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新大統領任期におけるテレビサの統治

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写真:テレビサのエミリオ・アスカラガ・ジャン社長。ペニャ・ニエト政府の第一回政府報告にて(German Canseco)

ヘナロ・ビジャミル
Proceso 2014/02/04

 テレビサにとって、新大統領任期は、逆説的に言えば、2012年6月、大統領選挙の1カ月前に始まった。それは、フェリーペ・カルデロン・イノホサ大統領の常軌を逸した政府が実権を握っていた最後の月であった。その月、連邦競争委員会(CFC)は、カルデロン大統領の任期中で最も論争を呼んだ、通信についての決定を承認した。また、その決定はおそらく、次期政府を束縛する最も重大な誤りでもあった(その時にはすでに、国民行動党(PAN)が次の政権をとることはないことを、すべてのことが示唆していた)。その同じ月、カルデロンは、PANの大統領候補ホセフィーナ・バスケス・モタが、大統領選挙で勝つことはないと、はっきりと認識し、保身を図る必要があった。

 論争を呼んだCFCの決定とは、テレビサ・グループとイウサセルの合併を承認したことであった。イウサセルは、無料テレビ放送の分野において、テレビサの競争相手と考えられている、サリーナス・グループのTVアステカの傘下にある携帯電話事業者である。この合併によって、テレビサとTVアステカの両社は、カルロス・スリム所有の通信最大手テルメックスおよびテルセルと競争するための冒険的な事業において、欠かせないパートナーになった。しかし、その冒険的な事業も、テレビサ・TVアステカ対テルメックス・テルセルの戦いのエピソードのひとつに過ぎず、その戦いは、麻薬カルテルの抗争と、非常に似通っている。合併は、1997年にテレビサの経営者となったエミリオ・アスカラガ・ジャン社長と、ベルナルド・ゴメス副社長が率いるテレビサ・グループの、政治的な能力を示すものであった。

 フェリーペ・カルデロンの任期中に、テレビサが、カルデロン大統領の「お気に入り」になると思われていたアクステルやアバンテルなどを含めた、通信部門のどの企業よりも、はるかに大きい政治への影響力を手に入れたことは、誰もが知っていることである。TVアステカとサリーナス・グループは、またとないほどの富を手にし、カルロス・スリムは、彼の真の高採算部門であるアメリカ・モビルを通じて、海外に触手を伸ばすことを選んだ。

 一方、テレビサは、その通信プロジェクトを、実質的にはまったく歯止めなしに前進させた。ベステルを買収し、スカイ、カブレビシオン、カブレマス、TVIを通して、有料テレビ放送市場の55%を一手に握るに至った。当局からの気前のよい租税特赦を獲得し、おまけに、テレビサの利益に悪影響を及ぼしていた2007年の選挙制度改革(テレビ画面の余白スペースの販売を禁止した)を、実質的に無効にさえした。また、有料テレビ放送市場へのテルメックスの参入(テルメックスの通信コンセッションの1.9条の変更)をけん制した。

 テレビサの利益は、カルデロンの基本的な弱点によって実現した。その弱点とは、2006年の選挙後の危機において、カルデロン政権には、元々合法性が欠如していたことである。また、カルデロン政権の麻薬戦争は、明らかにメキシコを血まみれにし、麻薬カルテルを分裂させる代わりに、強化してしまったのであるが、その麻薬戦争を正当化するためには、メキシコ最大のテレビ会社の暗黙かつ明白な支援が必要だったことも、カルデロンの弱点であった。

 逆説的に言えば、カルデロンの任期におけるテレビサの影響力を最もよく示すものは、制度的革命党(PRI)のエンリケ・ペニャ・ニエトの大統領選勝利であった。テレビサは、2005年10月以降、カバー範囲、広告、イメージ操作について、ペニャ・ニエト大統領と取り決めを行った。両者とも、その取り決めの「証拠が実在」していることを、幾度も否定している。しかし、すべての国民が、ペニャ・ニエトを、テレビ画面の中で見ていた。そして、ペニャ・ニエトは、本人の意思とはまったく反対に、「テレビサの大統領候補」になってしまった。全国レベルでは知られていなかったメキシコ州の一政治家から、テレビサやTVアステカで最も放送され、宣伝される人物になった。そして、こうしたことは、大金と、テレビサとの同盟によって、可能になったことなのである。

 テレビサにとって、新大統領任期への準備は、論争を呼んだイウサセルとの合併の期間に整った。それはなぜか? アスカラガ・ジャンのテレビサの重役たちが持つ圧力や脅しをかける能力によって、合併についてのCFCの最初の見解(2012年1月24日、CFCは賛成2、反対3で、合併を拒絶した)を変更することができたからである。その結果、2012年6月、大統領選挙の1カ月前に、カルデロンは「ガイドライン」を示し、CFCは、その見解を変更(賛成4、反対1で合併は認められた)したのである。

 この件については、当初から、テレビサとイウサセルの鉄面皮が明白であった。テレビサとTVアステカが、コラムニストのミゲランヘル・グラナードス・チャパを、容赦なく攻め立てたときのことを、覚えているだろうか? グラナードスは、2011年1月、自身のコラム「プラサ・プブリカ」の中で、この独占的な合併計画を暴露したのである。テレビサとTVアステカは、グラナードスを、うそつきで、でっち上げの記事を書く、テルメックスの利益のために働くコラムニストだと非難し、疑惑が起きるたびに、グラナードスに対する悪口雑言を繰り返していた。しかし、同じ年の4月には、そのテレビサとTVアステカが、合併計画を認めたのである。

