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米国をむしばむメキシコのペスト「ヘロイン」

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写真:チワワ州シウダー・フアレスのヘロイン中毒の男性(German Canseco)

J.ヘスス・エスキバル
Proceso 2015/03/27

 米国の国立健康統計センター(NCHS)は、ヘロインの乱用による米国人の死者が、この13年間で約37%増加し、ほぼ4倍になったとする報告書を発表した。

 この報告書は、25年以上にわたって麻薬問題に取り組んできたホーリー・ヘデガード医師、リー・ヒュウ・チェン医師、マーガレット・ワーナー医師が、米国の28の州における統計データをもとに研究を行い、今月発表したもので、都市部などでヘロイン中毒患者が増加し、危機的な状況であることを訴えている。

 報告書によると、2000年から2013年の間に、ヘロイン乱用による死者は、ほぼ4倍になった。2000年時点では、ヘロイン中毒による死者は0.7%だったが、2013年には2.7%になった。この 「異常なほどの」増加は、ヘロインが非常に安価であること、街中で簡単に購入できること、ヘロインの致死率の高さを国民に伝える公衆衛生プログラムがないことによるものだ。

 特に2010年から2013年は、ヘロインによる死者が急激に増加している。ヘロイン乱用による死者は、2013年だけで4万3982人にのぼった。2013年の12カ月間の死亡者数を見ると、男性が女性の4倍であった。2010年時点では、ヘロインは男性の死因の1.6%だったが、2013年には4.2%まで急増した。女性の場合、2010年から2013年で、0.4%から1.2%に増加した。

 NCHSの報告書によると、ヘロイン中毒で死亡した人の平均年齢は、2000年から2013年の間は、25歳から44歳の間で変動があった。2000年から2010年までを見ると、18歳から24歳の若者のヘロインによる死亡は、10%増加した。25歳から44歳では5%、45歳から64歳では4%増加した。

 人種別では、ヘロインの乱用による死者の大部分は、アングロサクソン系の人々だった。また、地域別では、アリゾナ州をはじめとする中西部の各州において、ヘロイン乱用による死者が多数発生した。例えば、西海岸や北西部では、ヘロインによる死亡率は0.9%であるのに対し、中西部では、4.3%に達している。

メキシコからやってきた毒

 米国麻薬取締局(DEA)の最新の報告書によると、米国で消費されるヘロインの大部分は、メキシコの麻薬組織(とりわけシナロア・カルテル)が米国に持ち込んだものだ。ヘロインは、麻薬密売人や使用者の間で、「カフェシータ」「ネグリータ」などと呼ばれており、覚せい剤よりも安価で、入手も簡単であるため、現在、若者たちの間で最も広まっている。

 DEAの報告書には、一年間にメキシコから米国に密輸されるヘロインの正確な量については記載がないが、フェニックスやアリゾナなどにあるDEAの事務所では、米国で消費されるヘロインの90%がメキシコから入ってくると考えている。DEAの行った調査によると、米国のアリゾナ州とメキシコのソノーラ州を隔てる国境地帯は、主要な麻薬輸送ルートであり、ヘロインの場合、ソノーラ州のノガレス市やアグア・プリエタ市のルートから、米国へ輸送されることが多い。

 アリゾナ州トゥクソンのDEA事務所を担当するアルローリタ特別捜査官は、先日行われた当誌の取材に対し、「シナロア・カルテルが、メキシコのヘロインのほぼすべてを動かしている。米国内での需要の増加によって、ヘロインは、マリフアナ、コカイン、覚せい剤よりも多くの金を、シナロア・カルテルにもたらすようになった」と答えた。

テロ対策で削減される麻薬対策予算

 NCHSの研究を手がけたヘデガード医師らによれば、「最も弱い立場の人々に焦点を当てることで、麻薬を使用する人の使用パターンを識別することができ、予防プログラムの作成に役立てることができる。しかし、米国には、麻薬依存の問題を解決・支援するための(国の予算による)国家プログラムがまだ存在していない。つまり、データは、麻薬依存についての米国政府の政策の挫折を証明しているということだ」

 NCHSの報告書によると、ヘロイン中毒が、将来、18歳から25歳の米国市民の主要な死因となる可能性は否定できず、また、ヘロイン中毒の死亡率が、ガンなど致死率の高い病気の死亡率をはるかに上回るようになる可能性もある。米国では、政府や市民社会において、ヘロイン問題をマリフアナの合法化と絡めて議論することが多くなっているが、「ヘロインは致死率が高く、中毒性も極めて高いため、ヘロインの使用は、決して合法化されるべきではない」

 ホワイトハウスの薬物取締政策局(ONDCP)は、ヘロイン対策は最優先課題であるとのコメントを出した。しかし、ヘデガード医師ら専門家は、「現在のところ、ヘロイン依存を未然に防いだり、すでに依存している人を更生させたりするための国家プログラムは存在しない」と考えており、米国の保健当局には、この重大な問題を抑止するための政策もなければ予算もないことを強調した。

 米国の上院で3月9日に承認され、ONDCPの局長に就任したばかりのマイケル・ボトチェリは、指名承認公聴会で、「ヘロイン問題にどう取り組むつもりか」と問われ、「対策に必要な予算を割り当てる」と答えた。

 2001年9月11日に起こったニューヨーク、ワシントン、ペンシルバニアでのテロ以降、ホワイトハウスが、メキシコからの麻薬密輸と米国内での麻薬消費の問題をおろそかにしてきたことについて、DEAなどの麻薬関係当局は、不満を漏らしている。

 米国司法省の管轄下にあるDEAの現在の予算は、2001年と比べると、大幅に削減されている。米国政府は、麻薬密売・麻薬使用を撲滅する対策のための予算を削り、削った予算をテロ対策とその関連機関に割り当てている。

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