者を誘拐したり、4万ペソから200ペソの範囲で、用心棒代の支払いを課したりしていた。」その一方で、多くの若者たちが麻薬組織に雇われ、支払われる日給は5万ペソにも上ることがある。若者たちは、組織から与えられたオートバイに乗って麻薬を販売する。

 この3年間、メキシコ州東部に限って言えば、暴力は衰えを見せなかった、とルイス・サンチェス議員は指摘する。2005年から2011年の間に起こった、各州ごとの殺人事件件数についての、メキシコ地理統計局(INEGI)の報告によると、メキシコ州は、1万3164件と、群を抜いている。この数字のうち、6584件(約50%)は、2009年から2011年の間に起きたものだ。

 「このパニック状態の土台にあるのは恐怖心だ。我々が今経験している暴力は、止むことがない。殺人事件は、大抵はメキシコ州で起こっている。これは、ペニャ・ニエトの残した遺産だ。なぜなら、ミチョアカン・ファミリーは、ペニャ・ニエトと共にやってきたからだ」と、サンチェス議員は述べた。

 一方、ネサウアルコジョトルのフアン・セペーダ次期区長は、「こういった性質の事件は、ネサウアルコジョトル、ロス・レイェス、サン・ビセンテ、チャルコでも起こりうるため、人々は恐怖を抱いている。というのは、この治安の崩壊は、社会組織、とりわけ、より弱い立場の人々の間に浸透しており、彼らは政府を信頼せず、警察に至ってはまったく信頼していないからだ」と述べた。

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