e-MEXICO

ホーム > 自然・環境問題 > 自殺の種子

自殺の種子

モンサントの遺伝子組み換え種子とインド農民の大量自殺

バンダナ・シバ (ナブダーニャ財団代表)
Rebelion 2013/04/11 (The Asian Ageより翻訳転載)

「モンサントは、農業関連企業です。全世界の農家の方々が、より多くのものを生産し、より多くのものを蓄えることができるよう支援するための、イノベーションとバイオテクノロジーを展開しています」
「より多くのものを生産し、より多くのものを蓄え、農家の皆さんの生活を、より良いものにします」

 これは、インドのモンサントが、ホームページで約束していることだ。その横には、マハラシュトラ州の富裕な農家の笑顔の写真が掲載されている。これは、モンサントとその広報機関が、インドの農民の間に多発している自殺と、綿花の種子の供給におけるモンサントの支配力の増大(現在、モンサントは、インドの綿花の種子の95%を手中にしている)との関連を切り離そうとするための、絶望的な試みだ。種子は、生命の源だ。従って、種子を掌握することは、食物連鎖の最初の部分を支配することである。一企業が種子を支配するということは、その企業が生命を、とりわけ、農民の命を支配することを意味している。

 モンサントによる種子産業の集中的な支配が、インドをはじめ、世界中の国々に及んでいることは、非常に憂慮すべき事実だ。そして、これこそが、インドにおける農民たちの自殺や、カナダにおける「モンサント対パーシー・シュマイザー」裁判、米国における「モンサント対ボウマン」裁判、モンサントの不当な特許権使用料の徴収に対して、ブラジル人農民たちが起こした、22億ドル相当の訴訟の根底にあるものなのである。

 モンサントは、種子の特許権のおかげで、私たちの地球の「生命の所有者」になった。そして、昔から種子を育ててきた農民たちから、生命のリニューアル代の名目で、使用料を取り立てている。

 種子の特許権は、違法である。なぜなら、植物の細胞の中に有害な遺伝子を挿入することは、植物を「創作すること」でもなければ、「発明すること」でもないからだ。モンサントの種子は、欺瞞の種子だ。その欺瞞とは、「モンサントは種子と生命の作り手である」と表明すること、農民たちを告訴して、借金まみれにしておきながら、農民のために働いているふりをすること、遺伝子組み換え作物が世界を食べさせていると主張することである。遺伝子組み換え作物は、害虫や雑草を抑制することができず、それどころか、スーパー害虫やスーパー雑草を生み出す原因となっている。

 1988年、世界銀行は、種子産業の規制緩和を、インド政府に要求した。世界銀行から課された種子政策のおかげで、モンサントは、インドの種子産業に参入することができた。モンサントの参入によって、五つの変化が起こった。第一に、インドの諸企業は、合弁会社とライセンス協定でがんじがらめにされ、種子産業の独占が進んだ。第二に、農民たちの共有資源であった種子が、モンサントの「知的所有物」になった。そして、モンサントの種子に対する特許権使用料の徴収がはじまり、種子購入の費用が増加した。第三に、自然受粉の綿花の種子が、遺伝子組み換え種子等のハイブリッド種子に取って代わられた。こうして、再生可能であった資源が、再生不可能な特許商品になった。第四に、以前は、他の食用作物と同時栽培されていた綿花が、単一栽培されるべきものになった。そのため、害虫、病気、干ばつに対して非常に弱くなり、不作になる可能性が高まった。第五に、モンサントは、インドの環境規制の取り壊しに着手した。実際、モンサントは、自社の再生不可能なハイブリッド種子や遺伝子組み換え種子の推進のために、いわゆる官民パートナーシップ(PPP)を通して、公共の資源を利用し始めた。

