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メキシコ市で進むジェントリフィケーション

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写真:ミラン通り44番の自動車部品販売店(上)は、おしゃれなレストラン(下)になった。

ルス・バリオス・フエンテス
La Cronica 2016/09/12

 セルヒオ・ゴンサーレスさんは、数年前まで、「ジェントリフィケーション」という言葉の意味を知らなかった。しかし、身をもって体験した今は、よく知っている。

 セルヒオさんが初めてジェントリフィケーションという言葉を知ったのは、10年前から住んでいるメキシコ市フアレス地区のアパートから、退去するよう通知されたときだった。

 セルヒオさんによると、現在の住民たちとは異なるタイプの、フアレス地区をリニューアルしてくれそうな人たちにアパートを貸したいため、退去を通知したということだ。

 ある時期から、フアレス地区には、中流の上の階級に属する若者たちの独特のサブカルチャー「ヒップスター」が進出してきた。在来の住民を他の地域へ移住させ、もっと「進んだ」住民(たとえ経済的には同じ水準だったとしても)を住まわせること、それが、ジェントリフィケーションだ。

 セルヒオさんは、フアレス地区を歩きながら、「今ではフアレス地区は、ローマ地区やコンデサ地区のコピーになってしまった」と語った。例えば、ミラン通り44番では、自動車部品販売店が閉店し、代わりに、ガラス張りの今風のレストランができた。また、ルセルナ通り51番では、駐車場がなくなり、「コメドール・ルセルナ」という名の、市場を現代的にアレンジしたようなデザインのレストラン・バーができた。

 このような飲食店では、飲食代は2倍かかる。例えば、ミラン通りにある"グルメ・レストラン"では、定食が120ペソもするが、通りを挟んだ向かい側の庶民的な定食屋では、同じ量の定食が65ペソだ。

 フアレス地区は徐々に変化し、今では、街頭で食べ物を売って歩く商人でさえ、サーモン・フライやきれいに飾り付けられたスイーツ、ノンオイルのスナックなど、グルメな食べ物を売っている。フルーツも、どこにでもあるフルーツではなく、オーガニック・フルーツを売っていて、1キログラム80ペソもすることがある。スーパーマーケットで売っているフルーツの2倍の値段だ。

 それだけではない。地区内を散歩する犬は、血統書つきだ。セルヒオさんは、「以前は犬の散歩などしている人はいなかった」と語った。

 フアレス地区を訪れる人々も、一種独特だ。タトゥーをし、髪を染め、若手デザイナーの服を着ている。人と違って見えることは、ひとつの才能なのだ。

 ペットを飼う人が増えたため、そのふんの問題が、住民を悩ませている。

 また、装飾用品を売る店の若い女性店員は、車の渋滞がひどくなったと訴えた。「3年くらい前までは、車なんてまったく走っていませんでした。でも今は、ものすごく渋滞しています。何もかも変わってしまいました。フアレス地区は、新ローマ地区になってしまいました」と、がっかりした様子で語った。

 ジェントリフィケーションは、地理学の専門家によって研究されてきた。メキシコ国立自治大学で地理学を教えるルイス・アルベルト・サリーナス博士も、ジェントリフィケーションの研究者の一人だ。

 サリーナス博士は、2年前からコンデサ地区で行っている調査にもとづいて、次のように説明した。

 コンデサ地区では、不動産会社が都市景観の美化を行ったが、その際、地区に住む低所得者層に悪影響を及ぼすことは、考慮していなかった。そして、賃貸料や飲食その他の価格が上がると、低所得者層を退去させた。

 現在、メキシコ市のセントロ、ローマ、ゲレロ、クアウテモク、ドクトーレス、フアレスの各地区で、ジェントリフィケーションが起こっている。

 メキシコ国立自治大学が出版した「メキシコおよびラテンアメリカにおけるジェントリフィケーション研究の現状」という本には、小規模の商店や工場が、大規模なデパートに変わってしまった例が、多数挙げられている。例えば、メキシコ市のミゲル・イダルゴ地区にあったタイヤ工場とガラス工場は、現在はプラサ・カルソ(複合商業施設、マンション、博物館などを含む都市空間)になっている。

 サリーナス博士は、チャプルテペック通りの都市開発によってコレドール・クルトゥラル・チャプルテペック(CCC)が建設されれば、フアレス地区はまったく変わってしまい、住民の一部は、他の地区へ転居することになると予想している。

 「CCCプロジェクトによって、チャプルテペック通りに隣接するすべての地区に投資が行われることは、確実だと見られてる。このようなプロジェクトで行われることは、空間を再構築することだからだ」と、サリーナス博士は述べた。

 しかし、サリーナス博士は、「チャプルテペック通りが開発されても、家賃が値上がりして払えなくなった住民が転出しなければならないような事態が、起こらないようにすることもできる」と言い、「そのためには、政府は、不動産業界に好き勝手させるのではなく、投資額全体の少なくとも30%を、低所得者層向け住宅の建設に充てることを、不動産業界に義務づけるべきだ」と主張した。

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