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フラッキングの真実 (4)環境リスク:水の汚染

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写真:ペンシルベニア州ファイエット郡

 フラッキングが環境と健康に及ぼす悪影響については、フラッキング推進派・反対派を問わず、世界各国の関心が集まっている。石油・ガス関連業界からの強い働きかけを受けて、政府がフラッキングを推進する国がある一方で、フラッキングには大きな危険と損害が伴うとする調査結果に基づき、反対の立場をとる国、専門家、地域社会がある。しかし、この問題は、現実的には政治と経済の問題だ。というのは、そもそも「大企業の利益」と「環境保護」は相いれない問題であり、政府は、大企業の利益を優先するからだ。

 フラッキングが環境に与える影響を調査する場合、使用できるデータの質や量が十分ではないため、解明できない部分が非常に多く、調査は困難を極める。しかし、現在までに行われた調査の結果と、フラッキング地点の近隣集落から寄せられた報告を見ると、フラッキングが環境を悪化させ、損害を与えたことは現実であり、否定しようがない。

フラッキングが環境に与える損害

 石油・ガス関連の専門家と企業が行った調査によると、フラッキングという技術には、現時点で最新の素材や技術を使用しても、避けることができない特有の問題がある。たとえば、地中で生じる想定外の亀裂、地震活動の誘発、メタンガスの大量漏出、井戸の被覆の劣化などだ。

 フラッキングの技術全般は改善されてきているが、地中で起きることは完全には予測できることではなく、従って、予想外の亀裂が生じて有害物質が漏れ出すことも、完全には避けることができない。

 近年、フラッキングの危険性が次々と証明され、その情報を広める努力が行われているが、政府は、法整備によるリスク・コントロールを実現できていない。つまり、フラッキングによる損害の個々の事象については知られるようになってきたが、長期的な視点での環境リスクについては対策が取られておらず、将来、甚大な損害を引き起こす可能性がある。

フラッキングの環境への影響

 フラッキングには、環境に影響を与える、または与えると考えられているプロセスが、多数存在する。主なものを以下に挙げる。

 ・水の大量消費、および廃水が地表や地下の水循環に漏出すること
 ・水源の枯渇
 ・有害廃水の大量発生と、廃水処理が困難であること
 ・地下水・地表水の汚染
 ・大気汚染
 ・地中のガスや注入したフラッキング水が地表へ移動すること
 ・フローバック水(フラッキング時に地下に注入した水が地表に逆流したもの)による土壌の汚染
 ・地震活動の誘発
 ・騒音
 ・景観が損なわれる
 ・生物多様性への影響

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写真:フラッキング前後の同じ場所の写真

 これらの影響のほかに、採掘されたガスを輸送する大型車両が多数通行することや、採掘のために土地が占有されることなども、考慮しなければならない。

【フラッキング水】

 地下の岩石に亀裂を入れるために使用される水は、フラッキング水と呼ばれる。フラッキング水には0.5~2%の化学物質が添加されているが、その化学物質の環境リスクについてはほとんど知られていない。フラッキング水が環境と人体に与える影響は、添加された化学物質によって異なるが、米国では、フラッキング用の化学物質の大部分が安全飲料水法の規制対象外となっているため、企業は化学物質の名前を公開する必要がない。そのため、フラッキング時に地中に注入される水(フラッキング水)やフラッキング後に地表に戻ってくる水(フローバック水)に含まれる化学物質の性質、濃度、量について、情報が存在しない。

 その結果、米国では、フラッキング水が環境や人の健康にあたえるかもしれない悪影響について、関連機関や国民が評価を行うことが、実際にはできない。米国のフラッキング技術を導入している国々では、状況はさらに深刻だ。それらの国々では、リスクの情報なしに技術を導入しているため、最低限必要な法規制さえないところがほとんどである。

 このような状況に対する各方面からの圧力が高まったため、フラッキング業界は、フラッキング水に含まれる添加物の情報を公表するための「フラックフォーカス」というデータベースを、政府主導で作成した。しかし、フラックフォーカスに情報を掲載するかどうかは任意であり、使用された化学物質についても、特許のあるものは製品名が非公開となっている。注入したフラッキング水の性質を、企業が正しく申告したかどうかを調べる手段はないということだ。

 フラッキングでは、莫大な量の水が使用される。通常、大規模なフラッキングでは、井戸1基あたり450万~1320万リットル、大型プロジェクトのフラッキングになると、1900万リットルもの水が使用される。同じ井戸を再フラッキングする場合には、さらに多くの水が必要になる。

