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プエンテ・グランデ刑務所を訪問して

プエンテ・グランデ刑務所には、判決を待つ被告人が収容されている拘置所があり、そこには、「危険にさらされている」と見なされる服役者のための別棟がある。この別棟の一角が、ホモセクシュアルやトランスジェンダーなど、社会から排除された人々に割り当てられている。これは、軽窃盗罪で起訴されているある服役者を訪問した記録である。彼は刑務所の中で、仲間たちと共にすし詰めにされ、烙印を押されながらも、人生を少しでも生きやすくするために努力している。

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写真:プエンテ・グランデ刑務所 (Diego Blanco)

アナ・G.ロサーノ
Proceso 2013/04/05

 「目立つ色の服を着ていかないでね。白も黄色もオレンジも緑も青もだめ。上着とか、かさばるものもだめ。葬式に行くような格好をするのよ。ああ、それから、ワイヤー入りのブラジャーを着けてこないで。着けてきたら脱がされて、徹底的に調べられるから。そうしないと、中に入れてもらえないのよ」と、マルティーナ・デ・ラ・クルスさんは、記者の女性に言った。

 マルティーナさんは、早朝3時半に起きた。5カ月以上前から、土曜日は毎週その時間に起きている。シャワーを浴び、身支度を整え、息子に差し入れる食事を準備した。彼女の息子は、軽窃盗罪で起訴され、ハリスコ州のプエンテ・グランデ刑務所に収容されているのだ。

 マルティーナさんは、朝の6時少し前に家を出た。始発バスに乗って新バスターミナルまで行き、そこからはタクシーに乗った。タクシーは、刑務所の入り口より2キロメートル以上手前で彼女を降ろした。

 3月2日土曜日の朝8時、マルティーナさんが姿を見せた。差し入れが入っているプラスチック製の手提げ袋を二つ下げ、長女と共に、ゆっくりとした足取りでやってきた。二人とも黒い服を着ている。二人は、刑務所の外の面会者の列に並んだ。この刑務所の定員は3000人だが、7000人以上が収容されている。

 拘置所の面会者の列は、男性刑務所の面会者の列よりも長かった。女性刑務所の面会者はいない。女性の服役者には、ほとんど誰も会いに来ないのだ。しかし、男性の服役者に面会に来る人々の大部分は、母親、妻、姉や妹、娘、友人など、女性である。子供から老人まで、あらゆる年齢の女性たちと、ごく少数の男性が面会に来るが、その男性というのは、母親に手を引かれた子供のことだ。

 この日、面会の列に並んだ人々の中には、ホモセクシュアルやトランスジェンダーの人々もいた。彼らは、第2棟の「別棟」にいるパートナーや友人に面会に来たのだ。「別棟」には、「危険にさらされている」と見なされる服役者たちが収容されている。

 グスタボは、マルティーナさんの息子のフアンを訪ねてきた。グスタボとフアンは、小さいころからの友達で、ホモセクシュアルであることを共にカミングアウトした。しかし、グスタボは仕事を見つけるために、良い成績で高校を卒業することに力を注いだ。一方、フアンは、数学で後れを取り、授業ではなくパーティーに行くようになった。今ではグスタボは、毎週土曜日、フアンだけでなく、フアンと同室の魅力的な若者にも会いに来ている。

 朝10時前、刑務官数人が、服役者の直接の家族ではない面会者に対し、列から出て身分証明書を渡すように威圧的な口調で命じた。中に入るには、身分証明書に赤鉛筆で、服役者の舎房番号と入場許可番号が記されていなければならない。服役者はあらかじめ、面会者の姓名と続柄を答えておく必要がある。刑務官によるチェックが終わると、身分証明書は持ち主に返却される。

 この手続きを終えると、次は服従が鍵となる。刑務官に直接話しかけたり、釈明や質問をすることは、それがいかなる内容であっても制裁が加えられる。「刑務官に反抗的な態度をとった」として、叱責を受けたり、列の最後尾にまわされたり、面会をキャンセルされたりするのだ。この日、ある女性は、刑務官に名前をからかわれるのを耐えなければならなかった。

 1時間後、ロッカーを借りて、鍵、指輪、ピアス、ブレスレット、財布、携帯電話、上着、ヒールの高い靴やその他の衣類など、持ち物すべてを預け、再び列に並ぶ。しかし、規則は刑務官には適用されない。ある女性は、列に並んでいなかったが、刑務官の一人と知り合いだったため、刑務官はその女性を列の先頭に連れていき、最初に入らせたのだ。この第2の関門では、大勢の面会者が、服装の規則を守っていないことを理由に追い返され、翌週出直すことになる。

 第3の最終関門は身体検査だ。ここで女性と男性が分けられる。女性たちは4人ずつ、刑務官が質問を行う小部屋に呼ばれる。「服役者と知り合った場所は?」 「いつごろ知り合ったのか?」 「面会の目的は?」 「服役者の姓名は?」 「服役者の舎房番号は?」 「逮捕されたのはいつか?」 「一緒に逮捕されたのは誰か?」 「罪状は?」 面会者が正確に答えると、刑務官は靴を脱ぐように言い、その靴を念入りに調べる。

