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トウガラシはメキシコの食と文化の象徴

メキシコ料理の特徴は、何といってもトウガラシです。トウガラシは、メキシコの国民と文化のシンボルなのです。

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写真:チレ・セラーノ(NTRZacatecas)

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 メキシコでは、ほとんどすべての人がトウガラシを食べます。トウガラシが大好きでたくさん食べる人も、あまり食べない人もいますが、トウガラシがメキシコの国民的食材であることは、間違いありません。メキシコ固有の様々な食材の中でも、トウガラシは栄養価に優れ、メキシコの国民と文化のシンボルとなっています。トウガラシを煮込んで作るモーレという料理には、アマリジート、モーレ・ネグロ、モーレ・デ・オジャ、モーレ・ベルデ、モーレ・デ・イエルバス、ピピアン、マンチャマンテレス、ソロストレ、チョレアード、エンバラード、ポブラーノ、チモーレなど、様々な種類があります。複雑で奥深い、すばらしい料理です。メキシコの先住民は、スペイン人がメキシコに新しい食材を持ち込む前から、これらのモーレのほとんどを日常的に食べていました。

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写真:モーレ・ポブラーノ(NutricionSAS)

 トウガラシを使ったソースにも、様々な種類があります。メキシコ大衆文化博物館によると、市場やスーパーマーケットで簡単に入手できる品種のトウガラシだけを使用しても、40種類以上のソースを作ることができます。また、美食家として有名な歴史学者のホセ・イトゥリアガ氏によると、最も一般的なトウガラシ「チレ・セラーノ」だけでも、様々な方法で調理(生で使用、ゆでる、素焼きにする、揚げるなど)することで、9種類のソース(ベルデ、ロホ、メヒカーナなど)を作ることができます。それぞれのソースにニンニクやタマネギ、コリアンダーを入れると、さらにバリエーションは広がります。

メキシコにおけるトウガラシ

 トウガラシをメキシコのシンボルだと考えることは、決して大げさなことではありません。メキシコ人にとってのトウガラシは、毎日の料理の大部分に使われる食材であるだけでなく、メキシコ人の最も大切なアイデンティティーでもあるからです。また、トウガラシの焼けつくような辛さや強烈な味は、メキシコで最も重視される男らしさと結びつけて考えられており、男性は、辛いけれども味のある、トウガラシのような人物であることが要求されます。

 メキシコでは、子供たちが「ちょっと大人になる」ように、トウガラシを食べることを教えます。子供たちは、辛くても我慢します。「口がヒリヒリするほど辛い物を食べる」ことは、その子がもう大きくなったこと、食を学んだことの証拠です。また、昔から、トウガラシを食べることと、「トウガラシ」という単語を口にすることは、共に危険をはらんだことでした。なぜなら、トウガラシを食べれば、口が焼けるようにヒリヒリし、「トウガラシ」という単語を口にすれば、暗にペニスを意味することがあるからです。ですから、「トウガラシ」は、様々なコントや駄じゃれ、笑い話、語呂合わせなどに使われてきました。

メキシコ料理におけるトウガラシ

 メキシコには、40種類を超えるトウガラシがあります。そのトウガラシを使って作る料理も、とても多様で豊かです。中でも有名なのは、プエブラ、オアハカ、ユカタンのとろみのある伝統的なモーレと、メキシコ州、グアダラハラ、サン・ルイス・ポトシの繊細なソースです。多様な食材とトウガラシを組み合わせることで、メキシコ料理は、官能的かつ刺激的で、独特の味わいと深い余韻を持つ、特別な料理になりました。

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写真:グアダラハラ名物「トルタ・アオガーダ」(Gastronomistico)

トウガラシの栄養

 トウガラシは、用途の広い、すばらしい食材です。また、栄養面でも非常に優れています。ビタミンが豊富で、アスコルビン酸の含有量は、野菜の中でも最高水準です(トウガラシの果肉に含まれるアスコルビン酸を発見したハンガリーのアルベルト・セント=ジェルジ博士は、この発見により、1937年にノーベル生理学・医学賞を受賞しました)。生のトウガラシには、レモンやオレンジの2倍以上、グレープフルーツの6倍以上のビタミンCが含まれています。また、微量のビタミンE、P、Bやミネラルも含まれています。乾燥トウガラシには、ニンジンよりも多くのビタミンAが含まれています。

 トウガラシの過剰摂取は、胃炎や潰瘍の原因となることがありますが、適量を摂取すれば、バランスの良い食生活に役立ちます。トウガラシは、トウモロコシやフリーホール豆のタンパク質の消化を助けることから、メキシコ人にとっては、とりわけ大切な食材です。つまり、前出のホセ・イトゥリアガ氏も言うように、「メキシコ人にとって、トウガラシは、食事に欠かせないものというだけでなく、栄養面で相乗効果をもたらすもの」なのです。メキシコの三大食材であるトウモロコシ、フリーホール豆、トウガラシは、相互に作用してバランスをとり、補強しあうことで、非常に高い栄養価を生み出しています。フリーホール豆のタコスにトウガラシのソースをかけて食べることは、おいしいだけでなく、栄養面でも理にかなったことなのです。

トウガラシの産業利用

 トウガラシは、産業にも利用されています。例えば、カプサイシンが豊富な赤トウガラシの粉末は、めんどりの餌として、養鶏に用いられています。鶏肉の皮や卵の黄身に、消費者に好まれる鮮やかな黄色い色合いを与えるためです。

 乾燥させたトウガラシから抽出するオレオレジンという成分は、ハムやソーセージの風味づけ、タバコの風味づけ、造船塗料、農作物の防虫剤、小型の家畜を野生動物から守る、などの目的で利用されています。また、精神刺激薬の原料として、口紅やファンデーションの顔料として、護身用の催涙スプレーの原料としても、用いられています。軍需産業においてさえも、トウガラシが使用されています。トウガラシで作ったペッパー・ガス(催涙弾)を使用すると、兵士たちは、たまらずマスクを脱ぎ捨ててしまいます。どれほど辛いでしょうね。何はともあれ、トウガラシは、毎日食卓にのぼり、栄養価が高く、工業原料としても利用され、笑い話や駄じゃれにたびたび登場する、メキシコの象徴であり、真髄なのです。

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