 テレビサとイウサセルの合併は、政権移行期の構造的な変化を特徴づけるものであった。この強力な同盟は、ペニャ・ニエトの任期中も持続するであろう。というのは、それが、両テレビ局の政治的な影響力についての協定であり、単なる経済的な競争に関することではないからである。そして、その協定においては、表向きの重要な仕事は、テレビサの「クアトロ・ファンタスティコ(*1)」が行い、汚れた仕事は、しばしば、TVアステカの重役たちが行っている。

 この政略結婚のような合併によって生じる力を抑制するために、もともと、この合併には、他の多くの制約が組み入れられるはずであった。しかし、カルデロンは、それらの制約を設けることを阻止し、6項目だけが組み入れられることになった。その6項目とは、「テレビサとTVアステカは、無料デジタル放送の周波数のコンセッションに、"遅くとも2012年11月30日までに"入札する」「テレビサとTVアステカの画面広告の販売において、差別を禁止する」「イウサセルのサービスの契約と"関連づけた販売"を禁止する」「無料テレビ放送と有料テレビ放送を切り離して販売する」「サリーナス・グループのトータル・プレイ(*2)へのテレビサの参加を禁止する」などであった。

 見ての通り、2社の入札に関しては、現在まで実現されておらず、政府や新しい調整機関である連邦通信機関(IFT)の内部から様々な圧力をかけることによって、引き延ばしを図っている。イウサセルの契約と関連づけた販売については、引き続き、様々な口実の下で、販売が行われている。そして、最も重要なことは、市場における支配力に悪影響を及ぼす、その他の制約事項を阻止したことである。

 連邦通信委員会(COFETEL)とCFCが検討した、元々の制約事項の中には、次のようなものがあった。「テレビサの、とりわけ有料テレビ放送部門の資産を分解し、クロス・オーナーシップを抑制する」「2.5Ghz帯(テレビサとMVSコミュニケーションズの間の論争を呼んだテーマ)を再編成する」 というのは、テレビサが、ホアキン・バルガスのMVSは帯域を十分に活用しておらず、「独占」状態にある(自分のことは棚に上げて)と訴えたからである。「"デジタル配当金"と呼ばれる700Mhz帯を解放する」 700Mhz帯は、テレビサとTVアステカが、いわゆる"サイマル放送(*3)チャンネル"の78%を所有している周波帯である。「テレビサ・TVアステカ両社が阻止してきた地上デジタルテレビ放送(TDT)、またはいわゆる"アナログ停電(アナログ放送の停波)"に関する政策を実施する」「テレビサがありとあらゆる方策で回避しようとしてきたマストキャリー・マストオファー(*4)を実施する」などであった。

 これらの元々あった制約事項は、2012年12月2日、メキシコのための協定の良き政策課題に加えられた。ペニャ・ニエトにとっては、「テレビサの大統領候補」の烙印を取り除き、アスカラガ・ジャンのテレビサに対して権力のサインを送ることは、都合のよいことであった。PANと民主革命党(PRD)は、奮い立って、この協定に署名した。聞こえは良かった。メディアの制度を民主化し、テルメックスとテルセルに対する真の競争を開始するための、有効なシナリオのように思われたのである。

 2013年4月、憲法6条、7条、27条、28条、73条、78条、94条、105条と、17の重要な政令を改正した改革において、メキシコのための協定の良き政策課題を実現する約束で、様々な法令が追加された。議会における審議の期間中には、テレビサの影響力が見受けられた。そのことは、ハビエル・コラル議員、マヌエル・バルトレット議員、アレハンドロ・エンシーナス議員らも指摘している。

 それにもかかわらず(また、元の法案の本質部分が変更されたにもかかわらず)、憲法が改正された議会において、政令で定める期限、時期、法令が指定された。政令は、遅くとも2013年12月15日までに、承認されなければならなかった。議会と政府は、単に気付かないふりをした。というのは、その時期、最も優先的であったことは、エネルギーに関する憲法改正だったからである。

 現在は、通信とラジオ放送に関する11の法律について、新しい政令と変更が発表される直前であり、テレビサが圧力をかけている。そして、今週、プロセソ紙が報じたところによると、テレビサとペニャ・ニエトとの政治的協定は、強化されている。

 テレビサとイウサセルは、合併直前である。脅し、交渉、有利なカバー範囲、ミチョアカンの危機が駆け引きされており、それらのことによって、政府は、マスメディアの問題について、便宜を図らざるを得ず、そのことによってまた、テレビ局大手の2社は、政府への便宜を請け合っている。

 ペニャ・ニエト大統領の任期の間、われわれは再び、より強くなったテレビサの支配下で、生きることになるのだろうか? 危うい状況にある。2012年、「私は132番目」の何百人もの若者たちや、情報の統制モデルに嫌気がさした人々や、「貧乏人のためのテレビ」というテレビサの見解にうんざりした大勢のメキシコ人が、デモ行進を行った。しかし、それらの人々の要求が実現されることは、疑わしくなっている。もう一度言うが、メキシコのメディアの制度の民主化は、危うい状況にある。


*1 クアトロ・ファンタスティコは、テレビサの重役4人。エミリオ・アスカラガ・ジャン社長、アルフォンソ・デ・アンゴイティア副社長、ベルナルド・ゴメス副社長、ホセ・バストン副社長の4人。

*2 トータル・プレイ・テレコミュニケーションズは、ケーブルテレビ、固定電話、インターネットをパッケージにして販売するサリーナス・グループの企業。

*3 サイマル放送は、アナログ放送からデジタル放送への移行期間において、アナログ放送と同じ番組を、同じ時間に、デジタル放送でも同時放送すること。

*4 マストキャリー・マストオファーは、アナログ放送からデジタル放送への移行期間におけるサイマル放送を義務化すること。

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