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「存在しない」アフリカ系メキシコ人女性

ミハネ・ヒメネス、ベアトリス・アマロ(先住民・アフリカ系メキシコ人女性ネットワーク/コスタ・チカ女性ネットワーク/アフロメキシカン運動)
La Jornada del Campo No. 79 2014/04/19

 スペイン植民地時代、アフリカ出身の奴隷がメキシコに連れて来られたことは、様々な資料に残されている。しかし、メキシコは、国民のアイデンティティーとしてインディヘナとメスティーソを称揚したため、アフリカ系住民は体系的に否定されてきた。スペイン植民地時代、アフリカの様々な地域から、約25万人が奴隷としてメキシコに連れて来られ、現在は約40万人のアフリカ系住民がいると考えられているが、その存在を目に見える形で示す正確なデータは存在しない。

 ゲレロ州のアカプルコからオアハカ州のプエルト・エスコンディードにかかるコスタ・チカ地方には、アフリカ系住民の集落の大部分が集中しており、州境を挟んではいるが、民族的、文化的には類似している。この地方のほとんどの集落は極端に疎外された状態にあり、適切な公共サービスも仕事もない。実際には、貧困から抜け出すための機会がなく、頻繁に自然災害の影響を被っている。

 オアハカ州では、アフリカ系住民のための具体的な政策はまだとられていないが、州憲法には、近年、アフリカ系住民についての記述がわずかに追加された。また、オアハカ州の先住民問題庁は、黒人のアフリカ系住民を、肌の色ではなく、その文化で識別するような、より具体的な法案の作成に取り組んでいる。一方、アフリカ系住民は、先住民発展委員会(CDI)とメキシコ国立自治大学(UNAM)による調査や活動で明確になりつつある社会的な権利や立場を、正当なものだと考えている。CDIの調査によると、オアハカ州内でアフリカ系住民の集落がある市町村は17市町村で、うち12市町村がコスタ・チカ地方に、それ以外はカニャーダ地方、クエンカ地方、イスモ地方にある。コスタ・チカ地方には78集落が集中している。

 一方、ゲレロ州では、アフリカ系住民の集落は、アソジュー、クアヒニクイラーパ、コパラ、クアウテペック、イグアラーパ、フチタン、マルケリア、オメテペック、サン・マルコス、フロレンシオ・ビジャレアルの各市町村にあり、そのすべてがコスタ・チカ地方に属している。

 アフリカ系のメキシコ人女性は、アフリカ系の存在を認めない体系的な人種差別の中で、さらに性別、貧困、人種による差別に直面している。最も深刻な差別は性別による差別で、男女間に過剰な区別をつけることが、黒人女性への様々な偏見につながっている。アフリカ系女性が結婚する平均年齢は17歳だが、13歳か14歳の少女が結婚するケースもある。これは、男女間に過剰な区別をつける習慣によるものというよりは、むしろ社会的・文化的背景によるものだ。いまなお、アフリカ系女性には、結婚の条件として処女性が要求される。結婚する女性が処女の場合には、祝福され、記念撮影のシャッター音が鳴り響くが、そうでなかった場合は、人前にさらされ、妻になることを拒絶される。

 アフリカ系女性は、肌の色によっても差別され、“黒人女”、“ブラッド・ソーセージ”など、アフリカ系女性をからかうときによく使われる言葉と共に生きなければならない。また、メキシコの大衆文化には、アフリカ系女性を軽んじ、差別するようなジョークや歌、表現がある。米国内のメキシコ人移民が受けているひどい待遇について、ビセンテ・フォックス元大統領が、「メキシコ人移民は、黒人でさえやりたがらない仕事をやっている」とコメントしたことを、どうして忘れることができよう。フォックス元大統領は認めたくなくても、メキシコには、黒人の国民も存在するということを、考えなかったのだろうか。

 アフリカ系住民を対象とする政策の第一の問題は、アフリカ系住民がメキシコの先住民族とは見なされていないということだ。従って、公共サービスを受けるために、インディヘナであると偽らなければならないことが頻繁にある。しかし、先住民言語を話せないことから、自らそれをあきらめてしまうことも多い。

 結局、アフリカ系住民、とりわけその女性たちは、事実上存在していないも同然だ。それを示すものは、アフリカ系を対象とした社会政策の欠如だけではない。というのも、そもそもそのような政策は、アフリカ系の存在を認識するための指標にしかならないからだ。自国民としてのアフリカ系を拒否することは、何よりもまず、メキシコの公的・社会的・文化的生活から生じていることが明らかであり、そこでは、「メキシコはメスティーソの国だと公的に定義されているから、黒人はいない」という作られたコンセプトが根付いてしまっている。アフリカ系のメキシコ人女性は、女性であることによって、また、アフリカ系住民の経済的・社会的な状況によって、二重の意味で、様々な暴力や迫害に苦しんでいる。これに肌の色という要因が加われば、黒人女性は、差別されている人々の中でも、最もひどい状況にいることがわかる。このことは、人種差別の克服どころか、メキシコの社会に体系的な人種差別があることを示している。

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