 また、井戸が掘られてから廃坑となるまでに使用される水は、井戸1基あたり平均9000~2万9000立方メートル(900万~2900万リットル)と考えられている。そのため、温暖な気候の国々では水不足を引き起こす可能性があるし、乾燥した土地では、水の供給が制限されたり、水ストレスが増加する可能性がある。

 通常、フラッキングのための大量の水は、川から確保したり、自治体や水力発電プロジェクトからの供給を受けたりしてまかなっているのであるが、いずれにしても、家庭や地域のために利用できる水の量を著しく減少させる原因となっている。

 フラッキングと水の関係で特に注意すべき点は、フラッキングで使用された水は、a)地下の井戸にとどまるか、b)回収されて他の井戸に再度注入されるか、c)フラッキング廃水として処理するために地中の深い井戸に埋められるため、自然界の水の循環には二度と戻らないことだ。つまり、汚染の問題を別にしても、フラッキング水は、そもそも水循環に戻されないという問題がある。

 フラッキング水は、オペレーションによってできた亀裂から周囲の岩を通って漏出する。漏出防止処理を行っていない場合は、注入されたフラッキング水の70%以上が漏出する可能性がある。また、漏出したフラッキング水が原因でデータに誤差が生じ、フラッキング水に想定外の影響を与え、亀裂が計算通りにいかなくなり、生産性が減少することも考えられる。

 複数の資料によると、フラッキング水の15~70%が、地中のガスと共に地表に逆流して戻ってくる(フローバック水)。それ以外にも、開発が終了して放置された井戸から逆流する場合や、井戸以外の経路から逆流する場合もある。フローバック水が地表に戻ってきたら、廃水処理を行うか、漏出しない方法で廃棄しなければならない。

 フラッキング水の化学物質が地下水や川などの水源を汚染しないように、対策が取られてはいるが、その対策も万全ではない。すでに多くの水源が汚染されてしまったことは、データが示している。

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写真:フラッキングによる採掘現場の泥

【フローバック水と廃水処理】

 フラッキングにおいて、解決が最も難しい問題のひとつに、廃水処理の問題がある。フラッキング水には多数の化学物質が添加されているが、その添加物の名称や性質は企業秘密となっていて、よく知られていない。そのため、フラッキング廃水の毒性を特定することは困難である。

 現在までのところ、フローバック水の有効な処理方法は存在していない。そのため、フローバック水は他の用途に使用することも、水循環に戻すこともできず、隔離してためておくか、廃水用の井戸に注入する処理が行われている。しかし、廃水用の井戸から漏出した廃水が地下水を汚染していることが調査によって明らかになっているため、廃水が適切に処理されているとは言えない。

 マサチューセッツ工科大学(MIT)が2011年に行った調査では、米国のいくつかの地域で、天然ガス(メタン)が飲用水の水源に漏れ出ていることがわかった。また、同じ年に行われたコロラド公衆衛生大学院とデューク大学の調査は、フラッキングにより地下水がメタンで汚染され、水質に悪影響が及んでいることや、最悪の場合には爆発を引き起こす可能性もあることを指摘した。

 フラッキングのプロセスの中で溶け出す物質は、重金属、炭化水素、放射性元素などで、危険性が非常に高い。

 フローバック水の廃水処理の方法には、地下に注入する、自治体の廃水処理施設で処理する、産業廃水として処理する、プロジェクト内で企業が独自に管理する、別のフラッキングに再利用するなどがある。

 フローバック水を再利用する過程は、複雑で時間がかかり、必ずしも効率的ではない。新たに化学物質を使用しなければならないし、フローバック水に含まれる塩(えん)、有機物、重金属などの固形物の総量が一定量を超えている場合、再利用することはできない。フローバック水を処理する施設の中には、水中に含まれる大量の固形物を取り除くことができない施設があるからだ。

 また、採掘された資源が石油である場合は、フラッキングに使用された物質が含まれている可能性があり、それらの物質が輸送のための貨車のタンクや石油パイプラインの腐食を加速し、漏出の原因となる危険がある。

【放射能】

 フラッキングのオペレーションでは、地下の岩石に含まれているウラン、ラジウム、ラドン、トリウムなどの放射性元素が、フローバック水と共に地上に流出する場合がある。つまり、フローバック水には放射性物質が含まれている可能性があるということだ。前述した通り、フローバック水の再利用には限界があるため、人の健康に取り返しのつかないダメージを与える可能性がある。

(ラ・ホルナーダ・エコロヒカ216号 2018/02/03)

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