 それに続いて、前後から身体に触れる身体検査がある。マルティーナさんが注意したように、刑務官は、禁止されているものを持ち込んでいないか探すため、ブラジャーの前面を手で触る。2010年までは、この刑務所では膣内の検査が強制的に行われていが、苦情が出たため、ハリスコ人権委員会がこれを禁止した。

 刑務所に入ると、服役者たちが親切に迎えてくれる。微笑み、あいさつし、食事が入った手提げ袋を持ってあげ、面会する相手がいる部屋まで案内し、そのお礼に小銭をもらう。マルティーナさんはすでに内部を知っていて、第2棟まで記者を案内した。そこには、元役人やホモセクシュアルの人々と共に、危険度の高い服役囚も収容されている。

 服役者たちは中庭で待っていた。大抵は、ベージュのズボンと白いTシャツを着用しているが、ホモセクシュアル、トランスジェンダー、トランスセクシュアルたちは、ぴったりした白い服を好んで着用している。面会者が家族や友人であることが確認されるまで、服役者も一列に並んで待つ。服役者のうち10人くらいは、太陽の下で待ちぼうけを食った。面会者がいずれかの関門を通過できず、面会を果たせなかったことを、知らせてあげる人はいない。

「ハリウッドへようこそ」

 この別棟は、二階建ての二つの建物からなっている。右側の舎房(10、20、50、60番台)には、殺人や誘拐で逮捕された服役者や、元役人たちがいる。左側の舎房は30、40、70、80番台で、軽犯罪、特に軽窃盗罪の服役者がいる。ホモセクシュアルたちがいるのは左側の二階だ。

 正午近く、フアン・トーレス、通称「ジェニファー」は、第2棟の82番舎房で休んでいた。21歳。昨年の9月26日に一緒に逮捕された友達のニコルやラ・パチスと共に、この刑務所に来て5カ月になる。グアダラハラ市ロマス・デル・パライーソで、タクシー運転手から金品を盗んだ件について、第6法廷が保釈金の額を決定するか、判決を下すのを待っているのだ。刑務所行きを回避する手続きのために弁護士が要求した5000ペソ(約4万円)を調達することができず、保釈金を払えば保釈されるかどうかもわからない。

 「ハリウッドへようこそ!」とフアンは言って両腕を広げ、舎房の狭さを示した。約5メートル四方に、トイレ、台所と、コンクリート製の粗末なベッド4個がある。ベッドには毛布を何枚か敷いて、硬さを和らげてある。床をモップでふいたばかりで、漂白剤のにおいがする。シーツが何枚か、カーテンの代わりに掛かっていた。この部屋の6人のうち、3人は床で寝ている。「でも運が良かったの」とフアンは言う。「他の部屋では、一部屋に15人も詰め込まれて、みんな立ったまま寝るんだから」

 フアンのベッドの上には、レインボーフラッグと木製のロサリオが掛かっている。小さなテープレコーダーから電子音楽が流れている。

 フアンは背が高く、カラー・コンタクトレンズを使用しているため、瞳は緑色だ。痩せた体には最近変化が起きている。というのは、ずっと使用していた女性ホルモンを使用できないため、今は胸が小さくなっているからだ。話しながら、ピンクのリボンを結んだ短い黒髪をなでる。刑務所に入ったときに、長い髪は切られてしまったそうだ。「腰まであったのよ」

 フアンは、ベッドに座って食事をするように、グスタボと母親と記者を愛想よく招き入れた。刑務所では、食器はすべてプラスチック製で、調理用の水はバケツか大きなペットボトルにためておく。それはここでは、一種の贅沢だ。

 いつもの土曜日と同様、この日も、ラ・パチスとエル・アマリージョが食事に招かれる。エル・アマリージョは30歳代のホモセクシュアルで、この別棟は他の場所よりずっと安心できると言う。

 「それで、あなたはなぜ、ここにいるの?」と、記者はエル・アマリージョに最初の質問をした。

 「無実の罪だよ。やってもいない人殺しで、25年も求刑されてる」

 「殺していないの?」

 「そいつのことはね」と笑う。

 エル・アマリージョとフアンとラ・パチスは、「本物の食事」をするために即席で設けた小さなテーブルの周りに座っている。刑務所の食事は不衛生だから、マルティーナさんが持ってきたマカロニ・サラダはごちそうだと彼らは言う。幸運にも、食事を入れたタッパーと清涼飲料水は、特別厳しい検査を行う別棟の刑務官のチェックをすべて通過した。厳しくチェックするのは、刑務官の話によると、テトラパックのジュースにまで、麻薬を混ぜてくる場合があるからだ。

