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アステカの苦い水、チョコレート

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 チョコレートの語源は、ナワトル語のショコラトルだと言われています。ショコラトルは、ショコク(苦い)とアトル(水)が結合した言葉で、カカオから作られた泡立った飲み物=苦い水を指す言葉でした。

 メキシコ国立人類学歴史研究所(INAH)と米国のいくつかの大学が、ベラクルス州のセロ・マナティの発掘調査を行った結果、カカオが消費されるようになったのは、それまでの説より800年さかのぼる形成期(紀元前1900-紀元前900年)であったことが明らかになりました。

 その当時は、カカオの種子ではなく、果肉の部分を発酵させて飲み物を作り、重要な宗教儀式や婚礼の祝いで飲んでいたようです。後には、オルメカ人、マヤ人、メシカ人が、カカオの種子をすりつぶしたペーストからチョコレートを作り、トウガラシで味つけをして飲むようになりました。

 マヤ神話では、シュムカネの女神がイクシム(トウモロコシ)で人間を作り、その後、ククルカンの神が、人間にカカオを与えたと言われています。一方、メシカやアステカの神話では、昔、ケツァルコアトルの神が、人間にカカオの最初の種を与えたと言われています。

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 アステカの皇帝モクテスマは、水に溶かしたカカオを飲むことを好んだそうです。モクテスマのカカオ・ドリンクの作り方は、まずカカオの種子を焙煎し、それをすりつぶしてペースト状にします。ペースト状になったら水を加えて混ぜ、加熱します。表面にカカオの脂肪分が浮いてきたら、脂肪分からアクを取り除き、再びよく混ぜます。そうしてできた液体を勢い良く泡立て、液体の上に弾力のある泡の層を作ります。この基本のカカオ・ドリンクに、トウガラシ、ベニノキ、バニラ、はちみつ(甘みをつけるため)、小麦粉(脂肪分と水分を混ぜる乳化剤として)を加え、冷やしたのち、ひょうたんの外皮で作ったヒカラというお椀にそそいで飲んでいました。この飲み物は、強力なエナジードリンクでしたが、苦みとからみがとても強い飲み物でした。

 チョコレートが初めて文献上に現れたのは1502年、ホンジュラスのグアナハ島のインディヘナの首長が、クリストファー・コロンブスに、貨幣として用いられていたカカオの実を贈ったときのことでした。このカカオの実で作った苦い飲み物は、スペイン人にとって、とてもまずいものだったようです。

 コロンブスがチョコレートを飲んだ17年後、アステカ人がエルナン・コルテスに、チョコレートをふるまいました。コルテスは、「この飲み物を飲むと、疲労も空腹も感じずに、一日中動き回ることができる」ということに気がつきました。また、アステカ人がカカオの種子を貨幣として使用していることも、コルテスの注意をひきました。

 そして、コルテスは、アステカ人が飲んでいたチョコレートを、スペインの宮廷に持ち込みました。スペイン王室の貴婦人たちは、そのチョコレートを自分たちのために保管し、コショウなどのスパイスを入れたりして、少しずつこっそり飲んでいました。

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写真:モリニージョでチョコレートを泡立てる

 18世紀には、新旧両大陸の修道士や修道女が、アステカ人から受け継いだ方法でチョコレートを作り、飲むようになっていました。文献を見ると、新大陸の教会や修道院では、新大陸固有の飲み物が作られていて、その味が評判になっていたことが記録されています。その飲み物のひとつがチョコレートで、もうひとつがアトーレでした。

 チョコレートは、修道士や修道女にとても人気がありました。というのは、チョコレートは健康に良いだけでなく、彼らが行う長期間の断食を持ちこたえる助けとなったからです。チョコレートのそのような効能を危惧したイエズス会は、1650年、チョコレートを禁止する勅令を出しました。しかし、その結果、多くの見習い修道士が聖職者への道を捨てるようになったため、実際にはチョコレートを禁止することはできませんでした。

 メキシコ市では、カルメル会のサンタ・テレサ修道院の修道女たちが、チョコレートを飲むことを禁止されていました。なぜなら、チョコレートは「情熱に火をつけ、欲望へと誘い込む」とされていたからです。そのため、この修道院の見習い修道女は、「チョコレートを飲まず、人にも飲ませない」ことを、神に誓わなければなりませんでした。

 一方、オアハカの修道女たちは、カカオに砂糖、シナモン、アニスを加えると、とてもおいしいことを発見しました。そのときから、神の食べ物チョコレート(カカオの学名Theobroma cacaoは「神の食べ物」の意味)は、様々な食材と組み合わされ、バリエーション豊かに進化していきました。

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写真:メタテでカカオをすりつぶす

 メキシコ南東部では、現在もメタテと呼ばれる石臼で、ペースト状のチョコレートが作られています。飲むチョコレートを作るには、モリニージョという木製の泡立て器が欠かせません。このモリニージョをチョコレートの中で回転させることで、よく混ざった、滑らかな口当たりの、豊かに泡立ったチョコレートを作ることができます。また、チョコレートは、甘いものやお菓子だけでなく、メキシコ料理の最高傑作「モーレ」を作るときにも使われます。

 アステカ神話で聖バレンタインにあたるショチピリは、愛、球戯、美、踊り、花、トウモロコシ、快楽、芸術、歌の神でした。ショチピリという名前は、ナワトル語のショチトル(花)とピリ(王子)に由来していて、花の王子、美しい花、高貴な花を意味しています。

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写真:チョコレートを使ったメキシコ料理「モーレ」

(コモエンエルティアンギス 2011年2月)

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