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チリの荒廃

パトリシオ・マラトラッシ・A
Rebelion 2013/07/11

 チリは、世界的には間違いなく、新自由主義の理念を適用して進歩と前進を遂げた、力強く輝く花形の国のひとつだ。実際、資本主義メディアでも、そのように紹介されている。しかし、そこに何か確実なものが存在しているか? 答えは明らかだ。確実なものはない。最も明白な事実だけに言及すると、チリは過去数十年の間、新自由主義政策によって、世界で最も不平等な国のひとつになったし、現在でもそうである。

 世界経済全体の中で、他の地域が新自由主義の危機に完全に振り回された一方で、チリでは、豊かな自然資源が、一時的に危機を防ぐための防波堤となった。言い換えれば、「チリの奇跡」を支えたもの、つまり、堅実な成長率(平均5.8%)や失業率の低下は、チリの富の壊滅を意味している。チリの偉大な富は、主にいわゆる銅で、チリは世界最大の銅産出国である。

 2002年には、鉱業からの収入は、歳入の2.7%に相当していたが、2007年には、32%を占めるようになった。つまり、2002年、国家財政は、鉱業から3億5000万ドルの収入を得ていたが、2007年には、それが140億ドルにまで達し、2012年も、110億ドルを超す収入となった。フレイ、バチェレ、ピニェラ各政権は、銅の生産からの収入だけで、毎年平均80億ドルを得ていた。生産量で言えば、銅の産出量は150万トンから540万トンへと、3倍に増加した。

 銅はチリに与えられた天の恵みであるが、その恵みは、重要なことにはまったく使用されなかった。基幹産業である大規模な鉱業に生産要素を供給するような産業にさえ、使用されなかったし、先端技術や持続可能な優れた産業を生み出すことにも使用されなかったことは、言うまでもない。チリは、国内総生産では世界第37位(世界のGDPの0.3%に相当)であるが、大富豪の輩出では、世界第9位となっている。

 しかし、天の恵みは、硝石ブームや『アワビ・ブーム』がそうであったように、すべての天の恵みの例にもれず、枯渇するものだ。銅の価格の変動は、ますます激しくなっている。天然資源の価格は、歴史的に見れば、世界経済の変動や危機に付随して変動するものであったし、今日では、投資を行う大規模な多国籍企業の取引に左右されている。銅1ポンドの価格は、チリの生産増大政策によって、2011年の4ドルから、0.6ドルまで値下がりするに至った。しかし、このことを思い出す者はいないようだ。今日、現実には、銅の価格は、今年に入って13%値下がりしている。その影響は、すでに表れている。というのは、2013年の確定申告で申告された納税額を見ると、税収が実質17%減少したことを示しているからだ。税収減の主要な要因は、鉱業の収入が24億7800万ドル減少したこと、つまり、鉱業部門の大企業の2012年営業利益分の納税額が、44.4%減少したことだ。企業側の説明によれば、その理由は、銅品位が1990年の1.61%から2011年の0.84%へと低下したことによって、操業費用が増大したためであり、賃金の増加によるものではない。一時的には、銅品位がより低くなることは、より集中的な労働力が必要とされるために、雇用が増加することを意味するかもしれない。しかし、長い目で見れば、広大な鉱床を採掘することは、収益の上がることではなくなり、チリ全土から移住してきた労働力を迎え入れた地域で、膨大な数の失業者が発生することになる。

 すべての成長、発展、進歩は、ピノチェト独裁体制の一連の経済・社会・文化政策の中で財産を確立した人々によって、大げさに吹聴され、『恐怖の報酬』によって維持されてきた。すべては危険と隣り合わせであり、国有財産の破壊を免れなかった。