特別な時間

 食事が終わると、フアンは語り出した。フアン、ニコル、ラ・パチス、ティフィーは、9月26日の明け方、カウディージョスというバーを出てタクシーに乗った。フアンは、自分が住む町の入口まで来たとき、同乗の友人をもっと先まで乗せていってくれるように運転手に頼み、料金は友人がまとめて払うと言った。フアンが車を降りてドアを閉めたとき、言い争いが始まった。というのは、運転手がフアンたちに、今すぐに支払うように要求し、即座にナイフを出してきたからだ。フアンたちは逃走したが、ごたごたの中で260ペソ(約2100円)とCD数枚、ステレオのカバー、たばこ3本を運転手から盗んだ。警察は数分後、盗品を所持していた彼らを逮捕した。

 マルティーナさんが語るところによると、当初、その年配の運転手は、告訴をしない代わりに、逮捕された4人の家族に6000ペソを要求していた。しかし、金が集まったとき、家族はすでに告訴がなされていることを知った。軽犯罪であるため、1人につき5000ペソで保釈されるはずだった。ニコルはクロナゼパムの薬剤を所持しているのを見つかったため、保釈金は倍額だった。しかし、4人の家族は保釈金を調達することができず、4人とも拘留された。ティフィーは未成年であったため、短期間で出所した。

 「刑務所に行くのは貧乏人だけよ、記者のお嬢さん。お金を持ってる人はすぐに出ていくの。ここには色々な人がいるわ。隣の部屋には、おばあさんから200ペソ盗んだ人がいるけど、まだ判決が出ていないの。別のホモセクシュアルの子は、繁華街で偽物の指輪を3個盗んだんだけど、ここから出られそうにないことがわかって、自殺したわ。普通、タクシー運転手ってお札をたくさん持ってるって思うでしょ。でも、本当はみんなと同じ、貧乏してるのよ。不景気って平等に襲いかかるのね」と、ラ・パチスは、ピンクのマニキュアの爪を見つめて言った。

 フアンの裁判の状況について記者が質問すると、マルティーナさんは、第6法廷での事件番号は439/2012号で、息子の国選弁護人には会ったことはないが、マルタ・ロペスという名前だとは知っている、と答えた。しかし、フアンもマルティーナさんも、このような話で面会日を無駄にしたくはないようだった。フアンは母親と姉の手を取り、庭を散歩した。特別な時間だった。

 中庭の周囲の共有スペースは、面会者が来た日だけ利用できるのだ、とフアンは言った。家族が集まり、屋根のある共有スペースで、中庭やバスケットボールのコートを眺めながら食事をするのだ。小さな水遊び場まである。

 この中庭では、服役者たちが即席の屋台を作り、民芸品(大抵は石のブレスレットやロサリオなど)を売っている。フアンは手作りの絵葉書を得意気に見せた。フアンは、刑務所の中でこの絵葉書を作ることを、正式に許可されている。

 建物の後ろには、大工仕事の作業場があり、服役者が作った小物入れや衣装ケース、額縁に入れた絵、彫刻、写真立てなどが売られている。この中庭に、大人気の屋台がひとつあった。音楽と笑い声が聞こえてくる。屋台の壁には看板が掛かっている。「本日のおすすめ:無料でカミングアウトできます! 厄介事にも迅速に対応。奇跡を起こす場合はお時間いただきます。UFO修理、移植、脂肪吸引、タイヤ継ぎ当て、遺産受け取り、何でもやります。」 この店のマルティンは30歳、殺人罪で4年服役している。

 すぐそばでは、神父が壇上で、5人の信者を前にミサを行っている。ここでは確かに、5人の服役囚が、祈祷書を手に祈りの言葉をつぶやいている。一方、他の服役者たちは、洗濯物を干したり、上半身裸で腹筋運動や腕立て伏せをしている。

 面会者が来なかった服役者の多くは、共用のサロンのプラズマテレビの前で、無料チャンネルの映画を見ている。プラスチック製の椅子で眠っている者もいる。

 面会時間が終わりに近づいた。あちらこちらで抱擁や別れのあいさつが始まった。フアンと母親は時計を見る。人前で涙を流さないように、服役者が経営する食料品店に行き、菓子パンをひとつ買って二人で分けた。ペアになってチェスをしていた服役囚たちは、フアンの面会者のための椅子が足りないことに気づき、立ち上がって椅子をすすめた。

 「親切だからって驚かないでね、お嬢さん。ここではどんな犯罪者でも、面会者に敬意を払うの。面会者は、刑務所に少しだけシャバの風を運んでくるから、神聖なの。でも面会者が帰ってしまうと、刑務所の中の生活は、また元の灰色に戻ってしまう。それでまた、本物の戦いが始まるの」と、母親とパンを食べながら、フアンは言った。

 別れの時が来た。皆、黙り込む。退出する人々の列が長くなる。なぜなら、面会者は午後3時には刑務所の外にいなければならないからだ。フアンは立ち上がり、母親にキスをし、入り口の鉄格子まで送ってきた。

 フアンは、母親と姉に、自分と友達のための本物の食事を持って、またすぐに会いにきてくれるように頼み、彼が作ったブレスレットを近所で売るのを忘れないように言った。そして、髪をなでながら記者に言った。「来てくれてありがとう、お嬢さん。早くここから出たいわ。また髪を伸ばしたいし、お化粧したり好きな服を着たりして、もっときれいになりたいから」

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