 1995年、モンサントは、インドのマヒコ社との合弁会社を通じて、Bt遺伝子を綿花の種子に組み込む技術を、インドに導入した。1997年から1998年にかけて、モンサントは、遺伝子組み換えBt綿の農場試験を違法に開始し、翌年からBt種子の販売を開始することを発表した。しかし、インドでは、環境保全法に基づいて、遺伝子組み換え作物を規制する規則が、1989年に定められていた。遺伝子組み換え作物の農場試験を行うためには、環境森林省の下部機関である遺伝子工学認可委員会の認可を得ることが必要である。科学・技術・エコロジー研究財団は、インドの最高裁判所に、モンサントを告訴した。そのため、モンサントは、2002年まで、Btコットンの種子の販売を開始することができなかった。

 2012年8月に提出された、インドの国会委員会によるBt綿についての批判的な報告書を受けて、最高裁判所は、専門家を任命して、委員会を設置した。委員会は、全種類の遺伝子組み換え作物の農場試験を、10年間停止することと、進行中の全試験の終了を勧告した。

 しかし、そのころまでには、インドの農業はすでに変化していた。

 モンサントによる種子の独占、伝統的な農法や品種改良の破壊、特許権使用料という形での巨額の収益の獲得、単一栽培による脆弱性の増大は、負債と自殺と農家の困窮を増大させる土壌を作り、インドの農民たちの間に自殺が広がる原因となった。Bt綿の導入で、この組織的な支配は強まった。従って、自殺の大部分は、綿花栽培地帯で起こっている。

 インド農業省の2012年1月の報告書は、綿花生産地の各州に対し、次のように通知した。「綿花生産者たちは、Bt綿への移行後、深刻な危機に直面している。2011年から2012年にかけて、農民の自殺が多発したが、なかでも、Bt綿生産農家の自殺が、特に急激に増加した」

 Bt綿の栽培面積が国内最大のマハラシュトラ州では、農民の自殺者数も、最多である。自殺者は、Bt綿の導入後に増加した。モンサントによる特許使用料の徴収と、種子や農薬の購入費用の増加が、農民たちを借金まみれにしたためだ。インド政府のデータによると、農村の負債の75%近くは、農業生産財の購入によるものだ。モンサントの収益が増加すればするほど、農民たちの負債も増加する。つまり、収益と自殺が連鎖するという意味で、モンサントの種子は、自殺の種子なのである。

 自殺の種子における究極のテクノロジーは、モンサントが特許を取得した、不稔性の種子を作る技術である。(この不稔性の種子は、マスコミから「ターミネーター技術」とあだ名をつけられている。不稔性の種子のテクノロジーとは、栽培して得られた種子が発芽しないようにするための、遺伝子利用制限技術(GURT)の一種だ。収穫しても、発芽可能な種子が採取されないか、または、採取されたとしても、その種子は、発芽スイッチがオフになっている、特別な遺伝子を持っている。) 「生物の多様性に関する条約」は、この種子の使用を禁止している。もし禁止していなかったならば、モンサントは、この種子によって、さらに巨額の利益を得ていたであろう。

 モンサントの真の目的は、種子の支配である。遺伝子工学は、特許と知的所有権によって、種子と食料を支配するための、単なる道具にすぎない。しかし、モンサントの「テクノロジー」についてのコメントは、真の目的を隠そうとしている。

 世界貿易機構(WTO)の貿易関連知的所有権協定(TRIPS)の中で、モンサントの代表者は、「我々は、微生物と植物についての特許の記述においては、診断医であると同時に、治療医でもある」と述べている。つまり、農民が種子を保存し、それを自分の意志で使用することを妨害することが、モンサントの主要な目的であった。現在、モンサントは、伝統的な方法で品種改良された種子にまで、特許を拡大している。ブロッコリーやピーマン、低グルテン小麦などがその例だ。低グルテン小麦は、モンサントがインドから盗んで、違法コピーしたものだ。私たちはこれを、バイオパイラシーで、欧州特許庁に訴えている。

 こうしたことから、私たちは、マハラシュトラ州ビダルバの、モンサントのBt綿生産地帯、つまり、自殺が多発した地帯の中心で、「自由のための繊維」プロジェクトを開始した。私たちは、土着の種子のための共同体種子銀行を設立し、農民たちが有機栽培農業に移行することを支援している。遺伝子組み換え種子がなければ、負債も自殺もないのだ。

↑ PAGE TOP

inserted by FC2 system