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服役も釈放も当局の命令次第

ミゲランヘル・フェレール
Rebelion 2012/08/18

 数日前、ラファエル・カロ・キンテーロが釈放された。米国麻薬取締局(DEA)のエンリケ・カマレナ・サラサール取締官とメキシコ人運転手のアルフレド・アルベアル・アセベドを殺害した罪で、懲役40年の判決を受け、28年間服役した後のことだった。釈放は、この事例を再調査した裁判所の命令によるものだった。

 今回、裁判所はこの措置を取るにあたり、完璧な法的論拠を整えていた。その論拠とは、カロ・キンテーロは管轄外の裁判所で審理され、判決を受けたというものだ。つまり、カロ・キンテーロが起訴された殺人事件は、地方裁判所で審理されるべき事例であったにもかかわらず、連邦裁判所で審理され、判決が下された、と言っているのだ。途方もない、不可解極まりない、裁判手続きの不備である。

 カロ・キンテーロの釈放は、社会に正真正銘の大騒ぎを巻き起こした。というのは、カロ・キンテーロの犯罪を、誰も疑っていなかったからだ。さらに言えば、カロ・キンテーロの釈放は、無実であったことがわかったためではなく、裁判上のとんでもないミスがわかったためなのである。

 ということは、30年前に事件を担当した連邦検察庁と裁判所は、お粗末なミスを犯したということだ。なんとういう無知! なんとういう無能! 本当だろうか? 検察庁や裁判所には、後々まで語り草になりそうなこのミスに気付いた法律家は、一人もいなかったのだろうか?

 それともむしろ、米国の麻薬取締官の一人が残酷にも殺害されたことで、米国政府を十分に納得させる緊急の必要があったのだろうか? それはつまり、メキシコの最高権力からの命令で、しかるべき訴訟手続きなどという法律上のささいなことは気にせず、カロ・キンテーロを有罪にしなければならなかったということだ。

 というのは、同じようなことが、今回の釈放でも起こっているからだ。カロ・キンテーロ釈放の決定または許可は、最高権力から下りたものだ。それとも、釈放を命じた裁判官たちが、この件をもっぱら厳正に考慮して、自発的に行動した、と真正直に考える人もいるのだろうか?

 よく言われるように、影の力があったのではないか? 当局の命令か、少なくとも合意か許可が、なかっただろうか? 何もなかったというのは、28年前のその裁判上のミスと同じくらい、信じられないことだろう。

 メキシコの司法制度の沿革を少しでも知っている者なら誰でも、検察庁の役人や裁判官のとった行動には、金や有力者や政治家が関与していると考えるはずだ。メリットさえあれば、新米から超大物まで、あらゆる政治家が関わってくるのだ。

 カロ・キンテーロのような大物の事例ならなおさら、金と有力者の介入があると思われる場合は、政治権力が決定的に関与していることは、明白だ。

 そこで、カロ・キンテーロの釈放を政治家に決意させたものが何なのかを、考えてみなければならない。麻薬マフィアと政治家は、この釈放によって、ある合意に至ることができるということだろうか? つまり、この6年間メキシコを支配してきた、前代未聞の残虐な暴力を終わらせるという、新たな取り決めのプロセスを開始、進展させるにあたり、麻薬マフィアは、カロ・キンテーロの釈放を条件にしたのだろうか。

 あの大物中の大物エル・チャポことホアキン・グスマン・ロエラを、逃亡という名目で釈放することを許可した当局の取り決めが、もう一度、繰り返されたということだろうか?

 それとも、麻薬マフィアと政治家の間にそのような相互の取り決めはなく、むしろ、政治家から麻薬マフィアへの一方的なジェスチャー、つまり、将来における合意をもくろんでの暗黙の合図だったのだろうか? 麻薬取引の世界を、暴力の度合いがはるかに低かった以前の状態に戻すための、今後の合意の地固めをしていくといったようなことだろうか? 今回の件は、あまりにうさんくさく、不可解で、陰謀に満ち、謎めいているため、ありとあらゆる憶測が広がっている。ひとつだけ、明らかに誰も"考えない"ことは、金や有力者や政治家の関与なしに、法が厳正に適用された可能性についてである。

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