 経済モデルがどのように運営されているかという問題について、一例として、サケの養殖産業を挙げることができる。サケ産業には、評価を受けているすべての資本主義産業と同様、当初から、資本主義の特徴が色濃く表れていた。つまり、産業の無差別な拡大を通じて、最短期間で、可能な限り最大の利益を獲得するという特徴だ。サケ産業を促進する人々の考えは、チリを、ノルウェーを超える世界一のサケ養殖国にすることだった。それによって、何を得たのか? 伝染性サケ貧血症の爆発的な流行である。サケ産業は、この感染症によって、50億ドルの損失を被り、約4万5000人の労働者のうち、数千人が職を失い、膨大な規模の生態系が破壊された。このことが教訓になったと思う人もいるかもしれないが、2008年の無謀な生産活動の過ちは、再び繰り返され、海シラミが大発生した。海シラミは、サケに寄生して害を及ぼし、伝染性サケ貧血症やリケッチア症などの病気を引き起こす原因となる。アトランティック・サーモンは、チリの輸出産業の花形商品で、今年は50万トンの生産が見込まれている。しかし、専門家の計算によると、アトランティック・サーモンの12%は、これらの細菌に汚染されている。

 これらの細菌は、第10州(ロス・ラゴス州)のほとんどすべての水資源を汚染し、パタゴニアでも同様の汚染が広がりつつある。現在、海シラミに汚染された地域には、69の養殖場が存在している。専門家による報告書によれば、汚染が特に深刻なサケ養殖企業は、アクア・チレ、アウストラリス、ロス・フィオルドス・ムルティエクスポルトの3社だ。これは、最も生産力のある企業のうちの3社の養殖場が、汚染されていることを意味している。サケの養殖に下りた認可は、合計で1200を超えている。素早く富を築くことを望むすべての人々に対して、無差別に認可を下ろすことは、大惨事の始まりだ。公式のデータによると、2012年の養殖サケの生物体量は、これまでで最大となり、そのうちの52.8%は、アイセン州に集中していた。サケ1ポンドあたりの価格は、2012年11月には3.1ドルだったが、今年3月には4.4ドルになった。そのため、生物体量は一層増加し、持続可能な水準を超えてしまった。サケの養殖産業の開始当初は、7kgまで成長したサケを水揚げしていた。しかし今日では、水揚げされるサケの体重は、平均3kgになっている。このことは、「市場は資源を最良の形で分配する」という新自由主義経済の金科玉条のひとつは、もうひとつのごまかしに過ぎないということを示している。つまり、市場は、大規模な破壊を介して調整を行うのであり、その破壊は、多くの場合、取り返しのつかないものなのだ。

 チリの人々は、この選挙期間中に、自身や、チリの資源を引き続き乱用しようと狙っている者たちに、次のように問うてみるべきではないか。すなわち、各政党が提案する発展戦略のうち、どの戦略が持続可能なものなのか。銅産業やサケ産業、製材業、アグリビジネスが生み出す潤沢な資金を、国内のどの産業部門に、どのような形で投資するのか。チリの基盤をなす富と基本的なサービスを、どうやって多国籍企業の手から取り戻すのか。それとも、われわれは引き続き、少数のチリ人と多国籍大企業の利益のために、原料と半製品を供給する飛び領土でありつづけるのか。

 現在の原料価格が、今後、値下がりすることは、避けようのないことであり、その場合、現在の歳入の水準を維持することは、絶望的だ。ピニェラ政権によれば、産業開発公社(CORFO)は、16万人の起業家たちを生み出してきた。しかし、1万6000ドルという現在の見せかけの一人あたりGDPを、これらの起業家たちの力だけで維持できるかと考えると、彼らも、付随的な役割以上のものを果たすことはないと、言わざるを得ない。景気変動の影響を緩和するため、2007年にバチェレ政権下で創設された経済社会安定化基金も、役には立たないだろうし、中央銀行の準備金をもってしても、不必要なぜいたく品ばかりの現在の輸入構造を、1年間維持することさえできないだろう。しかし、特に注意すべきは、右派の政治家たちの公約や、政治的な合意を、信用するべきではないということだ。というのは、それらの公約や合意は、イギリス人のギルバート・キース・チェスタトンの次の言葉を裏付けてきたものであるし、これからも裏付けるだろうからだ。「進歩とは、金持ちが貧乏人を丸裸にしようとするときに語る、作り話のことだ」

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