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サンタ・ムエルテ

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写真:サンタ・ムエルテ像

 サンタ・ムエルテ信仰は、すでにひとつの社会現象であり、深く研究されるべきである。この信仰が増加するための糧となったものは、先スペイン時代起源の信仰を、スペインのバロック様式のカトリック信仰やサンテリアの要素と組み合わせた、メキシコの非常に広範な諸宗教の混交であった。

 サンタ・ムエルテの定義は様々であり、漠然としている。というのは、サンタ・ムエルテは、地下経済のような社会から排斥された部門を反映し、表現しているからである。とりわけ過去15年間は、急ごしらえの礼拝堂や教会が増加した。また、メキシコ市のソノーラ市場やフリーマーケットのような庶民的な市場で売られる聖人画、聖像、お守りなど、関連商品の消費量が特に増加した。そのような市場では、驚くべきのろいや呪術に対抗するための薬草、ろうそく、信仰のための雑貨を買うことができる。

 サンタ・ムエルテ信仰は、一般的な商店の中で、伝統的なカトリックの聖人像に混ざり、カトリックに対抗してその代替となる守護聖人として現れる。そして、諸宗教の混交を通して、古くからメソアメリカにあった死への信仰を、シャーマニズムや願い事をするための祈りの言葉や祈祷と融合させている。

 メキシコ米国伝統主義カトリック教会が、宗教団体としての登録を撤回されたことから、サンタ・ムエルテというテーマが、再び論争の中心になった。内務省の人口・移民・宗教部局によると、同教会は、宗教の対象を、トレント公会議の信仰に基づく伝統的カトリック信仰から、サンタ・ムエルテへの信仰へと変更し、宗教団体法29条に違反した。

 同教会の元代表者ダビ・ロモ・ギジェンは、内務省が、カトリック上層部からの圧力に屈したと語っている。カトリック教会は、農民や先住民、庶民階級の信仰の中心として、フアン・ディエゴを据えることに躍起になっている。しかし、フアン・ディエゴがほとんど受け入れられていないことを憂慮し、力強く活発になってきたサンタ・ムエルテへの信仰を、徐々に破壊しようとしている。ロモ・ギジェンによると、カトリック教会は、メキシコの人々の宗教的な感情を支配するために、グアダルーぺ信仰を永続させようとしている。それにもかかわらず、ニーニャ・ブランカとも呼ばれるサンタ・ムエルテへの信仰は、ロモ・ギジェンの伝統主義的な教会の領域を超えてしまっている。というのは、サンタ・ムエルテには、商業的なものから偶像崇拝、果ては悪魔崇拝的なものまで、すでに様々な傾向が存在しているからだ。

 サンタ・ムエルテの社会的基盤を構成している人々は、公式部門の労働市場や社会保障、司法制度、教育を受ける機会から排斥された貧困層や、都市や郊外農村で貧困化した広範な社会的部門の人々である。強調しなければならないことは、サンタ・ムエルテの信者のかなりの部分を、路上の物売り、とりわけメキシコ市の歴史地区の物売りや、麻薬の小売人グループ、売春組織、犯罪者、すりなどが占めていることである。

 オメロ・アリッジスは、その最新作である小説『サンタ・ムエルテ』について、次のように述べている。この小説の中で、サンタ・ムエルテという現象を前に、二つのメキシコが同時に存在していることが明らかにされている。「ひとつは、仕事や健康、食べ物を手に入れるために、願い事をしたり奇跡を求めたりする人々のメキシコ。もうひとつは、経済力、政治的権力、または犯罪組織における力を持つ男たちのメキシコで、おもしろいことに、これらの男たちは、サンタ・ムエルテに報復か死を依頼するのである」

 つまり、サンタ・ムエルテには、複数の宗教的な機能が存在しているということだ。法の枠外で生きる人々は、サンタ・ムエルテ信仰によって、神の表象的な側面を手に入れた。単に社会的に疎外されている部門の人々の民間信仰というだけではなく、新たに社会から排斥されるようになった人々にとっての民間信仰でもある。多くの研究者たちが認識していることであるが、サンタ・ムエルテ信仰は、組織独自のおきてや、ある種の社会的部門において彼らを正当化する表象的な力のおきてを作り出すことで、法の枠外で勢力を拡大しているそれらの部門の人々を、宗教的に支えているのである。

 麻薬組織、路上の物売り、タクシー運転手、海賊版製品の売人、ストリート・チルドレン、売春婦、すり、犯罪グループには、共通の特徴がある。つまり、あまり宗教的ではないが、無神論者でもなく、その割に、迷信や呪術には散財するという特徴である。彼らは、その存在、アイデンティティー、活動を助けるようなおきてや表象を持つ、彼ら自身の宗教の独自性を次々と作り出す。麻薬組織がマルベルデという独自の信仰を持ってきたように、マラ・サルバトルチャなどの多くの犯罪グループが、サンタ・ムエルテに救いを求めている。というのは、サンタ・ムエルテは、暴力と生と死が緊密に結びついた彼らの活動と折り合いをつけることができる、機能的な神であるため、彼らを代表し、守ってくれるものだからである。

 宗教は、日常の生活の表現でもある。信仰は、様々な文化的・政治的表現や、どのような社会であったか、またはどのような社会を目指してきたかを、明確に反映するものである。サンタ・ムエルテ信仰の増大は、われわれが作ってきた国が、二極的な構造の国であることを示している。また、さらには、サンタ・ムエルテは、1960年代にパブロ・ゴンサーレス・カサノバが「良き習慣」と名付けたもの、すなわち、主流の西欧カトリック的道徳とはまったく対照的に、地下社会が存在していることをも示しているのである。

(ホルナーダ 2005年6月)

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